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kaiten.jpg
"THE INNOCENTS".
1961年イギリス
ジャック・クレイトン監督
ヘンリー・ジェイムス原作

これは所謂怪奇譚なのか?
デボラ・カー扮する家庭教師の妄想による心理劇なのか?

死んだ召使と家庭教師の前任者の亡霊が子供たちにとり憑いた為に巻き起こる悲劇なのか
家庭教師の統合失調症的な変容があどけない兄妹を追い詰めてゆくのか
と思いつつ見始めたが、前家庭教師の亡霊が座っていた場所を見ると水滴(涙?)が紙に滴り落ちている。
現実も幻想もなく染み込み広がってゆく超自然的精神界が稠密に緊迫感をもって香り高く描かれてゆくことにただ惹かれてゆく。


遠い呼び声、囁き、揺れる白いカーテン、屋根裏で見つけた写真ペンダント、そこに映っていた召使だった男、その顔がガラスに映る、高い塔のてっぺんに見える、オルゴール、オルゴールと同じ曲を弾く兄、その曲を口ずさむ妹、川の向こう岸の人影、夜の廊下を横切る女の姿、首を折られた鳩、幼い兄妹の何とでもとれる行動、しかし無邪気というには些か実年齢を越えた兄の認識、世話役の婦人から聞かされる召使と前任者の道ならぬ恋と死に様、、、。
これらの道具立てが全て、すでに若くはないが大変美しい家庭教師のリビドーを過剰に刺激しつつ連動し始める。
家庭教師が無意識から追い詰められてゆく様相が物語を加速する。

この作品が通り一篇の文学的な恐怖映画で済まないところである。
如何にも精神分析学者が喜びそうな映画だ。
なるほど、と感心してしまうところでもある。
しかし、分析にばかり気を取られていたら映画の醍醐味を見過ごしてしまいかねない。

なにをおいても、演出と絵作りの抜かりのなさ。
デボラ・カーと子役二人、さらに世話役婦人の絡み合う張り詰めた心理戦。
その静謐で鬼気迫る変容。
特にデボラ・カーの尋常ではない目の変貌。
これは、「アラビアのロレンス」で見たピーター・オトゥールのそれに匹敵する。

また、娘とその兄にとり憑いていると信じるその男女の名前をデボラ・カーが強引に吐かせようとするところは、余りに強烈だ。
「何を見たの!正直に言うのよ!」と何度も彼と彼女に執拗に責め立てる場面。
もしかしたら、兄妹がそのふたりを殺害したのか?
そう受け取るしかないほどの、パニックを二人に与えることとなる。
その衝撃で妹はこころの安定を失い、兄は絶命した。
最後にデボラはあたかもその兄を誰かに見立てかのようなキスを彼にする。
やはり原作がヘンリー・ジェイムスである。
一筋縄ではいかない。


ホラー映画とされているが、スプラッターで即物的な描写などの入る余地は全くない映画である。
ヒトの業のもつ恐ろしさは緊張感をもって掘り起こされてはいるが、ジェットコースター的恐怖・目眩はない。
その分、後に残る。
結局ただ身を委ねてゆけばよい作品だったことが分かる。
いや、もともと映画とはそういうものだと、再確認させられる名作であった。


デボラ・カーの演技を見るだけでも価値のある映画であろうが、子役のふたりも圧巻であった。
特に妹の余りに無垢でfragileな演技に、デボラ・カーの抱く恐怖と疑念がこちらにも憑依してしまった。
そういう怖さをもつ映画である。


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