真木栗ノ穴

2007
深川栄洋 監督・脚本
山本亜紀子 『穴』原作
椿 「めぐり逢えたのは夢じゃない」主題歌
西島秀俊、、、真木栗勉(作家)
粟田麗、、、水野佐緒里(実業家水野の妻)
木下あゆ美、、、浅香成美(出版社編集、真木栗担当)
北村有起哉、、、佐々木譲二(真木栗のアパートの隣人)
キムラ緑子、、、沖本シズエ(食堂アルバイト)
田中哲司、、、水野貞男(佐緒里の夫)
小林且弥、、、赤坂栗生(宅配屋)
松金よね子、、、飯田時子(食堂の主)
尾上寛之、、、細見貢(置き薬のセールスマン)
大橋てつじ、、、秋田健(雑誌社編集長)
佐久間麻由、、、佐々木譲二の彼女
西島秀俊史上最弱軟派の売れない作家をやっている。
レアだが、大丈夫かという感じ。
水野佐緒里が幽霊なのは、彼女を取り巻く状況が真木栗勉の執筆した通りになってしまうところでこちらには明白になる。
後は彼女(たち)だけが幽霊なのか彼の世界そのものも妄想なのか。
ただ、彼女と関係した者たちは皆死者なのだ、、、それ以外も内包した妄想世界なら勝手にしなさいである。
彼はどうした経緯で霊に魅了されたのか憑かれたのか。そこがピンとこないままであった、、、。

しかし生活のため、成り行きで雑誌の官能小説連載を苦手ながら引き受けるというのも面白い。
その関係者、担当の浅香成美以下雑誌編集の人々とお隣さんなどは現実に見えるのだが、、、。
ここまで妄想(入れ子状の妄想)としたなら、じゃあ実態はお前何処で何してんのよ。
となるが、最初の小説書き終わったシーンがまた最後に来ていたから、何やら連載小説を完結させたところから妄想に入っていた可能性もある。
何処までが真木栗の妄想なのか、入れ子状になった妄想なのかよく分からなくなるところ。
売れない作家の妄想を鑑賞していただけというのは、余りに虚しい。
とは言え、噺そのものは絵空事的キッチュなコミカル感満載(笑。
これをお笑い芸人が主人公でやっていたら余りに嵌り過ぎて詰まらぬが、西島秀俊が真面目な表情でやってるところが笑えてよい。
粟田麗という女優さんも如何にもという感じで、この清楚で理想化された不自然な奥さんがまた良い。
ホントにこのような人が倒壊寸前のアパートに引っ越して来るなどまずあり得ないが。
そこを逆手に取ったような、共犯的な後ろめたいトキメキを齎す効果はある。

アパートがボロ過ぎて空き巣に部屋を荒らされたことがきっかけで、東西両側の壁に崩れて空いた穴のあることを発見(何処までボロなんだ)。そこから覗くと隣の若い男性の様子が丸見え。ボクシングファンで時折彼女を連れこんで来るのも全て確認。
そして反対側の部屋は空であったが、そこに小説のネタになるうら若き美しい女性でも入ってくればなどとまずあり得ない想像をしてみる。すると買い物帰りにイメージをそのまま具現したかのような女性がアパートを見上げているところに出くわす。
部屋に戻り、あの女性だということで紙にデッサンして壁に貼り、そこから膨らむイメージで小説を書き始めた。

するとその女性がホントに隣の部屋に越して来る。白い日傘をさして、もうここから嘘くさいいや、幻想的と謂うべきか。
イメージ通りのいや絵に描いたような若奥様であった。
そして真木栗の担当となった浅香が原稿を取りに来ると彼は妙な格好で隣室を覗いている。
まさか覗いているとは思わぬ彼女は、その恰好から、先生ヨガか何かされてるのですか、と訝りながら聞く。
ああそんなところだ。こういう体勢からふとアイデアが生まれてくるとか、よりによって西島秀俊にやらせるのだ。
ファンはどう思ったか。監督に対し、よくやったと殺意を抱いたが半々かも。
ともかく、真木栗の手で、ボロアパートに住む男性が壁の左右の穴から覗いた怪しくも如何わしい世界を描写するという設定の連載小説が綴られてゆく。まんまであるが、編集の浅香は(言われた通り)フィクションだと信じている。

これが思いの他、評判がよく担当の若い浅香は初めて社内で褒められたと喜び、やる気満々である。
雑誌の売り上げアップにも繋がっていると、会社を辞めなくて良かったと、彼を先生と慕い尊敬の念を隠さない。
締切日も守り書き続ける中、その原稿~物語通りに隣の佐緒里の部屋を訪ね、関係を結ぶ運送屋と薬売りの様を見て驚くと同時にほくそ笑む。自らが考え書いた通りの事態となるのだ。ちょっと世界を支配した気分か。
しかしその至高感も急転直下。浅香が持って来てくれた真木栗の連載の載っている雑誌の別のページを見て驚愕する。
IT実業家の若き妻、佐緒里の写真があり、彼女は実業家の夫の事業失敗で既に心中していたのだ。
激しい頭痛から置き薬屋に電話したことで薬売りの男もすでに自殺しており、さらに運送業の男も事故死していたことを知る。
日時から見ると彼女と関係を結んでいた時は、すでに亡くなっていたのだ。
隣部屋には死者だけが入れたのか。穴はそれを唯一覗く場であったのか!あの空間とは一体、、、。
そして真木栗の部屋を空き巣狙いした片棒の食堂バイトの沖本が病気で亡くなっているにも拘らず彼のもとを訪ねて来る。
彼女は去り際に早くそこを出なさいと言う。
そして最後の章には自分自身を登場させていたことに慌てる真木栗。

終盤になり急にホラーテイストが強まってゆく。
慌てて最後の原稿は書き直すと言い、原稿を取りに来た浅香を追い帰すが、、、。文字は乱れる。そう次第に乱れてゆく。
この辺りは山場である。
どういうところにアパートがあるのか、近くに結界を超えるような自然のトンネルのような切通しがある。
アパート取り壊しの期日が近いため、真木栗以外の唯一の住人である隣のボクシングファンが彼女と一緒に荷物を抱え引っ越してゆく。
まだ僕の隣の女性がいるというと、怖い話すんなよずっとこのアパート、あんたと俺しか住んでねえだろ、と気味悪がって去って行った。

結局、以前約束していた梅酒と灯篭を持って、真木栗は佐緒里の待つ隣の部屋を訪ねる。
そしてふたりは、、、どうしたものか、、、
翌日、誰の気配もない真木栗の部屋を訪れた浅香が机に残された原稿を引き取ってゆく。
確か佐緒里側の穴は塞がっていたが。
そして何故か最初の連載を書き終えた真木栗の様子がリフレインされて終わる。
「この世に矛盾が蔓延(はびこ)り、終末が近づいている。どうやら私たちの世界がある一人の男の空想である事が近く発表されるだろう」〟何とも言えない件。「私たちの世界」って何?この世とは謂うまでもなくわたしの世であるが、それは微妙に他者の世とも重なり合い縁が捲れているかも知れない。
こうした夢か幻かみたいな映画につきものの危うさはあるが、キャストと噺自体が面白いので、かなり愉しめる内容であった。
最後がもう少しねえ、、、という感じだが。
AmazonPrimeにて

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