デッド・ドント・ダイ

The Dead Don't Die
2019年
アメリカ
ジム・ジャームッシュ 監督・脚本
ビル・マーレイ、、、クリフ・ロバートソン(警察署長)
アダム・ドライバー、、、ロナルド・ピーターソン(ロニー巡査)
ティルダ・スウィントン 、、、ゼルダ・ウィンストン:(葬儀屋を継いだ外国人女性、異星人?)
クロエ・セヴィニー、、、ミネルヴァ・モリソン(ミンディ巡査)
スティーヴ・ブシェミ、、、フランク・ミラー:(農夫)
ダニー・グローヴァー、、、ハンク・トンプソン(クリフの親友)
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、、、ボビー・ウィギンス(ゾンビ映画マニア)
ロージー・ペレス、、、ポージー・フアレス(ダイナーで働く女性)
イギー・ポップ、、、コーヒー・ゾンビ(ダイナーに現れたゾンビ)
サラ・ドライバー、、、コーヒー・ゾンビ(ダイナーに現れたゾンビ)
RZA、、、ディーン(配達人)
キャロル・ケイン、、、マロリー・オブライエン
セレーナ・ゴメス、、、ゾーイ(遊びに来た女子)
トム・ウェイツ、、、ボブ(世捨て人、森に住む)
オースティン・バトラー、、、ジャック(ゾーイと遊びに来た青年)
エスター・バリント 、、、ファーン(ダイナーで働く女性)
”The Dead Don't Die”なんて映画、題を見ただけで観る気も起きなかったが、監督がジム・ジャームッシュと知りこれは観るしかないと思い、襟を正して観た。
とは言え、ジム・ジャームッシュの作品は元々背筋を伸ばし襟を正して観るタイプの映画ではない(笑。
ジャージーなちょっと気怠いレイドバックした大人の映画だ。
ここでは、特に力を抜いて遊んでいる感じがありあり。かなり特異なゾンビコメディであった。
だが充分、不安で不気味でもある。

よくまあ、これだけ豪華俳優陣で固めたものだと思うが、イギー・ポップとトム・ウェイツは特にウケる。
トム・ウェイツについてはほぼ最後まで誰だか分らなかった(爆。逆にイギー・ポップ先生はノーメイクでもゾンビになれるのね、流石。
ふたりとも歌も聴きたかったが、そこまでは無理か。セレーナ・ゴメスの歌でもよいから、、、も無理か(笑。
ジム・ジャームッシュってミュージシャンを役者に使うの好きだな。でも上手く使う。
大御所のビル・マーレイが、ゾンビが抜け出た穴に躓いてひっくり返るが、あれは台本なのかアドリブなのか、随分引きずった(笑。
あんなドリフのコントみたいなのを挟むのが、どうにも気になってしまった。
極地で飛んでもない工事をしたお陰で、地軸が傾き異様に昼が長くなり異常事態のひとつとして墓からゾンビが湧き出て来るという発想も、悪い冗談でごり押ししている感じが何とも言えない、、、宙吊り感たっぷり。

通常、ゾーイみたいな役の子は、じたばたして逃げまくり、充分ハラハラさせて最後に内蔵喰われて終わりみたいな流れかと思っていたが、あっさりゾンビ化したモーテルの主人に食い殺されてしまった。
やけに出番が少なかったというか、有名どころがかなり出ていて、適当な尺配分であったものか。
ロニー巡査に死んで転がってるところを無慈悲に首を切られ、無造作に放られていたが、、、この辺のハードボイルドタッチも面白い。
こういうシーンは、この後何度となく出て来る。生前親しかった仲間をゾンビとして葬る。
無常観と諦観も充分に漂わせていた。
ハンクや同僚のミンディ巡査まで頭を粉砕するのだ。
面白いなかにしっかり悲痛さも充ちている。

デレク・ジャーマン監督の映画によく出る才女ティルダ・スウィントンがここで飛び切りすっ飛んだ役で出ているが、この人だと自然に感じるから不思議。
日本刀の殺陣がまた決まっていたが、UFOが何しに来て、何でこの人が吸い込まれて宇宙の果てに去って行ったのか、呆気に取られて見守るばかり、、、やっぱり異星人だったのね、、、。あの仏像は、変だったが。
スマートに乗りながら、ゾンビの首を撥ねて颯爽と墓地に行く。
もしかして警官たちを助けるのかと思いきや、、、
警察署のパソコンで何か交信みたいなのをしていたが、あれでUFOを呼んだのか。
彼女は地球を見限ったかの如く涼しい顔でUFOの中へスーッと入って行く(このシーンはお決まりの形だ)。
ともかくティルダ・スウィントンの超然とした佇まい、素敵だった。

ゾンビはゆっくり動くから一体づつ対処していけば何とかなるが、多勢に取り囲まれたらおしまい。
更に生前の習慣をトレースする自動的運動。
首を撥ねる、頭部を粉砕することで、ゾンビは止まる、、、等々。
(街から家畜やペットがいなくなったのは、ゾンビ来襲を察知したからなのか)。
ゾンビの基本をしっかり押さえたうえでの面白映画であった。
ジム・ジャームッシュの基調とする世界に、たまたまゾンビが現れても結構マッチするところが分かる。
アダム・ドライバー(ロナルド・ピーターソン)なんか、台本読んだら最悪の結末だった、などと早くから劇中で言っている。
役者でありながら、ビル・マーレイと二人でメタレベルの噺をしてしまって、特に問題ないところが懐が深いと言うか、、、
そういえばアダム・ドライバーは、やはり早くからこの猟奇殺人はゾンビが犯人だと断言していたが、これも台本で知っていたからか。
唐突にUFOまで出て来てしまっても物語が解体しないのだから、基調の強固さというか柔軟性に恐れ入る。

そう基調が恐ろしく荒涼としてるのだ。
何でも横断して行く場所なのかも、、、。
殆ど黄泉の国みたい。
そこではUFOでもゾンビでも何でも交差してゆく、、、。
それから伏線も何も知ったことではない、というのもよい。
あの少年院の脱走トリオがちょっと気になったが、、、。

そしてこういう状況下でもっとも強いのは、(人間であれば)トム・ウェイツ演じるようなアウトサイダーなのだ。
普段は何かあると馬鹿から直ぐに胡散臭いと罪を擦り付けられたりするが、、、。
非常時には、この立場しか救われない。
境界にあって絶えず観察する立場。
(ただし、物欲に駆られ利己的な生活を送って来た代償だ、みたいな理屈は詰まらないから言わない方が良い)。
ゾンビの暴れ振りを双眼鏡で眺めながらトム・ウェイツが鶏肉を美味そうに食い溌溂としていた(笑。
森にせよ、この境界上の襞みたいな場所に最近とみに惹かれる。
文句なしの迷作いや名作。
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