WATARIDORI

聞こえるのは基本的に渡り鳥の鳴き声と時折挟まれるフランス語の解説。
その設定で鑑賞している。
これは最高の環境ビデオだ。
ひたすら、WATARIDORIの多彩な表情と行為を余すところなく彼ら目線で記録した、貴重な宝の映像と言える。
そして彼らの見る自然をほぼ同様の視座で見る。
自然の捉え方も違ってくる。
生と自然の生(なま)の関係が窺えるものだ。
しかし厳然とした距離感から終始鑑賞することになるかというと、わたしの場合そうはならなかった。
低い雲の上を飛ぶ彼らを、すぐ間近で見続けているとこちらが一緒に飛んでいる浮遊感をもってしまう。
そして、彼らが翼を広げ立った姿で垂直に降りてくるところなど、翼を持っている人類にも想えてくる。
そう、はじめはこちらも彼らと共に飛ぶ身体感覚を覚えるのだが、いつしか彼らの身体の動きの多彩さ、雄弁さから、彼らがヒトに想えてきてしまうのだ。
鳥人である。
敢えて空を選んだヒトたち。
海を選んだヒトがイルカならば。
そんな気がする。彼らの冗談としか思えないコミカルな踊りや過剰な仕草、おしゃべりなどを見ていると、他人とは思えなくなるのだ。
勿論、大自然の厳しさは厳然とある。
だがそこを単に本能だけで機械的に飛んでいるとは思えないものがふんだんに感じられるのだ。
氷と吹雪に身を丸め、大きな雪崩を知らせて一斉に舞い飛び、馬の爆走に驚いて一緒に走り、壊れたダンプの横に集い水を飲みながら何やら談笑している。上空には別の編隊が彼らに気づき弧を描いて何やら告げて去ってゆく。
わたしはこれまで、この記録映画を半分までしか見た事がない。
何故なら、真ん中辺で決まって眠ってしまうからだ。
これほど心地よく眠らせてくれる映画はない。
いつか終わりまで見てみようとは思っているのだが、眠れるうちはこれで眠りたい。
安っぽい癒しビデオでは到底得られない、詩情に満ち溢れている。
その昔、ブライアン・イーノが環境ビデオを出していたことを思い出した。
(恐らくもう見ることはないと思う)。