何が彼女をさうさせたか

1930年
鈴木重吉 監督・脚本
藤森成吉 原作
ギュンター・A・ブーフバルト 音楽
高津慶子、、、中村すみ子
藤間林太郎、、、琵琶師・長谷川旭光
小島洋々、、、阪本佐平
牧英勝、、、養育院人事院・原
浜田格、、、曲芸団長・小川鉄蔵
浅野節、、、すみ子の伯父・山田勘太
大野三郎、、、山下巡査部長
中村翫暁、、、質屋の主人
片岡好右衛門、、、玉井老人
海野龍人、、、市川新太郎(すみ子の恋人)
二條玉子、、、県会議員・秋山秀子
園千枝子、、、山田の女房・お定
尾崎静子、、、天使園主・矢沢梅子
「傾向映画」(社会主義思想の映画)として知られ、1930年度のキネマ旬報ベストテンで第1位にランクインし大ヒットした映画だという。
帝国キネマ長瀬撮影所が火災でフィルムも焼失したとみられ幻の名作扱いであったようだが、、、
モスクワの国立ゴス・フィルモフォンドで発見される(誰かが持ち込んだらしい)。
しかし残念なことに、、、
冒頭のクレジット部、すみ子が電車にはねられそうになる最初のエピソード、詐欺師の子分(猿)となるエピソードのほとんど、教会への放火へ至るラストが欠落している。特にラスト部分の欠落は余りに大きすぎる。
始めと終わりの肝心な部分は皆字幕で補う形となった。
これはポーランド映画の検閲で削除された部分を字幕で補ったSF「シルバー・グローブ/銀の惑星」と同様だ。
確かに想像力で補えるものでもあるが、出来たら観たい(残。まだ何処かにこのコピーで完全版が眠っていないものだろうか。
このサイレント映画にびっしりと曲をつけたものが本作。精一杯の修正であったようだ。画質的にはまだかなり荒れている。
サイレント映画に音がびっしり埋め込まれているのは、他の作品にもかなりみられる。
(場合によっては、やり過ぎに感じることもあるのだが)。
噺はこれでもかというほど、次々に不幸に見舞われ翻弄されるヒロインの生涯を描く。
世界恐慌の押し寄せるただでさえ不穏で大変な時期だ。共産党の弾圧と軍部の台頭。いよいよ戦争へと雪崩れ込んでゆく縁。
貧困を生む社会構造と搾取と不正による弊害によるものであるか。
その辺を問うという映画は大方詰まらぬものになりがちだが、この映画は物語としてよく出来ており、カメラワークも演出も今のものと遜色なく、映画作品として魅せるものである。
平板でお説教がましい映画とは明らかに一線を画す。

薄幸の少女、中村すみ子を演じる高津慶子が愛らしく瑞々しい。
彼女の存在が映画そのものを活き活きとした彩あるものにしている。
「何が彼女をさうさせたか」
最後に彼女は教会に火を点けるが、度重なる悪意に耐えかね精神が崩壊してしまった結果と謂えるか。
最初に拾ってくれた車力の玉井老人だけが良い人であったような(後で出て来る新太郎も良い人とは謂えるが、頼りない)。
(それに後で分かるが、老人は彼女の財布に内緒で銀貨まで入れておいてくれた)。
ここで食べた食事が一番美味しかったのではないか。彼女も笑顔でたらふく食べていた。
その後、彼女の食事風景でこれ以上の幸せそうな場面を見ていない。
最初で終わった。
玉井老人と別れた後は、転げ落ちてゆくばかり。これほど人の社会~制度とは残酷なのだと言わんばかりだ。
父が学校に行かせてくれるということで、着いた伯父の山田の家では子だくさんで、新しい子など受け入れようもない状況。
父からの金だけ巻き上げ子守と雑用を押し付けられるだけ。その上、曲芸団に売り飛ばされてしまう。そこでまた更に過酷な生活を強いられる。叔父の家から何とか持ち出した父の手紙を団員に読んでもらうと、父は自殺したことを知る。彼女は余りに労働条件の悪い曲芸団から逃げ出すことにする。団員は皆彼女同様、孤児であった。仲良くなった新太郎と共に逃げるが途中で逸れてしまう。
その後、騙されて詐欺師の手下~猿にさせられたり(この部分が消失により無くなっている)、養護施設に預けられたり、秋山という名前の県会議員の女中をさせられ、そこで侮辱を受け怒るとまた養護施設に戻され酷い生活を続けることに。
ずっと騙され搾取されてきた彼女であったが、琵琶師の長谷川のもとで女中をしていたとき、偶然新太郎に遭う。
彼は劇団員となっていた。直ぐにそこを飛び出し、彼と一緒に暮らし始める。当初は楽しい新婚気分で過ごしていたがそれも長続きしなかった。
彼が解雇され、どん底生活に戻る。そしてついに心中を図るも、すみ子一人が海から救助され助かってしまう。
そのまま天使園というキリスト教施設に預けられるが、そこでも悪魔のような女にそそのかされ外に手紙を書いたと謂う廉で皆の見守る中での告白を強要される。それを嫌がりその夜、教会に火を放つ。
園主の梅子は金を持ち出し他の者たちを置き去りにして逃げてしまう。
ここの一番大きなシーンが全て消失しており、字幕で想像することになる。
すみ子の狂態と燃え落ちる教会、逃げ惑う人々、、、やがて警察に逮捕される彼女。
「みんな天国へ、みんな天国へ」と炎を前にして叫ぶすみ子。
、、、ということらしい、、、。

夜に狂気と燃え盛る炎。
陰惨だが格調のある光景が想像できるが、よく出来た映画だけにそのものを確認したい気持ちはやまやまである。
完全版がどこからか発見されないものか。
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