スケアスリーアパートメント

Malasaña 32
2020
スペイン
アルベルト・ピント 監督
ラモン・カンポス、 ジェマ・R・ネイラ 脚本
ベゴーニャ・バルガス、、、アンバロ(17歳の娘)
イバン・マルコス、、、マノロ・オルメド(父)
ベア・セグラ、、、カンデラ(母)
セルヒオ・カステヤノス、、、ペペ(吃音の長男)
イバン・レネド、、、ラファエル(5歳の次男)
ホセ・ルイス・デ・マダリアガ、、、ミゲル(クララと名乗る悪霊)
マリア・バレステロス、、、スサナ(悪霊ミゲルの姉)
1970年代のスペインの噺。家庭に拘ったホラー映画。
都会のマドリードに出て来て心機一転頑張るぞという父に引っ張られ皆で上京してきた家族が散々な目に遭う。
スペインでは、事故物件という押さえとかないのね。一家の災難は完全にアパートの4階のその部屋のせいなのだが。

最初にバラしてしまうとホラーが台無しみたいに思われるが、これは予め内容が分かっていてもそれでどうと言うものでもない。
この幽霊であるが、性同一性障害から世間や家族(特に父)から疎まれ、悩み苦しんだあげく孤立して亡くなる。
偏見から来るマイノリティーが迫害の対象でしかないのは今もあまり変わりないところだが。
そして悪霊が見え、そのメッセージを伝える能力のある人が、ここでは筋萎縮性側索硬化症の女性なのだ。
悪霊からメッセージを洗濯干しロープを介して貰うペペは吃音。悪霊の存在に気付いている祖父は認知症。
そもそも元の村から出て来たのは成功を掴むという希望からだけでなく従兄妹同士である母と父が不倫から結ばれて白眼視されたのが原因だとか。そして息子のラファエルが行方不明になっても仕事の休暇の取れないローンの圧し掛かった貧困家庭であること、、、。
更にこれが肝なのだが、17歳のアンパロがすでに妊婦ときた(未婚である。相手は村からの手紙の主か)。

ジャンプスケアも使い基本に忠実なホラー作品であるが(線の切れている電話が鳴って行方不明の弟が助けを求めたり)、特別な怖さや不気味さなど、お化けの悪さ自体は印象に残らず、この現代にも充分通じる家庭~人々に限りなく重く圧し掛かる社会的諸問題がテンコ盛りなのにまず気づく。
これだけ盛り込み、どう持ってゆくのかと思うと父親が死にローン返済が出来たというオチである(苦。
そしてこの家族の人それぞれに様々な形でアプローチをかけ、各自の目線で追い詰められるところを描いている。
ここもこの映画で重視している部分であろう。
だが大きな流れとしてグイっと収斂して来るところが弱く、全体にやや散漫な雰囲気になってしまっている。
そして尻切れトンボで、終わった気がしない、、、。

大概のホラー映画は、ここまでマイノリティーや社会問題をズッシリ盛り込もうとはしない。
テーマもあやふやになり、何で怖がらせるのか分からなくなってしまうところだ。
もっと単純な図式で今こうなっているとした方が、スッキリ怖がることも出来よう。
それにこの家族、他人の怨念に怖がっている暇や余裕も本来ないのだ。
この悪霊は単なる弱いもの虐めをしている。
母の謂うように「わたしたちが何をしたというの」である。
下の男の子を攫ったり、他の誰にもこれ見よがしな脅しと嫌がらせをして恐怖に陥れる。
そしてもう限界となった奥さんが勤め先で偶然出会った客である霊能者に助けを乞う。
かなりの御屋敷でお金持ちの母娘のようだが、快く応じてくれ自宅にまで訪問してくれた。

そもそもこの悪霊が何に拘りこの家族にここまでちょっかいを出して来るのかというと。
男でありながら女となったのであるが、当然子供が出来ない。
そこで17歳の娘の胎内に宿る赤ん坊が欲しくなったのだ。
当初は5歳の一番下の子を狙っていたのだが。
子どもが出来れば女性としての存在証明とはなるまいが、どうやら本気で母になりたかったようだ。
不憫である。

車椅子の霊能者も身体をはって頑張ったが、除霊とかは出来ず、メッセージ~言いたいことを伝えたに過ぎない。
この霊の力~ポルターガイストも強く、家族は皆それぞれ壁まで吹き飛ばされ、痛い目に遭う。
そしてこの霊の姉のところに正体を探りに行っていた娘が帰り、子どもは渡さないと宣言しガラスの破片で自らの腹を刺す。
霊が怯み家族にかけていた力を解いた瞬間、父が彼女にタックルをかまし4階の窓からダイブする。
父は絶命するが、霊はそこから立ち去る。
人は死ねば現世からは消えるが、霊は基本、何ともないはず。
もともと死んでるのだ。この世界にのこのこ現れているのがおかしい。

これで何かが解決したとは思えぬが、娘のお腹の子はどうなったのか、一家は父の生命保険でローンは完済することが出来、元居た村に戻ることになった。戻ったところで居心地は悪かろうが。
何とも悲惨なだけの噺である。
誰も彼も何もかもが悲惨なのだ。
あの不動産屋の男が憎たらしく思えてならない。
音楽が明るい(笑。
WOWOWにて