アパートの鍵貸します

The Apartment
1960年アメリカ
ビリー・ワイルダー監督・脚本
ジャック・レモン、、、バド
シャーリー・マクレーン、、、フラン
初見である。
これまで所謂名作というのをほとんど見ないできたため、、、。
この作品は実に面白かった。
テニスラケットがスパゲティ茹でるのに便利なことを初めて知った。
やってみたいとは、思わないが。
この映画のような管理職の浮気用に部屋を貸すバイトがあるのかどうか、、、。
あったとしても、表には出ないはずだし、あってもおかしくはないだろう。
(何を言ってるのか?)
これによって、主人公バドは、トントン拍子に出世する。
コメディである。が、かなり切ない展開となる話である。
彼が密かにこころを寄せるエレベーターガールのフランがベッドに落ちていた割れた鏡から部長の愛人であると知り、穏やかではない。
だが、その愛人密会の場の提供で出世してきている当人である。
どうにもならない。
しかもフランと部長の関係が拗れ、彼女が事もあろうに彼が貸した部屋で自殺未遂。
その彼女を甲斐甲斐しく面倒を見るバド。
彼女に対して彼は常にこのように自分の気持ちを殺し、献身的に彼女の身になって面倒を見る。
両者を取り持とうとして彼女の義兄に殴られても痛みすらはぐらかす。
しかし、これは彼女の言うとおり、利用するものとされるものの権力構造のなかでのこと。
ポストは与えられても、人を利用しては使い捨てる非情な上司の奴隷に過ぎない。
ペーソスたっぷりの黄昏た人生を歩むのみである。
しかし、徐々にこのマゾヒスティックな主人公に感情移入して応援してしまうのだ。
役者ジャック・レモンが上手い事もあるが、してやられたものである。
筋書きはほとんど、どうでもよいものであるが、それをこれだけ面白可笑しくく悲哀も込めてこってり描き切る手腕が凄い。
これをもって、「エンターテイメント」と呼ぶのか、所謂「映画」と謂うのか。
最後は渋い上等なラブ・ロマンスを観た気になっている。
(恐らくそうなのだ!ラブ・ロマンスとはこうなのだ)。
プロットに隙がなく小物(割れたコンパクトやティッシュ、TVにラケットやレコードやナプキン、ピストル、、、)も実に上手く活かされている。
機微に触れる演出も上手い。
盛り上がって振り返ると彼女の席が空。
ピストルの音かと思えばシャンペンの音。
彼女に見切りをつけるかのように関係ない女性を示し、そちらの方向に進むと他の男性と腕を組みその女性が消えてゆくなど。
こういう演出が作品の吸引力を増してゆく。
もうバドとフランは絶望的であると思われる。
離婚し完全にフリーになった部長は、彼女との結婚を決めてしまった。
しかし、他者を支配し利用することに無感覚な彼の精神に対し、バドは決然とNoをたたき突きつける。
バドは、”Mensch”になるべく、全てを放り出し柵から決別する。
フランも誰が本当に大切なのかを部長の話から認識する。
その結果、真に欲しいものを知り手に入れるのだ。
何か象徴的である。
そうだ。
人生というものは、そういうものなのだと思う。
まず自分のあるべき姿を見出さなければならない。
必要なことは、その後ついてくる。
自分を知り、その自分に忠実であること。
それに尽きるものだと思う。
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