ジュディ 虹の彼方に

Judy
2019
イギリス、アメリカ
ルパート・グールド 監督
トム・エッジ 脚本
ガブリエル・ヤレド 音楽
レネー・ゼルウィガー、、、ジュディ・ガーランド(晩年)
ダーシー・ショウ、、、ジュディ・ガーランド(10代)
ジェシー・バックリー 、、、ロザリン・ワイルダー(ロンドン公演でのジュディのアシスタント)
ルーファス・シーウェル、、、シドニー・ラフト(3人目の夫)
マイケル・ガンボン、、、バーナード・デルフォント(興行師)
フィン・ウィットロック、、、ミッキー・ディーンズ(5人目の夫)
リチャード・コーデリー、、、ルイス・B・メイヤー(映画スタジオの責任者)
ベラ・ラムジー、、、ローナ・ラフト(ジュディとシドニーの娘)
ロイス・ピアソン、、、バート(バンドリーダー、ピアニスト)
アンディ・ナイマン 、、、ダン(ジュディの長年のファン、スタンのパトナー)
ダニエル・セルケイラ、、、スタン(ジュディの長年のファン、ダンのパトナー)
ジェマ・リア=デヴェロー、、、ライザ・ミネリ(ジュディと2番目の夫の娘)
ガス・バリー、、、ミッキー・ルーニー(ジュディとコンビを組んだ俳優)
名声を手にし、才能溢れるエンターテナーが必ずしも恵まれた私生活を送っていた訳ではなかったという噺は珍しくはない。
(寧ろ何もかも恵まれていたという方が少ないかも知れない)。
このヒロイン、ジュディ・ガーランドはその極致の人か。
だが、それを物語化するとなると、何とも言えない既視感というか、パタンが重なって来てしまう。
これが大変難しいところだ。幼い頃の抑圧と不遇、名声と引き換えの孤独、愛に引き裂かれる試練等々、、、。
こういったステレオタイプ~フォーマットに嵌り込んでしまうのをどのような角度で見せてゆくのか、となろう。

2歳からステージに立ち47歳で亡くなった女優ジュディ・ガーランドの晩年を描く映画。
大変な脚光を浴びた女優でありジャズシンガーであったが、晩年の彼女は借金塗れで3人目の夫に二人の子供の親権を奪われ、最後の夫とも喧嘩別れとなる。
子どもとの生活を夢見ながら、いつしか子供のこころが自分から離れてしまったことに気付き、その苦悶の中で薬物中毒と神経症に苛まれる。その悲痛な生活の中でも幼い頃からの習性とも謂えるか、ショーの舞台は皮肉にもしっかり熟していた。
ハリウッドデビューであったが途中からイギリスなどに渡ってジャズシンガーとしても実力を遺憾なく発揮した彼女ではある。
しかし私生活では苦難と波乱続きで、何度も自殺未遂を繰り返し、生涯5人の夫と離婚もしていた。

最後に彼女の言葉として、こころにとって人を愛するより愛されることが肝心だという趣旨のものがあるが、確かにその通り。
彼女は幼い頃から母親、ハリウッド、ショービジネス界の食い物にされ、虐待以外の何物でもない食事と睡眠を薬物によって制限、コントロールされ心身に取り返しのつかない深い外傷を受けている。幼い子供に薬をあんなに過剰に飲ませるなんて犯罪以外のなんであろうか。少なくとも、そこに愛など微塵も無かった。
長じてハリウッドの出演映画では世界的な評価は得るが遅刻癖などから受けて然るべき賞の受賞を逃がしてもいた。
彼女を好きなだけ食い物にしておきながら、ハリウッド自ら彼女の受賞を妨害していたのだ。彼女に対する仕打ちは酷いものだった。
彼女が自殺とも取れる睡眠薬の過剰摂取でバスタブで死んでいたのを受け、二人目の夫との間の大女優でもある娘ライザ・ミネリは、「母はハリウッドが大嫌いだった」と謂い、ニューヨークの墓に葬っている。

ジュディ・ガーランドはその当時、著名人では最も早くLGBTに対する理解と共感をはっきり示していた。
映画の中でもその経緯が感動的に描かれる。
彼女にはマイノリティの心情に同情する気持ちの余裕があったのではなく、彼等の抱えた辛さにストレートに共振する酷く壊れやすいこころがあったというだけだと思う。
彼女の長年のファンである同性愛カップルのスタンとダンは彼女の歌にずっと支えられて来たが最後のステージで彼女に恩返しをする。「虹の彼方に」が感極まって唄えなくなった時に、彼ら二人が客席から唄い始める。恐らく初めて彼女が愛を実感するところか。ここは物語のピークである。

これを観ると彼女の人生も、決して孤独で辛いだけのものではなかったことがよく分かる。
彼女は特にLGBTの人々には愛され慕われていた(彼女の死後の彼らの行動・活動にそれがよく現れている)。
「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」はエルトン・ジョンにより、彼女への追悼として書かれたことは有名だ。
彼女の彼らに及ぼした影響は大きい。
とても生きづらい苦痛ばかりの人生であったが大変濃いものでもあったことは確かだ。
何と言うか、ご苦労様と言いたくなる映画であった。

知的で抑制の利いたアシスタントを演じたジェシー・バックリーの存在が一際光る作品でもあった。
彼女が唄いまくる「ワイルド・ローズ」も観てみたい。
BSにて
”Over the Rainbow”があんなに悲しい曲であるとは知らなかった。
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