入江の殺人

Murder in the Cove
2013
カナダ
現地の人々(漁民と警官)
ドキュメンタリーフィルム。ノバスコシア州アカディアが舞台。
ロブスターを長年に渡り密漁する者と漁民との間で起きた根深く割り切れない殺人事件を取り上げる。
出て来る声、事故の写真等、かなり生々しい。
インタビューを断る人もかなりいたようだ。

ロブスターはかなり良い商売になるらしい。確かに見栄えも立派だし。旨そう。
ロブスターになったら喰われる運命であることもこれで分かる。コリン・ファレル(笑。
密猟を長年働いていたのは、フィリップという男。
小さな漁村である。皆どこの誰だかよく知っている。
最終学歴も中二の子供の頃から窃盗などの非行を繰り返して来たという男である。
しかしこの男を慕う友人もちゃんといる。
地域の者は皆、彼が漁師の漁具を壊し密猟していることは知っており、ずっと嫌っていた。
容疑者とされたのは、いつも笑顔を絶やさない紳士として知られる仕事熱心で真面目な男ジェームズ。

村人の誰もが事件に対するアンビバレントな複雑な感情を抱く。
しかし前面に出てこの誰もを悩ます密猟問題を抜本的にどうにかしようという動きは生まれなかったのか。
警察や組合と連携してこうした漁場ならではの防犯システムを組むなど、、、。
何と言うか自閉的に内包して籠ってしまった鬱屈が或る時、歪な形で弾けるという感覚。
フィリップは多くの人を傷つけた死んでも仕方ない男だったが、もしかしたらそれがわたしの息子であったかも知れない。
フィリップとつるんでいた幼馴染は、彼は多くの人に悪いことをした。わたしも手伝ったことがある。だから何も言えないが不憫な男だと、、、。
「それが現実だ」と彼は吐き捨てる。
うら寂しい光景だ。

ツインマギー号のドウェイン船長とジェームスとグレイグ乗組員が容疑者として逮捕される。
警官もフィリップの悪行については認識していた。だが、正式な訴えが無く動けなかったみたいなことを言う、、、。
フィリップ殺人事件を受け、古くからの友人や親せき、住人たちに事情を聴いていくうちに明かされていくものがある。
フィリップが密猟したロブスターを漁師が安く買い取りそれに上乗せした金額で売りさばいていた事実。
地元水産局員も彼の獲物を買っていた。彼が漁のライセンスを持っていないことを知りつつ。
持ちつ持たれつの関係があったことが公にされる。
人々はフィリップを利用して来た。彼がまだかなり若い頃から彼を利用してきた。
泥棒をさせそこから甘い汁を得ていた。しかし彼は結局、その泥棒で殺される。
シャバでは彼をよく思わぬ人との取引を続け、捕まったら刑務所で暮らす。彼にとり刑務所の方が過ごしやすかったらしい。
戻って来ても居場所はない。盗みをして刑務所に行く度に悪友が出来、悪さを更に覚えるという悪循環が形成される。
「フィリップに逢うと皆1時間で良い奴だと思い込ませてしまう。そして奴は君の車の中のモノを全て持って行ってしまうんだ」。
そう言うタイプらしい。行くところは基本、刑務所以外にない。
その悪循環を断つこととなったこの度の殺害である。
ツインマギー号でフィリップのボートを轢いて破壊し、彼に向け発砲し碇を巻き付け引き摺り海に沈めるという残虐な殺し方だ。

裁判所は自警行為の正当性は容認できない。
しかし陪審員からは過失致死罪。驚きである。
これは、どう見ても殺人ではないか。
実行犯のジェームズに懲役14年の刑が言い渡された。ドウェイン船長には10年。グレイグは2年の保護観察。
「もし私たちが個人で復讐や報復を実行できるなら、その恐怖から生活は混沌を極めるでしょう。」というような言葉が添えられた。正義とは兎角こういう形で実行されてきた。
5年後にジェームズは仮釈放されるがその1年後に死去。
再度、この事件に対する思いが交錯した。
コミュニティには亀裂が入ったままである。
フィリップと子供時代からつるんでいた旧友は、わたしには3人の子供がいる。もう下らないドラマに付き合う暇はない、と言う。
フィリップを偲びながら。
フィリップに対する同情を平然と口にしフィリップ側であることを主張する人もいる。
そして彼を仕向けてしまったのはわたしたちだ。彼はわたしたちのなかの一人なのだ、という内省の声も聴かれた。

字幕がホントに観にくかった。また量が尋常でない。
大変ストレスフルなドキュメンタリーフィルムになってしまった。
字幕以外は良い出来であったのだが。いやかなり良いドキュメンタリーであった。
上に出たり下に出たりの字幕が全てを台無しにした。
AmazonPrimeにて