ライトハウス

The Lighthouse
2019
アメリカ、ブラジル
ロバート・エガース 監督・脚本
マックス・エガース 脚本
マーク・コーベン 音楽
ロバート・パティンソン、、、イーフレイム・ウィンズロー / トーマス・ハワード(新人の灯台守)
ウィレム・デフォー、、、トーマス・ウェイク:(イーフレイムを監督するベテランの灯台守)
ワレリヤ・カラマン、、、人魚
ローガン・ホークス、、、本物のイーフレイム・ウィンズロー:
1890年代のニューイングランドの孤島の灯台が舞台。
孤絶した地で4週間、灯台の管理を行う。
灯台守は主任と新人の助手で2人だけ。
やたらと意地の悪いベテラン上司に只管耐える新人であるが、、、
登場人物は薄汚い空間に、この男たち二人だけである。モノクロである。

しかしこの映画は凄い。
「神々のたそがれ」を想起してしまう質感を覚えた。
勿論、キャストとこちらの距離まで侵犯する過激さはないが(形式的には所謂、普通の映画である)。
大荒れの海で、息詰まりむせかえるような腐臭漂う灯台の閉塞空間のなかに男二人がぶつかり合いながら揉み合う光景が延々と続くのは観たくもないが、観てしまう。
ちなみにアスペクト比は初期の映画の頃のものと同じか。ほぼ正方形である。
怪しい魔物さながらの人魚も絡み、狂暴なカモメや前任の助手の不可解な死、そして荒れ狂う海に、トーマスが助手にはどうしても見せない灯の管理。

ただ、何故この老人は、何でも呑み込み仕事を身を粉にしてやる新人をここまでいたぶるのか。
イーフレイム・ウィンズローの方も、金が欲しいため、グッと堪えて我慢して従うが、限界が来るのは分かる。
こうした暗く不気味な海鳴りの続く小さな孤島の灯台という気の滅入るような空間に男二人で過ごすなら、互いを労い楽しく仕事も同等に分担してやって行かねばどうにも続かないではないか。
ワザと破滅に向けているように思えてならない。
仕事も過酷な体力仕事は、皆新人任せで、常に不平不満ばかりぶつけている。
そして灯の管理の部屋には絶対に通さない。
大しけで帰りの船が迎えに来なかった後からは、転げ落ちるように破壊的で悲惨な状況に向ってゆく。
浸水で貯蔵食料はダメになり土に埋めたストックは皆酒であった(通常灯台守は飲酒禁止となっている)。
大酒を呑み続けるうちに狂気は増してゆき、水の中から老人の日記・評価簿が見つかり、新人が怠惰で何もせず給料は無給が相応しいと書いてあるのを見て、我慢のタガが外れる。

ここで起こる全ての事に禍々しい幻想が纏わりつく。
特に人魚の怖さは、他のマーメイドモノとは次元が異なる。
人魚は美しく果敢なく描かれたものが多いが、これは狂気のクリーチャーだ。
カモメも狂暴だが、全てが幻想であり悪夢にも思えて来る。
死んだ漁師の魂が宿る海鳥を殺すと不吉な事態になると言われていたがイーフレイム・ウィンズローは不気味で攻撃的な海鳥を殺してしまう。このような行為と相まっていよいよ恐怖と不安が入り混じる様相を呈して来る。
トーマス・ウェイクの謂うように、イーフレイム・ウィンズローを見殺しにして彼に入れ替わり再生を図り森の樵から海の灯台守に転身したトーマス・ハワードは、未だに森の中を発狂して彷徨っているのかも知れない。
非常にディテールの明瞭な悪夢と言われれば納得も出来る。

更に恐ろしいのは、老トーマスを痛めつけ、犬のように這わせたうえで、穴に突き落とし土をかけるところだ。
顔にも土がどんどんかけられているのにずっと喋っている。途轍もない演技である。
土に埋められた後でまた刃物で魔物のように襲ってくるのも圧巻であった。
そして老人にとどめを刺し、彼から奪った鍵でトーマス・ハワードは念願の一番上の部屋~灯の管理の場に立つ。
一体そこで彼は何を観たのか?
ムンクみたいに絶叫して下に転げ落ちる。
明くる朝、浜辺で海鳥に食われている彼がいた。

アニヤ・テイラー=ジョイ主演の「ウィッチ」の監督であった。
圧倒的な完成度の映画であったが、これも生半可なものではない。
共に息の詰まる幻想が支配する敢えて言えば、サイコロジカルホラーか。
WOWOWにて
- 関連記事
-
- スケアスリーアパートメント
- #フォロー・ミー
- ライトハウス
- 落下の王国
- スーツケース・マーダー