サボタージュ

Sabotage
1936
イギリス
アルフレッド・ヒッチコック 監督
チャールズ・ベネット、イアン・ヘイ、ヘレン・シンプソン、アルマ・レヴィル 脚本
ジョセフ・コンラッド『密偵』原作
シルヴィア・シドニー、、、ヴァーロック夫人(アメリカ人の若妻)
オスカー・ホモルカ、、、カール・ヴァーロック(映画館主)
ジョン・ローダー、、、テッド・スペンサー( 隣の八百屋の店員に化けた刑事)
デズモンド・テスター、、、スティーヴィー(ヴァーロック夫人の幼い弟)
ジョイス・バーバー、、、ルネ( 映画館のチケット売り)
やはりヒッチコックは一味違うと唸る映画であった。この終わり方特に好きだ。
いきなり大停電の混乱から始めるところ、掴みはOK(笑。
これを仕掛けたのが、映画館主のヴァーロックであった。
その妻は初っ端はセーラー服を着ていてピッタリ似合っている乃木坂風の可憐な女性である。

このヴァーロック夫人が余りに若すぎて最初は彼の娘にしか思えなかった。
何でもアメリカは景気が悪いので、こちら(イギリス)に渡って来たとのこと、、、こちらも景気は良くないようだが。
歳の離れた夫婦で、彼女のこれまた若い弟も同居しており、少し変わった感じの家だ。
家政婦に夫はいつもキャベツを焦がすと文句を言っている。
夫がまるで父代わりの感じの家庭で、彼女の弟も可愛がっていた。

夫は映画館主だが度々変装して外出する裏の顔は反政府組織の工作員であった。
組織の上司から金を貰い仕事をしているが、人の殺害は何とか避けたいと思っている。
だが、金欲しさに爆破テロの仕事を引き受けることに。
映画館の隣の果物屋では、その夫に眼を付けた刑事が店員を装い、ずっと監視していた。
映画館にもよく来てお節介を焼いたりして干渉して来る。
しょっちゅう映画館を訪れているうちにスペンサー刑事とヴァーロック夫人は親しくなってゆく。

前回の停電作戦は組織の上層部には受けが悪かったらしく、ロンドン市長の就任パレードをターゲットにすることが告げられた。
館長は時限爆弾が同志のペット屋店主から送られてきて、それをしかける危険な任務を負うこととなる。
1時45分にセットされたもので、早速それを偽装の為のフィルム缶と共に抱え出掛けようとしたが、丁度その時、スペンサー刑事が聞き取りに来ていた。
怪しまれることを恐れ彼女の弟に代わりに持って行かせることに。
弟は勿論任務の事など知る由もなく、時間に遅れるなとだけ言われ出掛ける。
だがまだ幼い少年は、あちこち寄り道しているうちに時間に間に合わなくなった。
(厚かましい露天商に捕まったのは運が悪いが、この時代の映画にはよく出て来る景色だ)。
彼もロスした時間が流石に気になり、バスで(可燃物のフィルム缶を持ってバスには乗れないのだが車掌に無理を言って乗せて貰い)運ぶことにする。車窓から街頭に掲げられた時計の針の動きを気にしながら乗って行く。
この演出でこちらもそわそわしてくるというものだ。
街は思いの他渋滞で、なかなかバスも進まず、針はピタリと1時45分を指す。
無情にも彼を乗せたバス毎大爆発(弟は爆弾の隣にいたから木っ端みじんであろう)。
無差別テロの映画上での先駆けか。

弟の死を知り、姉は倒れ込んでしまう。
彼女は夫を怪しんでいたが、彼の本当の仕事を知ることになる。
同時に隣の果物屋の店員がずっと夫の監視をして来た刑事であることも分かる。
結局、弟は誰に殺されたのか、、、
直截的には爆発物を手渡した夫であろう。
しかし夫は、たまたま居合わせた刑事や任務を無理やりやらせた組織上司のせいにし不幸な事故として開き直っている。
彼女は混乱を極めた。
夕食の際、こんな時にも関わらずまた夫が、家政婦のキャベツを焦がした料理にケチをつけるのだ。
その時、咄嗟に彼女は食事のナイフを手にして緊張した面持ちになる。
彼女の混乱した殺気に気づき顔を恐怖で強張らす夫の表情の長回しも特筆もの。
(ヒッチコックお得意のカメラだ)。
夫がそっと彼女に近づき押さえようとした瞬間、彼女のナイフが彼の胸に刺さってしまう。
夫は倒れ身動き一つしない。このナイフで刺すところは、故意にやったというより物の弾みに近い。
彼女は動転しよろめき椅子に腰かけたまま茫然自失。

この奥さんが上手く罪を逃れたタイミングは流石のヒッチコックである。
何であろうが一度、裁判ともなれば恐らく彼女に勝ち目はない。
しかし直ぐ後に、ペット屋が鳥籠の回収にずかずかやってきたのが、ラッキーな流れであった。
(奥さんに早く証拠隠滅しなさいと急き立てられてやってきたのだ)。
そこでヴァーロックの遺体を発見して動転するペット屋店主。
更に彼をマークしてやって来た警察たちに映画館を包囲されているのを知り、逃げ場のないことを悟る。
切羽詰まったペット屋は自爆を選ぶ。
これで男と夫の死体はどちらも派手に吹っ飛び、死因は爆死以外になくなった。
彼女は面倒から解き放たれた。
しかし弟と夫を同時に失ったこころの傷は大きい。
スペンサー刑事にもたれかかりながらその場を去って行く。

今回実行犯は2人が爆死したにせよ、反政府組織の上層部にまでは手が届かず仕舞いであった。
取り敢えず、難を逃れた二人はホッとする。
新しい生活が始まるのだ。
(こういう転機もある)。
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