レミニセンス

Reminiscence
2021
アメリカ
リサ・ジョイ 監督・脚本・製作
ヒュー・ジャックマン、、、ニック・バニスター (記憶潜入エージェント)
レベッカ・ファーガソン、、、メイ(謎の歌手)
タンディ・ニュートン、、、エミリー・“ワッツ”・サンダース(ニックの助手)
クリフ・カーティス、、、サイラス・ブース
ダニエル・ウー、、、セント・ジョー
ブレット・カレン、、、ウォルター・シルヴァン
ニコ・パーカー、、、ゾーイ
アンジェラ・サラフィアン、、、エルサ・カリーン
ナタリー・マルティネス、、、エイヴリー・カスティッロ
マリーナ・デ・タビラ、、、タマラ・シルヴァン

記憶。出来事の記憶。
かけがえのない出来事を痕跡としていつまでも残しておきたいと思うのなら記憶に留めるしかない。
しかし記憶は自ずと薄れ変質して褪せてゆく。その際、脚色して美化してみたりその反対であったり、最初の印象は違うものとなることもあろう。そしてそれもやがて消え去ってゆく。
これが悪いものなら忘れることで精神が守られるが、そうでない場合、やはり文字や絵や音楽、写真、動画などでその本質を濃密に残しておきたいと思うだろう。SF映画のマッドサイエンティストならクローンで残すとか、荒唐無稽なことをしでかしたりするが(ただ赤ん坊から育てるのは大変だぞう)。
また。記憶と時間を絡めるのは無理がある。これは止めたい。基本、記憶と時間は関連しない。
時間は一様に大局的に流れるものでもなければ、方向性も持たない。
出来事ごとの固有時が泡の如く生じるだけ。
時間は微細に無限に明滅する。

「過去」と謂うより、「ある出来事」の方が分かり易い。
そして何が起きたかは、特定の視点によってそのように決まるだけであり、それ以外の何ものでもない。
外部から物事を観ることは原理的に不可能なのだから、内面から「世界」を観る他ないのだから、ある出来事はわたしの出来事~過去の思い出で差し支えないが。
その思いに強烈に囚われる人がおり、この物語の主人公がそれだ。
面白いのが様々な視点による思い~出来事を拾い集めて、関心を持つ女性について自分の知らない事柄を繋ぎ合わせ彼女の全体像を得ようとするところだ。それが視覚的に3Dで再現される装置によってなされ、終盤他人の記憶のホログラフィと主人公が抱き合って思いを伝えあうシーンなど、新鮮で切なく無常感が充満してきて素敵であった。(主人公にとり、これまでより深く相手を受けとめてはいても相手は他者の記憶像に過ぎない相互作用のまるでない関係であることが悲しい)。

ひょんなことで出逢い、恋に落ちた女性が突然消える。
やはり「思い」というものが強力に発動する契機は「消失」か(喪失でもよい)。
彼の抱いていたその女性像が他の犯罪者の記憶から抽出され驚き狼狽える。
主人公の方向性が決まり、執念を燃やして、彼女の痕跡と全体像を他者の記憶を辿りながら探ってゆく。
結局彼女の闇の部分を知ることになるが、お互いの直接的な関係により築いた愛は確かなものであったことは確認できた。
彼にとってはそれだけであろう。それが何よりも欲しかった思いなのだ。
それさえあれば、、、すでに彼女は死んでしまっていてもしっかり生きてゆくことが出来る。
と思うのだが、この主人公、その後ずっと~一生装置に入ったまま彼女との思いの中で生きることを選ぶ。
彼の最大の理解者で、彼を常に守って来た助手の女性は、装置で眠り続ける彼を見守りながら、現実を娘と共に生きることを選んだ。

なかなか面白い着想だと思う。
この監督、この線で今後も頑張ってもらいたい。
記憶というと直ぐに過去に結び付け、タイムトラベルとか持ち出す安易で低俗なSFがよく見られるが、それを回避しているところが良い。
「思い」というものにひたすら拘り迫ったSFであった。
Wowowにて

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