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甕のぞきの色~山岸凉子を読んで

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”甕のぞきの色”
仄かな淡い感覚。しかし鋭くもあり、壊れやすい感性。なによりも確かな、かつてヒトのもつ力。

全くの無色透明にしか見えない水に、かつての日本人は青い色を見ていた。
丁度、風鈴の舌の部分の無い鐸に山の彼方からそよ吹いて来る風の音を感じ、来るものを察知していたように。
エスキモーも我々にとっての白一色に、はっきり7色の色分けをしているという。
そんな例、挙げればきりがない。
勿論、これも言葉と感覚のその時代、その場所固有の身体性であり、ひとつの制限とも捉えられよう。

しかしデジタル機器により身体の機能を拡張、分離し始めてから、言葉についても、身体についても、単に意識、意味のみに偏り過ぎて世界-身体性の硬直の激しいことは言うまでもない。

山岸凉子のこの漫画には、その辺の経緯が豊かな説得力を持って描かれている。
つくづく思うが、良質な自覚的な漫画の、メディアとしての雄弁さは圧倒的だ。
その形式を遺憾無く使い切っている。
そこにこのように深い造詣と洞察が絡むとこういった作品が生まれる。

ここでは、難病を治す薬、万能の水を巡って話が展開する。
担ぎ上げられた年より若く見える超能力少女。
そのか細いボーイッシュな少女が幼い日、庭からその水を湧き出させる。
その水は医者に見放された患者も完治させた。
それを知って、信じてすがる者達の館が生まれる。
館を運営する計算高い母とかつてそれで病が完治したスタッフたち。
よくある霊感商法とのグレーな境界。当局側の水質検査、マスコミたちのエグイ騒ぎ方など。

自分が胃癌末期と信じてその館に転がり込んだ主人公の青年がそこでの体験を通して、そういった事態、構図の本質を科学雑誌の記者の経験も活かして、俯瞰し述懐する。
泉を生んだ少女は確かに、頭頂部分に風が通ったと表現し、時折耐えられないほどそこが熱し、頭の天辺を削いでしまうこともあるということだった。主人公の青年はそれを最後のチャクラが開いた状態だと受け取る。
少女の手かざしで、胃の痛みも消え、青年は次第にこの世界に、少女を媒介に入り込んでゆく。
少女は他の誰よりもその水を信じ切っていた。
青年もその少女を特異な存在としてその力を認めるようになる。
青年はいつしか痛みも消え、胃癌も完治してしまう。
しかし、水の科学的分析結果は「ただの良質な水」であった。
どこで調べても。

かつて”ルルドの泉”もただの良質な水という判定しか出なかったという。
癌が治ると医者は、あれは癌ではなかったと決まって前回の診断結果を撤回する。
無意識-身体の捉えることを、意識上で記号的に処理するために、未知の-引っかかってこない事柄はことごとく否定されることになるのが現状だ。

ただの水に思える水面に色を見て取る感性が、今こそ求められるのではないか?

館はひょんなことから死者を出した為、マスコミを中心とした騒ぎの中で解散となる。
数年後、例の超能力少女は成長して年相応のポッチャリした体格の平凡な女性になっていた。
まるで記憶を喪失してしまったかのように昔のことなどなんとも思っていない様子。
水のことなどはじめからなかったかの如く。
「分析表」は意識による無意識の分析である以上、そこに掬えないものは全て取り零される。
彼女の核-無意識がその頭の松果体-第三の目と共に切り離されたかの如く、身体-容貌が別人のようになり、ただのヒト-今時の娘となっていた。
泉も枯れてしまった。
地震で地下水脈が変わったとかつての取り巻きは言う。
物事は全てその人間のパラダイムの中の論理で語り尽くされ回収され、何もなかったようにおさまる。
この虚無感に主人公の記者は、打ちひしがれる。

ただ、確かな事実は、彼の癌が完治したことだけであった。
勿論、それについても彼の上司は、単に自然治癒力によるものだと力説する。
その自然治癒力を極限にまで活性化させたのは何であったかこそが問題なのだが。
所詮、無意識-人知を超えた何か、を意識-言語・記号レヴェルで解析すること自体が不可能であった。
”水”その象徴でもあるものが証明されることに大きな期待を寄せていた彼女は、その世界から締め出されてしまった。
そのことすら、今や分からない、別人となっている。これはある意味、恐ろしいことだ。
とても危ういことだ。

それにしても恐ろしいのは、山岸凉子だ。



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