美女缶

2003
筧昌也 監督・脚本
藤川俊生、、、大町健太郎
吉居亜希子、、、美知川ユキ
木村文、、、マリ
小沢喬、、、隣人の富岡
小沢喬のインパクトがかなりのもの(笑。
健太郎が自分の美女缶を一個盗んだ事に気づきながらも、その使い方ビデオを彼の部屋に投函しておくなど、興味深い人格。
この掴みどころのない怪しさが、この物語を象徴している。

美女缶を取り寄せると、中身をお風呂の湯に入れて30分蓋を閉めて置くだけで、美女が生成されて出て来るというもの。
しかし使用期限があり、それが背中に印字されている(知らないと気づかない場合もあるかも知れない)。
それまで仲良く一緒に恋人気分で暮らせるのだ(飽きる頃に消滅するという仕様であろう)。
刹那的に寂しさを紛らわせるには丁度良い消耗品であるか。
隣人の富岡は、詰め合わせで大量に缶を購入しており、30人ぐらいの美女たちと付き合っていた。
その経緯を知らぬ健太郎が驚くのも無理はない。
彼はこれまで付き合っていたマリと倦怠期みたいな関係になり彼女の出張中、独りでアパート暮らしをしているのだ。

この荒唐無稽な設定~美女缶~を前提として呑めば、期限付の切ない純愛?物語となろう。
しかも、缶から生まれた女が自らが何者であるかを知らないだけでなく、普通の人間と信じて疑わない主人公自らも缶から生成された期限付き人間である(そのこと自体、本人が気づかぬままその時を迎えてしまう)虚しさがよく表されていた。
終盤まであくまでも人間と缶美女の物悲しい恋物語と思って観ていたが、主人公が帰って来たマリに雨に濡れた上着を脱ぐように言われた時に何と彼の背中にも使用期限が記されており、「とうとう温泉旅行に行けなかったわね」と言い残し元カノは立ち去ってゆく。
(健太郎はこの彼女が購入した缶から生成された人間であったのだ)。

健太郎と相思相愛の仲となっていたユキが、隠してあった取説ビデオを偶然、観てしまう。
空き地に雨に打たれて呆然と座り込んでいる彼女。
やっと探し回って駆け付けた健太郎であったが、丁度彼の使用期限の切れる日でもあったという皮肉。
その先はあえて見せずにエンドロールへ、、、。
無常感を残すよい演出だ。
、、、とは言え、何なんだ、この「美女缶」ていうの(男もそうだったから「美男缶」もあったのか)。
これ程根も葉もないファンタジーは、、、そう魔法のレベルか。
まず前提となる、この飛んでも無いテクノロジーである。
こんな完成度の高い人造人間がカップヌードル的な手軽さで生成できたら大変なことであろう。
健太郎がその生成物であることから、それを知らなかったことは頷けるが、世界的に人々にどれくらいこの缶が浸透しているのか?
こんなに手軽に生成できる思いのままになる(記憶が植えつけられる)人造人間というツールが社会生活に馴染んでいるとすれば深刻な状況であろう。大金持ちだけが購入できる代物ではなく、こじんまりしたアパートの住人が大量に購入可能なコストのようだ。
生身の人間同士の関係が築けず(面倒で困難になり)安易に確実な関係が結べる相手でやり過ごすことが流行り出せば、、、
少子化が激しく進行し国が亡ぶはず。いや世界~人類が滅亡する。
(それから余計な事だが、クーリングオフ~返品は出来ないか?これを見たところ、主演の女性ふたり以外美女とは見えない人々に思える。風呂の湯でほぐれて出来てしまった者はちょっと返品し難い気がしたが)。
そのまま市場に野放しに出来ないのは、当然の理で、通常そんなテクノロジーが生まれた時点で、寧ろ国家~軍事産業が目を付け早急に独占管理し最重要機密に置くはず。
国家が人造人間生成過程の全データを取得保持した時点で、その開発者と製造過程に携わった者は全員、口封じに削除である。
(取説ビデオに解説で、にこやかに出演している場合ではない)。
他国に何らかの形で情報が洩れたら一大事だ。
その管理下で秘密裏に増産するのは、兵士である。
一気に自国の危険も顧みず核攻撃でケリをつける以外は、通常兵器で侵略するしかない。
通常兵器での侵略はどうしても多くの兵士が必要不可欠となる。ロボットやドローンだけで闘えるものではない。
使用期限で消滅することも効率的で秘密保持からも好都合だ。
このファンタジー、前提に余りにも無理な絵空事を置き過ぎている。
ガラケーで電話している彼らの世界で、こんな高度な人造人間がポンと手軽に生成されるところに、どうにもしらけるのだ。
しかし(普通の)人間とはそもそも何であるのか、、、
自分とは何であるのか、、、
超越的な(外部の)他者から観るとどう映るのか(最近流行りの高度な文明を持つ知的生命からは)。
それすらもひとつの観方に過ぎないとすれば、、、。
缶から出て来たのではないにしろ。
結構、われわれとて似たようなものかも知れぬ。
缶人間と同様、自分の死期も知らない(管理できない)ままであるし。
AmazonPrimeにて
世にも奇妙な物語で、豪華キャストを使いリメイクされたみたいだ。
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