ケープタウン

Zulu
2013
フランス、南アフリカ共和国
ジェローム・サル 監督・脚本
ジュリアン・ラプノー 脚本
キャリル・フェレ『Zulu』原作
オーランド・ブルーム、、、ブライアン・エプキン (強行犯撲滅課の刑事)
フォレスト・ウィテカー、、、アリ・ソケーラ (強行犯撲滅課の警部)
コンラッド・ケンプ、、、ダン・フレッチャー (強行犯撲滅課の刑事)
イマン・アイザックス、、、ジャネット(婦人警官)
ジョエル・カイエンベ、、、ジーナ
インゲ・ベックマン、、、ルビー (ブライアンの元妻)
ティナリー・ヴァン・ウィック・ルーツ、、、クレール・フレッチャー
レガルト・ファンデン・ベルフ、、、デビーア
パトリック・リスター、、、ジュースト・オパーマン博士
タニア・ヴァン・グラーン、、、タラ
ランドール・メイジエ、、、キャット(ギャングのボス)
実にヘビーでダークな内容。
オーランド・ブルームとフォレスト・ウィテカーの動と静の主演コンビが素晴らしい。

アパルトヘイト~真実和解委員会は勿論、ズールー人という民族、、、が基調にある。
この殺伐とした治安も何もない南アフリカの都市ケープタウンが舞台。
警官も含めよくもまあこんなに人があっさり殺されて(殺して)ゆくもんだと感心する。
元々治安の悪いところに、極めて悪質な薬が絡む。
この薬は、所謂(新種の)麻薬のような装いをしているが、そうではなく化学兵器の一種として秘密裏に研究開発が進められている黒人だけ殺す攻撃性や自殺願望を高める薬なのだ(アパルトヘイト時代に始められ、中断されたが再開されたという)。
しかもその人体実験にホームレスになった黒人の子供たちを使っていた。
警察も失踪~ホームレスの子供の捜査など全くしない。都合の良い実験材料だ。

一体どこのレベルがこの薬の開発をやらせているのか。
つまり資金の出所だが、それが形の上では、何とか警備会社とかいっていたが、実際どこなのか。
こういうところでは、いつどのような形で巻き込まれるか分からない。
普通に暮らせる場所があるのか。
アリも捜査を進める中で、過去のトラウマに何度も新たに向かい合う経験を重ねてゆく。
子供時代がフラッシュバックする。
現場を嗅ぎ回り真相を暴こうとしている刑事と少し前まで黒人を虐殺していた白人の警察上層部の意識の違い。
どうこころを整理すれば同僚として仕事が出来るようになるものか(この辺はアリのような理性がないと無理だと思う)。
上は常に事件の極めて表層の直接の実行犯だけ特定して事件の深層~構造には一切触れずに蓋をして終わりにしようとする。
このパタンはよくクライムもので目にするところだが、この映画にはリアリティが感じられた。
やはり歴史的背景は大きい。今現在もまだ問題は継続している。

アリ・ソケーラは自身、幼い頃に父を虐殺され自分も重傷を負わされている。そして息子の捜査に手を貸した母も殺害された。
しかし、彼は飽くまでも刑事として理性的に真摯に事件に臨んでいる。
こうした内省的で理知的な役にフォレスト・ウィテカーはピッタリだ。
彼と組む型破りのアル中で女好きの相棒ブライアン・エプキンをオーランド・ブルームがワイルドに演じる。
実に好対照だがどちらも鼻の利く勘の良い絶妙のコンビである。
ここに自主的にメカ・パソコンに強い女性警官ジャネットが加わることで情報収集力が倍増し捜査が加速する。
この力は大変大きい。敵も様々な偽装、隠蔽、目くらましを打って来る情報戦争でもある。
しかし真相に近づくことが、そのまま解決に繋がるというような単純なものではない。
警察の組織力が、上がダメな分、まるで発揮されないのだ。
もう真実に対し誠実な能力のある者だけが、謹慎処分を受けつつ事件に立ち向かわざるを得ない。
この不条理である。結局少数の分かっている者だけで闘うしかないのだ。
だから治安も悪いのだろうが。

最後はアリ・ソケーラはやんちゃなブライアン・エプキンの制止を振り切り、単身悪のアジト~新薬研究所に乗り込み、ケリを付けようとする。これまでの怨念が爆発した鬼気迫る表情で敵を倒してゆく。
ブライアンも後から乗り込み、アリの後方支援をするが、彼は悪の権化である生物化学兵器の開発主任である博士を砂漠の真っただ中へと只管追い詰めてゆく。もはや弾丸も切れ血だらけの素手しか残っていない。
鬼神のような顔でアリは、今や力尽きて歩けなくなった相手を無言で殴り殺す。
翌日になり、博士の遺体はブライアンの乗る軍用ヘリで発見される。
降りるとブライアンは、近くの木に寄り掛かって息絶えているアリを目にするのだった。
痛恨の極み。深手を負っていたことからの出血死かも知れない。脱水症状も絡み。
こんな犠牲を払い、この一件は本当の出資者はともかくそれを実行していた組織の壊滅に至った。
何と言うか、ダークでヘビーな物語である。
オーランド・ブルームは途轍もなくタフな役を熟したものだ。
ここまでタフな刑事はそうはいないぞ。
最後は理性も何もかなぐり捨てたフォレスト・ウィテカーのアリの心情もよく分かるが、もう死ぬしかない流れであったのは、ファンとしてちょっと残念(笑。

余り観たくないがよく出来た映画ではあった。でももう観たくはない。
主演のコンビが言う事なし。
美しいロケーションとの絡みがヘビーさを際立たせていた。
AmazonPrimeにて

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