スヌーズレン003

6.スヌーズレンの実施に向けて"その効用を考えて"
スヌーズレンは部屋と様々な機器とにより構成されます。機材・器具についてはサイドグロウとバブルユニット、ボールプールは必需品でしょうが、私なら是非プロジェクターを中心的なものとして使いたいです。また、感覚をいろいろな面から刺激する事が狙いであるため、数種類の香りやそれを運ぶ風、触感や変化する色も、光や水の動きや音響だけでなく、うまく活かしたいです。
プロジェクターの果たす役割としては、様々な光がともすると無軌道に交錯しイメージを撹乱してしまう可能性のある部屋の中で、特定の時間と空間の方向性を持ったコンテクストを作ったり、場のめりはりと物語の飛躍なども考えた、確かな輪郭のある意味を変える装置として考えられます。テーマを設定した場合はもっとも有効な表現を可能にする装置でしょう。逆にミラーボールやその他のライティングを徒に使い、効果を打ち消しあったり、うるさくなり神経を苛立たせるようなことにならないようにしたいですね。
同時に色彩は心に与える影響の大きな要素であり、よく考慮する必要があります。色彩の精神を安定させる効用などは、昔から研究されており、それを無視した演出は論外でしょう。
また利用者(ここでは最もコアなユーザーとして障害者・老齢痴呆者を考えます)の動きに従い、光や水が変化することは行為に意味があることに気づくことに繋がるため、スイッチの工夫はしたいものです。さらに電気系統や機器の操作は極力単純にし、スタッフが繰り返し使う際に支障のないようにします。扱いが複雑であると早く壊してしまう可能性が高く、メンテナンスで時間を取られるようなことは何であっても極力避けたいです(私のこれまで関ってきた仕事は、ほぼこればかり!)。
介助者にとってもっとも大切なことは、利用者とともに同じ空間を体験しながら、利用者の変化を発見し、深くコミュニケーションをとっていく姿勢であると考えられます。そのために評価基準をあらかじめスタッフで話しあい立てておくことが有効でしょうし、その際、評価はそれぞれの障害レベルによって基準の枠を作っておくことは必須です。(評価表をきちんと作る)
障害児の場合、通常表情の変化を捉えることがほぼ唯一の心の変化を観る方法となるでしょう。特に重度重複の障害児に対しては、自分の行っている教育訓練が彼らにとって何らかの意味を持っているのか、という疑問に常に差し戻されるはずです。此迄の関り(毎日の授業カリキュラム)ではっきり成果の伺えない場合、教師は焦り、むやみにいろいろなことに手を出し、疲れ切ってしまうに違いありません。
スヌーズレンは、スウェーデンなどでの報告例を観るかぎり言葉の無い彼らが楽しさの表情を確かに示し、部屋を出るときにいやがる様子を見せる、といったものがいくつもあります。さらに緊張の緩和、自傷行為の減少、積極性の高まり、集中力が出る、バランス感覚が身に付く、笑顔が増えるなどが伝えられています。これらの評価・観察も非指導的介助であり、時間的余裕を持って利用者と信頼関係を深めながら行えるところから伺えることでもあります。
重度重複障害の場合と、体がある程度自由に動く脳性麻痺または自閉症児に対してはそれぞれ異なるアプローチは必要であると言われています。スウェーデンでも、静かに落ち着いて感覚を磨いていく「ホワイトルーム」と多動障害などの活発に動き回ってしまう利用者向けに「アクティビティルーム」が用意されているそうです。もともとスヌーズレンの基本理念のひとつとして「一部の人だけが利用できるといった特別なものではなく、必要とする誰でもが気軽に体験できる場所」とあります。しかし異なる障害を持つ人を同一環境で同時に体験させることは効果を削ぐことになるため、利用者の時間割を組むことも必要になります。
7.スヌーズレンの実施に向けて"その課題"
スヌーズレンを構成するどの機材・器具もかなりの高額であること。これがまず最大のネックと言えます。どのような場所で行うにしても、予算をどこから獲得できるのかが最大の問題です。またそれをどうにか獲得したにせよ、スヌーズレンの構成・設置にはかなりの労力と時間を必要とすることが予想されます。場合によっては器具の自作も必要です。その時間をどのようにして捻出するか。此迄の例では、ほとんどが特定の人が勤務時間外に多大な自己犠牲を払って作り上げているようです(苦)。
さらに、出来あがった環境を使うためのレクチャーを介護者全員に行う時間の確保。スヌーズレンの基本理念から実際の障害者との同伴姿勢を認識しておくことがもっとも肝心なことだからです。考えられる危惧として、何かの「療法」として受け取り効果を過度に性急に期待したり、利用者に指示・指導してしまったり、介護者同士が利用者の頭越しにその場と全く関係のない話しをしてしまう、さらに利用者を単に放置してしまい、肝心の観察を怠ってしまう事などでしょう。これでは環境だけ整えていてもスヌーズレンにはなりません。ひどい場合は娯楽室と化してしまうケースも見られるそうです。
また、その組織で最初からスヌーズレンが組みこまれていたならともかく、途中から始める場合、限られた部屋でスヌーズレンを行うに当たって、利用者の人数と利用時間の割り振りは、次第にその成果(あくまで過程の評価)の上がるに従い困難になってくるはずです。どのようなグループ分けをし、どのように介護者をつけ、時間をどう配分するかは当初から見込んで計画しておく必要がありましょう。
*後、2回ほどやらないと納まりが悪いので、明日、明後日で終了とします。
私が体験と構想・制作に僅かに関った経験しかないためか、スヌーズレンそのものについての記述が弱いのと、実際の制作に関して利用できる物、使えるアイテム(プラトーンはちょっと、、、)などまだ若干書くべきことがあります。

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*これまでの参考図書
「スウェーデンのスヌーズレン」 河本 佳子
「現代美術」 海野 弘・小倉 正史
「現実世界のためのデザイン」 V・パパネック
「生活とデザイン」 Gパウルソン Nパウルソン
「20世紀はどのようにデザインされたか」 柏木 博
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