間違えられた男

The Wrong Man
1956年
アメリカ
アルフレッド・ヒッチコック監督・製作
マクスウェル・アンダーソン・アンガス・マクファイル脚本
マクスウェル・アンダーソン『The True Story of Christopher Emmanuel Balestrero』原作
バーナード・ハーマン音楽
ヘンリー・フォンダ、、、マニー(バンドのベース弾き)
ヴェラ・マイルズ、、、ローズ(マニーの妻)
アンソニー・クエイル、、、フランク・オコナー(弁護士)
ハロルド・J・ストーン、、、バワーズ警部補
ヒッチコックがカメオ出演ではなく導入の語り部で出ていた。これはいつもと違うなと思ったらそうだった(笑。
確かにホラーだ。

マニーは、妻の為にお金を借りに彼女の保険証書をもって保険会社を訪れるが、そこで過去二度も強盗に入った男と間違えられ逮捕されてしまう。
何故行員は彼を犯人だと訴えたのか。
思い込みによる見間違えである。
事件の際の目撃者の証言が当てにならないのはよく聞く話だ。
先入観や頑固な迷妄から見ていなものを見たと言い、聞いてもいないのに聞いたという。
それが本人にとって嘘でないことが厄介なのだ。本人は正義感タップリでいるから困ったモノ。
そかしこんなバカげたことで、冤罪により自分は勿論、家庭そのものを滅茶滅茶にされては堪らない。
だが、実際そんなことがある。
この噺も実話が元になっているようだ。
ヒッチコックの撮るサスペンスの中でも一番面白味が無くシビアなものになっている。
彼の作品はどれをとっても軽妙洒脱で、怖い事件でも何やらワクワクするものだが、これはひたすら暗くてシンドイ。
裁判でも全く勝ち目がなく、(災難を全て自分の落ち度と受け取ってしまう)妻は精神をやられ病院に入院してしまい、ただでさえ大変な時に支えてくれるはずの人のケアをしながら、そんな気持ちになれぬだろうに心地よいジャズなどをクラブで聴かせなければ金も入らない。
おまけに母親がとても必要な時期の子供もふたりいる。
どん底である。

しかし、裁判において被害者側共同体の証言だけでこれほど有利に進められるものなのか。
非常に危ないものである。更に弁護士がまるで役にたっていない。
劣勢にまわりどうにもならない状況が続く。
そんななか最後の最後に真犯人が捕まる。裁判は一瞬に吹き飛ぶ。いままで何やって来たのか、と言う感じ。
この男はこれまで色々なところで断続的に強盗を繰り返してきた。
彼としても身代わりが捕まっていようと、そろそろ自分自身の仕事をやらねばならない。
喰っていけなくなるだろう。
捕まった男はマニーそっくりであった。首実検の危うさ(当たり前だ)。似ている人間なんていくらでもいる。
警察は、な~んだあ~と言うことで、もう君はいいよ、となるが地獄の裁判から解放され無罪放免となったとは言え、それを喜んでくれる妻は廃人同様。子供たちも大変なストレスに晒されてきた。
警察は終始、途轍もないドン臭さ。
初動からあり得ない動きで、決めつけによりサッサと終わらせようとしているだけ。
陪審員の質の悪さも酷かった(元々この制度はあり得ない)。
理不尽以外に何と謂ってよいか、という御話であった。

二年後にこの妻は復帰し、普通の家庭生活に戻ったという。
それは良かった。実話であるし尚更良かった。
そうはならない場合も少なくないはず。
わたしもこの手の輩の思い込みによる甚大な被害を受けている。
映画では、その点はっきりと決着はついたが、なかなかそうはいかない。
しかしわたしの場合、突き進む上で、一ミリのブレもないことは幸いである。
絶対的確信があることは、強みでしかない(笑。
マニーとローズの心情の痛々しさがよく伝わって来た。
流石にヘンリー・フォンダ、役者はやはり上手いに越したことはない。
何故かピーター・オトゥールを想いうかべてしまった(似ているのだ雰囲気が)。
BSTVにて
