ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像

Tumma Kristus
2018年
フィンランド
クラウス・ハロ 監督
アナ・ヘイナマー 脚本
ヘイッキ・ノウシアイネン、、、オラヴィ(老画商)
ピルヨ・ロンカ、、、レア(娘)
アモス・ブロテルス、、、オットー(孫)
ステファン・サウク、、、アルバート
ペルッティ・スベホルム、、、パトゥー
ヤーコブ・オールマン、、、ディック
クリストファー・モラー、、、レッペ
オラヴィという老画商がなんとも味わい深い雰囲気を醸していた。
フィンランドの名優だと思う。この俳優を観ているだけで深いドラマを感じる。
親(父)~子(娘)~孫(男子)の間の絆の修復を一枚の絵を絡めて描く。

老画商オラヴィは、最後の大きな取引をして(娘に勧められていた通り)店を畳もうと思っていた。
そこへ孫のオットーが職業体験にやって来る。詐欺まがいの事件を起こし引受先がない為、祖父の画廊に転がり込んできたのだ。
この孫は頭は効くが素行は悪く、最初のうちは、かなりぶつかり合う。
だが、魅惑的な絵の素性を探るミステリアスなサスペンスに乗っかると思いの他集中力を発揮する少年なのだ。
オークションハウスに友人に誘われ行った会場で、オラヴィは数ある絵の中から一枚の作品に強烈に惹き付けられる。
作者名(サイン)も無く絵の名もどこの美術館から来たものかも分らぬ絵として地味に置かれていたものだ。
ぶっきら棒に見たまんまの「男の肖像」という名が取り敢えず付けられていたが。

長い画商の経験からオラヴィは飛んでもない掘り出し物との遭遇を感じるのだった。
その重厚な宗教性を帯びる作風と精緻な描写からイリヤ・レーピンのものだと推察する。
「フィンランドの画家ではここまで描けない」オラヴィは畏怖の念を込めて呟く。
親友の画商は、リスキーだから関わるなと忠告するが、彼はその絵が頭から離れない。
オラヴィは、結局二日後のオークションで落札する。
孫と必死にその絵の素性を探り、作者と画題と所蔵されていた美術館を膨大な図録から調べ上げ確信を持った。
1万ユーロで落札したが、売れば10万ユーロは軽く超えるものだ。
絵の鑑定をネット上から信頼できる美術館に孫を通してしてもらう。
その絵はやはりイリヤ・レーピンの「キリスト」であった。聖画であるため、画家個人のサインも控えられていたのだ。
返事は充分納得できるものであった。

だが、その絵の落札価格1万ユーロは彼の手持ち資金では到底足りず、孫の大学資金にとシングルマザーの娘が必死で独りで貯めたものを彼女に内緒で孫におろしてもらい流用した。この辺では孫は完全に悪オヤジ側である。彼の審美眼と信念に引き寄せられて助手になっている(笑。
これを知った娘は、これまで自分には何もしてこなかったうえのこの仕打ちとは、と激怒して絶縁を突き付けて来る。
それも当然だ。自分の審美眼に触れる絵の収集を何よりも最優先にする日々を送って来たのだろう。
挙句の果てにこれである。怒られて当然、なんてものではない。
彼も金を得る為、一番の顧客に直ぐに連絡して絵を見せるが、その男には金はあるが審美眼があるわけではなかった。
一度は、オラヴィの勧めに乗り、12万ユーロで購入を決めるが、用事を済ませてから寄ると言いその場を離れる。
サインがなく出所も心配なことから、彼はオークションを主催した画廊を訪ねたのだ。
そこで吹き込まれた情報から購入を見送ることに、、、。ここの主人は、その絵の真価を観抜けなかったことでオラヴィを陥れたのだ。
同時にその絵の信憑性が疑われ当分買い手も付かない状況にオラヴィは追い込まれてしまう。

失意と落胆で憔悴したオラヴィは店を畳み、友人に受け渡す。
絵も処分するが、レーピンの絵は孫に譲渡するように遺言に記して彼は亡くなった。
腕白な孫は能力は高く、一度祖父と調べ事など始めると思いの他、積極的に働き、確実な成果をあげる。
孫の職業体験のシートに「最高」の評価を与えてくれと遺言にも添えられていたが、きっと素晴らしい絵を託された孫も優れた審美眼をもつ画商になるのではないか。
オラヴィという画商、絵に魅せられた男の生き様とか言えば聞こえは良いが、家族を蔑ろにして来たことは窺える。
娘の積年の恨みは相当なもののようだが、、、。
子供を独りで育て上げた今、老境を迎えた父と改めてやり直そうとしていた。
その矢先、父は亡くなってしまう。
彼の最後に見出した名画が孫を頼りがいのある男に成長させ、三人の絆は修復されたと謂えようか。

「オンネリとアンネリ、、、」シリーズや「レニングラード・カウボーイズ、、、」、アキ・カウリスマキ監督の「愛しのタチアナ」と「ル・アーヴルの靴みがき」等、、、どんよりと黄昏て美しいフィンランド映画が、また楽しみになった。
AmazonPrimeにて

音楽にも惹かれた。
フィンランドを味わう環境ヴィデオにもなるくらい。
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