ザ・バンク 堕ちた巨像

”The International”
2009年。アメリカ、ドイツ、イギリス制作映画。
トム・ティクヴァ監督。
堕ちた巨像?まあ、分からないことはないのだが、、、安っぽさが加味される。白い巨塔みたいだ。(このドラマは面白かったが)。
クライヴ・オーウェン(ルイ・サリンジャー)、ナオミ・ワッツ(エレノア・ホイットマン)主演。
かなりの力作であった。
脚本・撮影・キャストどれをとっても言うことない。
邦題で損をしている作品であろう。
ヒズボラ、CIA、中国、イラン、イスラエル、ロシアマフィアも全て武器売買で繋がっている。
持ちつ持たれつの間柄である。
国際メガバンクは戦争で荒廃し借金を背負った国を支配下に治め、肥大化してゆく。
法がそれ(経済)を基盤に立っている以上、それに立ち向かうには、不可避的に「法」の外に立つ事になる。
昨日観た映画が思い浮かぶ。
しかし組織として巨悪な力で猛威を奮っているにしても、個人レベルにおいては、銀行の相談役に雇われているウェクスラーや殺し屋のコンサルタントが、死を目前に控えたとき主人公に加担するこころ・矜持をみせる部分はまだ救いかも知れない。
政府組織はダメだが、個人的に貴重な資料や分析結果を教えてくれる内部のヒトもいる。
現実もそういうものだと思う。
とは言え、関係者・協力者が次々に消されてゆく。
中央突破して個のレベルではなく、大衆を大きく巻き込む指導者となっても、改革を阻止しようとする組織に暗殺される。
(囮スナイパーを用意し、その男を犯人として射殺する等巧妙である)。
確かに盗聴、監視、尾行、誘拐、コピー、改ざん、漏洩等やスパイや潜入捜査、暗殺等、実際に時折明るみに出てくるものだ。
この映画でも、決定的な情報を如何に掴むか、または隠し通すかの情報戦の中に殺人も繰り込まれている。
巨大な権力が背景にあるため全ては巧妙で万全である。
巷によくある陰謀説の多くは眉唾ものであるが、こういう世界はやはりあるのだろう。
戦時下にあるところでは、露骨なはずだ。
いや、そうとも言えない。
最近の日本の内閣をみていると、法をも無視して悪法を成立させている。現実はもっとタチが悪い。
結局、歯車の1つを葬ったところで、代りはいくらでも控えている。
構造が変わらなければ、何も変わらない。
映像(カメラワークのお陰か?)の見事な映画でもあった。
ベルリン、ミラノ、イスタンブール、ニューヨーク各都市の雰囲気がよく映し出されていた。
特に、美術館には驚いた。相当なお金が掛かっていることが容易に想像できるものだ。
美術作品と銃撃戦、この創造と破壊のコントラストは鮮烈であり象徴的でもある。
エンディング(エンドロールに至っても)は、何とも後味の悪い暗澹たる締めくくりであった、、、。
クライヴ・オーウェンはナタリー・ポートマンの出る「クローサー」でしか見た事無かったが、荒削りな魅力が印象に残った。
ナオミ・ワッツも、「ステイ」と「イースタン・プロミス」くらいで、代表作はことごとく観ていない。安心して観る事の出来る実力派であることは分かる。ストイックな演技がキマっていた。
アーミン・ミューラー=スタールの棘のある温厚で知的な存在感はここでも素晴らしかった。わたしは「天使と悪魔」、「イースタン・プロミス」、「ミッション・トゥ・マーズ」での脇役でしか見ていないが、(代表作は『マイセン幻影』、『シャイン』、『KAFKA/迷宮の悪夢』あたりか?)もっと観たい役者のひとりである。
これは紛れもない、隠れた名作と言える。