ファントム・オブ・パラダイス

Phantom of the Paradise
1974年アメリカ
ブライアン・デ・パルマ監督・脚本
ポール・ウィリアムズ音楽
ウィリアム・フィンレイ、、、ウィンスロー・リーチ(作曲家)
ポール・ウィリアムズ、、、スワン(音楽プロデューサー)
ジェシカ・ハーパー、、、フェニックス(女性歌手)
ポール・ウィリアムズの曲に本当に久しぶりに聴き入った。
思わず「オールド・ファッションド・ラヴ・ソング」を聴いてしまったではないか。
(電気グルーブがリミックスでもすれば生き返る曲だと思った)。
彼はスワンという、大衆の欲望を一身に体現したかのような悪党を怪演していた。
如何にも1970年代を感じさせるが、それは古さではなく、その頃の香りと不思議な魅力に溢れたものである。
こういった類の作品はあまり見てこなかった為、新鮮な映像・サウンド体験と言えようか。
分割画面の映画も余り観ては来なかったが、スピード感と密度を増す効果がよく出ていた。
演出もカメラワーク(目線)も、独特の個性が感じられる。
長回しは余り気にならなかった。
ところで、これはロックのミュージカルなのか?兎も角、全編にポールの曲が満ちていてなかなかに心地よいものだ。
Carrie (1976)は、持っていてまだ見ていないが、こちらも観たくなった。
(ちなみにクロエ・グレース・モレッツ主演のキャリーは観ているが、見比べてみたい)・
さて、話は自分の作った快心の曲「ファウスト」が、悪徳プロデューサーに盗まれたうえ無実の罪で投獄され、果ては自分が全く認めない歌手(グループ)にそれを唱われるという屈辱に怒りを爆発させ、それを阻止しようとレコード会社?に脱獄して飛び込むのだが、あろう事か(不運にも)レコードプレス機に頭を挟まれ、顔と声を激しく損傷してしまう。
彼はプロデューサー・スワンに復讐を誓うが、自分が唯一認めこころを寄せているフェニックスにその曲を唱わせるという条件で、スワンのパラダイスというライブステージに曲を書き直して提供する契約まで結んでしまう。
ウィンスローにとっては、ただ純粋に良い曲を書き、優れた演奏によってそれを発表したいという意欲が優ってしまったと言えようか?実際そこにつけ込まれたと言える。相手は途轍もなく悪賢く、彼は余りにお人好し(純粋なミュージシャン)過ぎた。
結局、彼はまた妙な歌手に渾身の作品が唱われ、自分はレコーディングルームに監禁された。
また騙されたことに完全に怒り狂い、ファントムとなって(仮面の怪人となり)、復讐を果たしてゆく。
だが、自分が認め信じるフェニックスまでがスワンに奪われ、自暴自棄になり自殺を図る。
しかし、ここで例の契約書の恐るべきカラクリを知ることとなる。
彼が契約したのは、悪魔との契約書であり、すでにスワンは不老不死の契約を済ませていた。
そして、その契約書には、スワンが滅ぶまで、ウィンスローも死ぬことができない定めとなっていたのだ。
彼は、舞台上でフェニックスとの結婚式を執り行い、その最中に彼女を殺し、話題を更に沸騰させようと企んでいた。それを悟った
ウィンスローは、自身の死を前提にスワンの契約のビデオを焼き、その実効性を解いてしまう。
スワンもウィンスローも諸共に滅ぶことになる。
舞台であっけらかんに唱われる歌詞が又、振るっている。
「なんのとりえもなく 人にも好かれなければ
死んじまえ 悪いことは言わない~」
思えば、随所に面白いシーンがあった。
ウィンスローの曲をオーディションに来た歌手たちが自分のアレンジで次々に唱うのだが、それぞれの音楽スタイルで個性的に決まっていて、その唱い分けが印象的であった。別テイクアレンジ版で全部レコードに入れても面白かろうに、、、と思った。
オドロオドロシイ演出で固めた、ウィンスローの曲を演奏するビーフのステージは、そのステージ単体として観ても結構引き込まれる楽しさ、見栄えがあった。
すぐにビーフはファントムに逆らいステージに出たため感電死させられるが、ステージひとつ観たい気分になってしまった。
(ロッキー・ホラーショーか、、、)
ウィンスローの声を失ったがチューニングを介して声を蘇らせるそのミュータント然とした姿が、なんともソフトマシーン化していた。仮面から目をむき、キーボードを革手袋をして弾いて唱うところには何とも魅入ってしまった。
へろへろしていたウィンスローがいざ自分の曲と彼女が危機に瀕する事を知ったとともに、自分を監禁するためにレンガで固められた部屋を突き破って飛び出してゆくなど、仮面(損傷による諦観)ーファントムの力も相乗作用して、強靭で超人的な力を炸裂させる場面の説得力と迫力は充分あった。
やはり源は純粋な音楽の力であろう。
それだけのものが音楽にはある。
「全ての芸術は音楽の状態に憧れる。」
かなり爽快であった。
「生きたところで負け犬
死ねば 音楽ぐらいは残る~」
先の身も蓋もない曲から。