選ばなかった道

The Roads Not Taken
2022
イギリス、アメリカ
サリー・ポッター 監督・脚本
ハビエル・バルデム、、、レオ(元小説家、認知症)
エル・ファニング、、、モリ―(レオの娘)
ローラ・リニー、、、リタ(モリ―の母、レオの元妻)
サルマ・ハエック、、、ドロレス(レオのかつての恋人)
どう見ても「選ばれなかった道」だが。モリ―がその修正を図るか。いや実は選ばれていたのか、、、
メキシコ移民作家のレオの内閉し交錯する心象世界が重々しく描かれる。
かつて捨てられた娘モリ―が縋るように何とか触れようとしても悉くすり抜けていってしまうその父の世界。
孤独を極める個々の時が過ぎる、、、。

時間~思いがそれぞれの場所(ニューヨーク、ギリシアの海辺、メキシコ砂漠地帯)を彷徨う。
ある意味、とても現実的な世界の描写だ。吐息や肌触りまで感じるような、生々しい感触。
実際、認知症を内面から描くとあのようにトリップしているのだろうし、親族~娘もほんの僅かでも直接の触れ合いを期待し絶望的な介護を献身的に続けてゆく、、、。
時には父のしまっておく写真や小物などを観て何とか彼の心象世界を理解したいと探る。
医者に全く従わない父を、歯医者、眼科の検査に連れてゆき、途中で彼が頭を打ち、CTで診てもらう寄り道をして結局自分は大事な仕事を失う(重要な会議を結果的にすっぽかしてしまうのだ)。
終盤まで心底この娘の姿勢に感服し同情してしまった。
エル・ファニングだから尚更である(笑。
(小説の執筆の為、家族を捨てた男に何故ここまでと思うが、それだからこそ父に対する幻想も大きいのだと思う)。

このハビエル・バルデム演じる父は、自分がその都度望んだ道を独り選んで歩んでゆく。彷徨いながらではあるが、、、。
小説を書くには何かを犠牲にしなけらばならない、、、と。
娘に対する気持ちがいくら待っても現れてこない。
そして恋人に縋り、愛犬の死を悼み、、、娘を捨てたことは、ギリシャの海辺で同年齢の娘に語ってはいたが。
しこりはあるのだろうが、後悔は犬の事故死に対してのみか、、、涙を流して嘆くのは。
(レオの健常時の姿~言動と現在の虚ろで無表情で衝動的な様子の落差が凄いものだ)。

ギリシャの海辺での想い、メキシコでの恋人との重苦しい想い、そしてニューヨークと、、、。
何れも強い思い出と深い感情が突き上げレオを衝動的に突き動かす。
日常習慣、常識、規範意識等が消えうせてしまうと、特定の時間や空間から自由になった「場」に必然的に向かうのであろう。
そして家に帰りたいと謂うが、、、レオにとっての家とは、戻る場所とは、、、
最終的には娘~モリ―のところか、、、
レオの後悔の念とは、彼女に対してもあるのか、、、それがわたしには一番気になっている。

レオがモリ―という名を遂に口にした瞬間、こちらも彼女と共に胸が熱くなった。
実はそうなのか。
しかし、その後も、同じように異なる「場」にいる父に寄り添う娘の生活は続くのだろう。
だが彼女はそれまでの虚無感とは異なる気持ちで父を支えて行けるとは思う、、、。
そうであっても、モリ―自身の生活~彼女の生のことばかりが気になった。
何であってもレオの病状は更に進行して行くのであろうし、、、。
残酷な関係である。
しかしこのような残酷な関係は何処にでもある。わたしも常にその関係を生きている。

独り深夜に自分のアパートを抜け出し、自分の行くべきところを目指しまた放浪を始める。
裸足で歩く虚ろな老人をとてもこころの暖かいタクシーの青年運転手が保護してくれた。
ここで彼は命拾いしたと謂ってもよい。
このような救いなしに、到底この世ではやって行けない。絶対に。
Wowowにて
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