ニュースの天才

文字通り、呆気にとられた。
スティーブン・グラスで”shattered glass”正に、その通り。
「ニュースの天才」という邦題もイケてる。
何でこんな捏造記事を彼は次々に書いてしまったのか。
半端な数ではない。
書いて面白がられているうちに、止めようにも止められなくなったのか。
ランニング・ハイのようにあるところを超えるともうやり続けることが恍惚感にすらなっていくのだろうか。
少なくとも当人にとってかなりの充実感をもって続けられて来たであろう事だ。
勿論、言うまでもなく全てのニュースは作られている。
創作であることからは免れない。
しかし、意図的な捏造となれば立派な犯罪以外の何物でもない。
ちなみにIPCCの地球温暖化のイメージを支える論理的根拠となった例のグラフは完全に犯罪としか言いようのない悪質極まりないでっち上げであった。あれにノーベル平和賞である。ホントに平和なものだ。
(真にノーベル平和賞に値するような人は、そもそも賞になど興味はない。平和賞は廃止すべきだ。)
と考えると、ちょっと前に日本でも似たような出来事があったような気がする。
*保方事件である。
わたしはあれに、まともに騙された。
わたしの代ではダメだろうけど、娘の時代にはきっと立派な医療として確立しているのだろう等と期待を寄せてしまった。
久々の「明るいニュース」に思わずウキウキしてしまったものである。
全く甘かった。勿論それを受け取る自分の責任である。
細部のケアレスミスとか検証における詰の甘さとかいうレヴェルの問題ではなかった。
一体何の実験を行っていたのかという前提に関わる問題であったのだ。
後から後から出てくる事実のくだらなさに、まるで自分の落ち度を確認するかのごとく、ただただ辟易してしまう。
不確かな「ノート」が取りざたされるのもスティーブン同様であった。
しかし、面白い(驚く)のは、当人に何にも悪びれた素振りがないことである。
他の14人の共同執筆者はどうなのか等という責任のとり方の問題ではない。
研究という名に値する事を何も行っているわけではなかったという驚愕の事実。
なのに、あの饒舌な一般向けプレゼンである。
これに関しては道徳や倫理を問う気すら起きない。
全く実体のない場所から何を根拠にあのような希望に満ち満ちた未来像を人々に得々と語り遂せたのか。
この尋常ではないグロテスク極まりない光景-心象に愕然とする他ないのである。
この呆気にとられる感覚が同様のものなのである。
思い切り虚しい映画であった。
考えてみれば、これほど虚しく淋しい思いに晒される映画を見たのは初めてである。
しかし、同様のことが現実にいくらでも起きている。
この映画はその中の一つを見応えのある作品として切り取って見せているに過ぎない。
たまたまデータの一部に対する疑惑から全体そのものの誤り-全くのでっち上げが確認されるに至ったのであるが、全体としてとんでもない誤りであるのに、その枠内での論理は非の打ち所のないというものはいくらでも作ることが出来る。新新興宗教などに見られるものである。記憶-パラダイムを操るSF映画もそこをついている。
実際、スティーブンの発覚までの記事は100パーセントでっち上げのものが、全て編集会議を通ってきたのだ。
これは、考えてみるに恐ろしいことである。
一度、中に入ってしまえば(受け容れてしまえば)、その場からはそれ自体-全体の検証は極めて困難となる。人の目が行くのはことごとく細部の論理関係であり、表現の適切さであり、誤字脱字表記法の誤りの追求だけとなる。それで通ってしまうのだ。まさかそれが本当のことなのかという時点からの確認は、通常しないであろう。やはりよく書けているかどうかから始まるものだ。そしてそれが人々の興味を惹く魅力あふれる楽しいものであれば、手放しで受け取りたくなるものだ。
まさか実験がデタラメであのような発表が出来るとは、よもや思わぬものである。
また一言付け加えておけば、スティーブンの場合、甘え上手で気さくでもあり、同僚からの信頼が篤く好印象をもたれるタイプだ。*保方女史の場合も、ピンクのムーミン研究室に割烹着(これは理研がやらせたらしい)でマスコミもおせっかいに学生時代の美談などを紹介し、好感度をしきりに演出していた。
彼の編集長はギリギリまで彼のことを気遣いつつ、真相を追っていたが、結局クビにする段で部下に敵視されている。あたかも彼が悪者であるかのように。
この無意識的だが意図的なイメージ戦略に気をつけなければならない。(よく見れば穴だらけであることに気づくのだが)。とかく其の辺から人は絡め取られてしまうものだ。
映画の構成はテンポよくスリリングであった。
母校への凱旋講義?が途中何度も挟まれつつ展開していく手法は、虚しさを際立たせる表現において見事であった。
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