サン★ロレンツォの夜

La notte di San Lorenzo
1982年イタリア
パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ監督
オメロ・アントヌッティ、、、ガルヴァーノ
マルガリータ・ロサーノ 、、、コンチェッタ
ミコル・グイデッリ、、、セシリア
特に突出した演技者はおらず、たくさんの役者が群衆として演じていた。
この兄弟監督に興味をもって観てみた。
パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ監督、前回の強烈無比な「父 パードレ・パドローネ」で初めて知った。
兄弟監督では、コーエン兄弟は「バートン・フィンク」 、「ファーゴ」などで知っていた(お馴染みであった)が、、、。
兄弟で監督をするのはどういうものなのだろう。監督を共同作業で行うわけだ。
ユイレ=ストローブみたいに夫婦監督もいる。
共同監督だ。
どちらにしても気心は深く知れているだろうし、、、個性もセンスも分かっているし、、、でも共同で作るってシンドくはなかろうか。
~今夜はサン★ロレンツォの夜~流れ星が流れるたびに願いが叶うという。
今夜はあなたにきかせてあげたい。ずっと昔のサン・ロレンツォの夜を~
第二次大戦末期のトスカーナ地方である。
村を破壊しつつ撤退するドイツ軍から逃れ、アメリカ兵との接触を求めて彷徨う主人公たち一行の姿が陰影を込めて描写される。
彼らは、次々にドイツ軍の爆破を受け大切な仲間を失う。教会の爆破で新婚の妊婦が殺され担ぎ出される折り、その母親と神父との対峙する姿は、彼らの追い込まれた極限的状況を見事に表していた。
「自分でやります!」という母に、神父はただ力なく腰を落とすしかない。
信仰の力ではどうにもならない、あからさまな現実がはっきりあった。
しかしこの物語の構造は、母親の少女時代の視座から半ば御伽噺めいた口調で語り聴かせるものである。その世界は、基本的に毎日が「楽しい」のだ。目の前で人が殺されても、卵をお尻で押しつぶしてしまっても、ドイツ兵にコンドームの風船をもらっても、様々な経験なのだ。そこに戦争にどうしても過剰に押し込められる重々しいイデオロギーのフィルターは感じられない。
悲惨な戦争の実態が描かれてゆく映画ではあっても、独特な明かりと軽やかさを感じさせるもので、昨日見た映画に共通する雰囲気を湛えている。
この独特の孤高で結晶化した雰囲気こそがこの監督(たち)の基調を成すものだろう。
アメリカに渡ることを願い、独りで飛び出した若い女性がドイツ兵に撃ち殺される場面での、幻想の儚い美しさ。
あのように死ぬときは、きっと全てが叶ったかのような幸せな幻想に包まれるのだろうとリアルに感じるものだった。
ビザンチンの甲冑を着た戦士たちが、ファシストの戦士をたくさんのヤリで射殺す幻想など、象徴的で寓意的な場面が散りばめられ進行してゆく。
語り部の少女の心象が煌きながら描写される。
(これは、語るとしたらどのように語るのか、、、)。
途中でパルチザンと合流する。
彼らは皆、稲刈りをしてひと時を過ごし、そこに残る者は新たな名前を持つことになる。
そして、例の願いが叶うというサン・ロレンツォの日に、ふいに黒シャツのムッソリーニ親衛隊と交戦となる。
敵も仲間もほんとうに呆気なく撃たれ、呆気なく死ぬ。しかし敵と味方といっても同国人同士だ。昔馴染みもいたりする。
西部劇みたいなスリリングなリズムもない。そう、何とも間が悪いのだ。
麦畑で突然対峙して、そこでドギマギしてようやく撃つ。決して手馴れた早撃ちなどではない。
老人が鍬を振り上げたはよいが、それが藁の束に刺さり、引き抜こうとしているところを後方から撃たれたり。
ファシストの妙な親子の奸計にはまり、パルチザンや主人公たちの仲間が殺される。
当然、息子は父親の教育(洗脳)で相手を欺き、殺す仕事を覚えてきたはずだ。
親子である以上、選択の余地もなかろう。
この監督は、このような宿命の父子を描かずにいられないものがあるのだろうか。
昨日は、自分たちを名前で呼んで働かせてくれるドイツに移民で出てゆく夢を描く場面などがあったが、、、ここでは、ドイツは信用出来ない敵であり、主人公たちはアメリカ兵に助けを求め当てのない旅をしている。
昨日の少年は、無知蒙昧な奴隷的状況からも、研ぎ澄まされた感性と感覚によって、それはまた音楽による覚醒から自身を救った。
今日の少年には、その機会もなかったようだ。
映画には、ヴェルディの「レクイエム」が流れていた。
彼はパルチザン側に見つかって、射殺される。ファシストの父親もそれを目の当たりにし自殺する。
どうも、父子の関係は析出してくる。(あくまでエピソード的扱いだが)。
しかし一晩が過ぎ、自分たちの村の解放が告げられ、、、
窓を開け放てば、雨に煌く陽光と麦。
世界は只管、澄み渡って涼やかであった。
大人たちの心象がこの少女と同様のものとなる。
生き残ったものたちは皆、帰ってゆく。

- 関連記事
-
- 現金に手を出すな
- 森崎書店の日々
- サン★ロレンツォの夜
- 父 パードレ・パドローネ
- サンクタム