アンナ

Anna
1951
イタリア、フランス
アルベルト・ラットゥアーダ 監督
ジュゼッペ・ベルト、フランコ・ブルサーティ、イーヴォ・ペリッリ、ディーノ・リージ、ロドルフォ・ソネゴ 脚本
シルヴァーナ・マンガーノ 、、、Anna
ラフ・ヴァローネ 、、、Andrea
ヴィットリオ・ガスマン 、、、Vittorio
ガビ・モルレ 、、、The Mother Superior
ジャック・デュメニル 、、、Professor Ferri
パトリツィア・マンガノ 、、、Luisa Anna's Sister
ナターシャ・マンガノ 、、、Licia Andrea's Sister
ティナ・ラッタンツィ 、、、Andrea's mother
脚本家がやけに多い作品であるが、回想と現実の繋がりもよく、まとまりはあった。
アンナが何故、ナイトクラブで働いているのか、その経緯は分からないが自分の境遇に随分不満を抱いている様子は窺える。
店のすかしたバーテンダーがどうやら彼女の情夫らしい。それがかなりのネックになっていることも分かる(腐れ縁のよう)。
堅気の実直な男がアンナに熱を上げ結婚を望んでおり、彼女も彼に好意を抱くが素直にそれを受け容れられずにいる。
こういう人は、深い外傷経験を抱えている場合が少なくない。

アンナが本当に安らかで豊かな生を送るのなら、罪の意識を払拭するしかない。
ナイトクラブの人気ダンサーであったことに何か後ろめたさでもあるのか。縁を切りたくても出来ない情夫が問題であるのか。
しかしシスターになろうと病院で人のために働こうと、それは逃げでしかない。
まずは心を拘束しているものを外す作業が必要だ。
いつも傷つけられ嫌いで仕方ないのに関わってしまう情夫は、恐らく幼少年期における親(父)との関係の再現かも知れない。
その男自体は不快で拒絶していても、かつての親に似た対象であり、その慣れ親しんだ無意識的な関係性~感触を意に反して選択してしまう。
こう言ったパタン~傾向は実はよく観られるものだ。親(父)のような人間とは関わりたくないと頭で思っていても知らずそのような男と関わってしまうことを繰り返すケースである。
意識より慣れ親しんだ感覚を無意識的に選択してしまう強迫的反復と、さらに内在する信仰心とのぶつかり合いの為、苦悩は大きな重圧ともなろう。

真面目で頼り甲斐のある農夫と恋に落ち、彼の家族にも受け入れられ漸く平穏な生活を手にしたと思った矢先に、元情夫が彼女を強引に取り戻しにやって来る。この件は実に災難であったが、充分想定出来る範囲でもある(対策を練っておくべきだった)。
将来の夫との揉み合いで、元情夫は自分の銃の暴発により死んでしまう。
実質邪魔は無くなった訳だが、彼氏は自分が殺人者となってしまったことに傷つき嘆き彼女を責め、アンナは罪の意識から、シスターとなり、病院で働く事を選ぶことに。
信仰に縋り、人の世話で忙殺される場所へ。しかしこれは単なる逃げであり、思考停止を自らに課した行為、行動に過ぎない。
最近映画で観たフランス女性と比べ内省的でしっかりした淑やかな感じも持つが、内在化された罪の意識や考えが行動を歪め制限している。
信仰に身を捧げ人の為に身を粉にして働くことで、自分の生を全うしていると思い込もうとしている。
だか、当然葛藤により穏やかな気持ちになれない。こころにとって健康的ではないからだ。
例のフランス女性たちの方が遥かに解放されて健康的で自立している。
このアンナの生き方は、ダダやシュルレアリスムの芸術家から徹底的に批判された対象である。古くはニーチェの辛辣な批判に始まるが。
真に自立し解放されるには、全ての価値や意味からの解放が前提となる。

折角、事故で担ぎ込まれたアンドレアに再開し心が大きく揺らぐ。
親身に寝ないで看病し彼は重症から回復し、変わらぬ愛を彼女に告げる。
だがアンナはそれに応えられない。
この時彼は「君のその修道服は鎧だ。生きることを恐れている。自分を裏切るな」と余りに的確な(ニーチェのような)指摘をする。
しかし彼女は結局、悩んだ末、シスターとして病院に残ることを選ぶ。
病院に次々に急患が運び込まれてきたとき、彼女は患者のところに駆け込み、彼はそれを見て悟る。
確かにここでは彼女の評価はとても高く、誰からもその熱心な働きぶりから必要とされている。
条件的に必要とされているのだが。
果たしてそこに救いがあるのか。解放がなされるのか、、、更なる深みに嵌り込まないのか、、、。
これから先も見ず知らずの助けを求める人々に無償の愛を注ぐ、、、又は自己欺瞞の世界に閉じ籠って、完結となる。
「家族の肖像」、「ルードウィヒ/神々の黄昏」、「バラバ」、「デューン/砂の惑星」など大作、名作に重要な役柄で出ている女優だが、気品はあっても何か重い。
「どうしてもっと自分に素直に生きれないの~」今井美樹の歌を最近耳にしたが、とっても良い曲だと思う。
実はこれが容易に出来なくて皆苦しんでいる。
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