呪い

Vier
2022
オーストリア
マリー・クロイツァー 監督・脚本
レギーナ・フリッチュ
ユリア・フランツ・リヒター
マヌエル・ルバイ
ローレンス・ルップ
a-ha の ”Take On Me”のスローソフトアレンジが効いていた。
これ、名曲だね。
「わたしを受け容れて」
母はこどもを受け容れなかった(確かに精神病院に入院中の母ではあるが)。
こどもを受け容れられない母は巷に結構いる。
うちもそうだ。紛れもなく。ほんの一秒でも受け容れたことはない。そういう親であった。これはまさに「呪い」である。
それを悲しむべきととるか、恐るべき運命だと呪うべきか、受け取り方は様々だが、その過程で被った外傷経験の深さがどれ程のモノかである。肝心なのはそこだ。
心身のバランスを著しく崩す程の、自我の形成を阻害する程の障害を被れば深刻な事態を生む。
大変な生き難さを味わうことになる。
繋がりが途絶えれば、害の継続が無ければ、ゆっくりとした解放と治癒も見込めるが(そう簡単なものではなくこびりついた記憶やフラッシュバックもある)、現世における接触が続く限りは、トラウマは随時、更新され病は根深くなろう。
「呪い」というのは謂い得ているか。

自らも二度流産の経験を持つ婦人警官のユーリは今身籠っている。
夫婦ともに今度こそという期待と不安を抱いて暮らしていた。
そんな折に、14年前の女の子の失踪事件の絡む、幼児の白骨化した死体遺棄事件を彼女は上司と共に担当することとなる。
その失踪した少女は、ユーリと同学年の友達のいない人を寄せ付けないタイプの子クラウディアであった。
ユーリの母がそのクラウィアが失踪前に少女たちのパーティーで彼女の唄う姿の入っているビデオを探し出し娘に見せる。
ここで驚くのが、この少女クラウディアの顔立ちが、最近医師ルドウィックと共に引っ越して来たマチアス(ユーリと同年)そっくりなのだ。なかなかこういう人選は難しいはず。よくやったと思う。見事というしかない。
さらに圧倒的なロケーションであった。空の広大なこと、、、。
このマチアスという寡黙で優し気な青年は、共に暮らす医師とゲイの関係である。
片田舎の保守的な環境では、何かと噂の立つ難しい立ち位置にいた。
始めは勿論、少女はとっくに亡くなっているか、何処かで名を変え生きているかだと推測されていたが、家を捨てた母親が精神病院で生きていることが分かり、そこで母と懇意となり、信頼していた医者以外に打ち明けたことの無い事情をユーリに語る。
クラウディアは修学旅行を欠席しその後で失踪した。表向きには喘息によると言うものであったが、着替えに支障があり休んだのだ。
彼女は両性具有者であった。
母親はそれをひた隠しにしており、その他の兄弟たちは育てる意思もなかったようだ。
周りの住人とも全く関係を持っていなかった。
彼女はその子は産んで直ぐに殺す気にはなれず、少なくとも14歳までは、認めることは出来なかったが、共に暮らしていた。

クラウディアは14歳で家を出てチェコで難民として過ごし、最近になり男として伴侶の男性医師と共に故郷に還って来たのだ。
発作の症状もありひっそりと暮らしていたが、ユーリは、何故還って来たのか彼の真意を尋ねる。
とても複雑な心情であり簡単に説明できるものではなく、彼はユーリを撥ねつける。
しかしユーリは、かつてのその母の自宅、今はルドウィックとマチアス(クラウディア)の住む個人病院となっている家に彼女を連れて来てしまう。
その母も彼も双方ともに気づいてはいるが、素知らぬ振りをして接触する、、、。
マチアスが地下室を案内すると謂った瞬間、母は強い拒否反応を示し直ぐに帰ると訴える(マチアスは以前、地下室で発作を起こしていた)。
母は病院の付き添い職員と共に帰ると言って車に乗り込む。そこへマチアスが強引に乗り込んで「何か言うことは無いのか」と母に詰め寄る。「直ぐに捨てることが出来たのにそうしなかった。でもそれは間違いだった」と彼女は返す。
職員は合わせるべきではなかったと謂い車を出すが、これは双方にとり、どういう意味を持ったか、、、。
単にユーリの独善的行為で彼らの平穏を乱し、もしくはトラウマを更に深刻なものにしてしまったか。
この荒療治が良い方向に向かう可能性はあるのか。

その後、マチアスは村を離れたようだった。
ユーリは夫と車に乗りながら「わたしはどんな子でも受け容れるわ」とほほ笑んで語る。
a-ha のスローアレンジの ”Take On Me”が再び流れるが、とくに、、、
"Today is another day to find you"の歌詞が沁みた。
"I'll be coming for your love,,,,"そんな機会がないのなら生きる希望などない(に等しいではないか)。
何となく和んで終わるのだが、、、
ユーリはこの先もマチアスには責任があるぞ。
AmazonPrimeにて
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