ザ・ウォード 監禁病棟

The Ward
2011
アメリカ
ジョン・カーペンター 監督
マイケル・ラスムッセン、ショーン・ラスムッセン 脚本
アンバー・ハード、、、クリステン(アリスの別人格)
メイミー・ガマー、、、エミリー(アリスの別人格)
ダニエル・パナベイカー、、、サラ(アリスの別人格)
ローラ=リー、、、ゾーイ(アリスの別人格)
リンジー・フォンセカ、、、アイリス(アリスの別人格)
ミカ・ブーレム、、、アリス
ジャレッド・ハリス、、、ストリンガー(医師)
やはりジョン・カーペンターだからか、こういった病棟モノ映画では、とても納得できる快作であった。
幼少期に凄まじいトラウマを受けた少女が長じるに及んで多重人格に成ってしまったのであるが、その各人格が分離し一番新しく誕生した人格~ヒロインの目から描写してゆくため、恰も無法な(まるでナチスの人体実験目的の)病棟に隔離された患者たちのサヴァイヴァル物語のような形で進行する。
凶悪な医者と看護師、殺伐とした院内、残虐な実験装置と禍々しい器具類、、、知らず消えてゆく患者たち、、、退院した訳でもないのに、、、。
ヒロインが「信頼できない語り手」 としてミスリードを見事に誘う。
裂け目のない脚本と演出が素晴らしい。
叙述トリックが利いており、わたしもそのままを観てハラハラしていた。

理由も分からず農家に放火して連れてこられたクリステンには過去の記憶が無い。
当然である。それから逃れるために登場したのだから。
そのクリステンが病院の隔離病棟に強制的に入院させられてみると、他にも何人もの患者がいた。
他の患者は退院をねがいつつも、従順に(何かを恐れ)暮らしている。
クリステンはそうはいかず、婦長の出す薬を一切飲まず、医者にも反抗的な態度を示す。
彼女にとっては環境の総てが不条理なのだ。

しかし主体が多重人格のまま生きてゆく訳にはいかない。
社会生活が不可能であり、病棟から出ることは当然、叶わない。
そこに、クリーチャー化したアリス~メタアリスの存在が秀逸である。
この超自然的なモノが刻々とアリスの分離した別人格を消し去ってゆく、ある意味人格を多重化して自己防衛を図ろうとしたアリスにとり驚異の魔物であろう。

病院の職員や医師は誰一人としてメタアリスを問題視しない。
クリステンが何を訴えようが、彼女を鎮めることしかしない。
(謂うまでもなく彼らに見えて関われるのはアリス一人だ)。
クリステンは、そのアリスを脅威に感じて恐れており、他の患者たちは恐れながらも存在自体をひた隠しにしようとしていた。
彼女は他の患者~人格を巻き込み管理・治療から、メタアリスから逃れようと企てる。

クリステンは一番新しい人格であることから、このメタアリスが何であるか分からないのだ。
と謂うより、アリスに取って代わってアイデンティティを掌握しようとする存在に見えてくる。
他の人格たちは、メタアリスが自分たちを攻撃し出しゃばらないようにして来たことから、ある時寄ってたかってソレを殺して~抑圧してしまった。
その反動で彼女は遥かに強力に狂暴になって蘇り粛清を始めたのだろう。医者側の存在と言える。
アリス本来の自我が強化されたとも見ることが出来るか。
治療が効果をあげているということだ。

そうなると一番厄介なのは、ヒロインのクリステンとなる。
活きがよく大暴れして何度捕まっても脱走を繰り返す。
自由を手にしようと諦めない。
ひとつのアイデンティティに収斂することを拒み続けるのだ。
アリスを乗っ取る可能性の高い危険な人格と言えよう。
何故かジョニー・ディップの顔が浮かんだ(爆。
ジョニー・ディップの大ファンであるわたしにとっても怖いと謂えば凄く怖い。
特に最後を見てしまうと、、、こういう人だったのかも、と思えてくる。
(あの一齣は蛇足だなあ、いらないな)。
結局、主治医がメトロノームで催眠療法を施した際、メタアリスと揉み合いになりアリス=クリステンは窓を破って外に落下する。
ベッドの上で気づくとアリスは、両親と面会し、退院して家に帰ることが医師から告げられる。
病院の医師もスタッフも皆親切で献身的な人であった。
自分のスケッチブックを開き、これまで描いた女性の顔~自分がなってみたい女性であろうか~を眺めるが、クリステンのところで止まる。(まだ拘りが残っていた)。
これは間違いなく傑作映画である。
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