見知らぬ乗客

Strangers on a Train
1951年
アメリア
アルフレッド・ヒッチコック監督
レイモンド・チャンドラー、チェンツイ・オルモンド脚本
パトリシア・ハイスミス『見知らぬ乗客』原作
ディミトリ・ティオムキン音楽
ファーリー・グレンジャー、、、ガイ・ヘインズ(有名テニス選手)
ロバート・ウォーカー、、、ブルーノ・アントニー(サイコ男)
ルース・ローマン、、、アン・モートン(上院議員の娘)
レオ・G・キャロル、、、モートン上院議員
パトリシア・ヒッチコック、、、バーバラ・モートン(アンの妹)
ケイシー・ロジャース、、、ミリアム(ガイ・ヘインズの妻)
マリオン・ローン、、、ブルーノの母
ジョナサン・ヘイル、、、ブルーノの父
マーレイ・アルパー、、、ボート小屋の使用人
ロバート・ギスト、、、ヘネシー刑事
本当に映画らしい映画を観た。
映画の形式を職人芸で使い切るヒッチコックはやはり流石である。
ミリアムが絞殺される際、相手をメガネの反映で見せたり、ブルーノがライターを溝から必死に拾いあげるシーンとガイが最後のセットに何とか競り勝つシーンを交互に絡めるところなど緊張の畳み掛けが見事であった。
ブルーノの人格を示すのに、お祭りで子供が手に持つ風船を煙草の火でパンッと破ってしまうという所作をもってくる。
この辺、憎いところ。一瞬のシーンでしっかり分らせる。
そして精神を病んでいることは、自分が殺したミリアムそっくりのバーバラを見ることで自制を失い別の夫人を絞殺しそうになることで如実に示す。明らかに精神病院に入院させるべき患者であることが分かる。
此処まで行かない監督なら色々と説明的なシーンをかなりの尺を持って撮るのでは。
わたしは全く興味はないのだが、これから映画の勉強する人には持って来いの作品かも。

ブルーノという男、列車に乗り合わせただけの初対面の相手(のプライベート)にいきなりズケズケ入り込み、おまけに交換殺人まで持ちかけるなど、まずまともではない。と謂うより狂人である。相手が妻と不仲で離婚を望んでいるという情報を持っているだけでよくもまあ、、、。この他者との距離感の病。これは大きい。
わたしが最近色々な局面で、つくづく思うのが多くの人々のこの距離感の取れなさ加減である。
他者に対する決定的な想像力の欠如と自己投影に対する無自覚である。
単に上っ面であったり又聞きの興味本位な不確かな情報などで直ぐに全てを了解した気になり手前勝手な行動に出るなど、、、迷惑な輩が実に多い。頭が悪いだけではなく品性も欠如している。

ガイがしっかりした人間で全く取り合わず普通はこれでおしまいのはずだが、事態は飛んでもない形で急展開をみることに。
(流石にその粘着質の男の異様な接触に動揺しガイはネームの入った高級ライターを車内に置き忘れてしまう。当然ブルーノはこれは使えると懐に収める)。
このブルーノの常軌を逸した人格にガイは極限まで振り回されることに、、、。
何と頼まれもしないのに勝手にブルーノはガイの妻ミリアムを殺害してしまう。
そして約束通り目の上のたんこぶの自分の父親を殺せと迫って来る。
完全なストーカーで試合会場ばかりでなく様々な場面~極プライベートなところにまでやってきて約束を果たせと脅迫する。

当然、ガイは妻殺しの件で動機を疑われ警察に容疑者としてマーク~常に監視される羽目に。
モートン一家を巻き込んでしまった上に度々訪れるその男を訝るアンには一部始終を伝える。
警察の疑いも晴らさねばならぬし、モートン家も恐れ戦く形となり(特にミリアムに顔の似ているバーバラ)、アンとの将来の為にもガイとしてはブルーノの暴挙を何とか収めない訳には行かない。
それぞれの人物の緊張感を高めつつ場面を交互に絡めながらスリリングに展開して行く手法などは見事。
ヒッチコック監督の真骨頂か。
今回はコントラバス?を抱えて列車に乗り込むスマートな役で彼はカメオ出演している。
ボート小屋の使用人が殺人事件が起きた直後に目撃した不審な動きをするブルーノを記憶していたり、、、
同時刻に同じ列車でコリンズ教授が微積分の講義の話をガイに向けたことは、教授の泥酔のせいですっかり忘れておりアリバイにならない、、、など微妙な不整合でハラハラさせる。
この上手くいきそうで行かないズレが演出もともない話を面白くさせてゆく。
特にライターをうっかり落とした下水から拾おうとするブルーノと彼の動きを阻止しようと試合を焦るガイの2人の死に物狂いの対比は凄いとしか言えない。

そして終盤の暴走する回転木馬での死闘である。迫力十分。
ブルーノはガイを犯人に仕立て上げる為、殺害現場に例のライターを置きに行く途上での揉み合いとなった。
警察も監視の網から逃げたガイを逮捕しようと駆けつける。
だが、そこへ例のボート小屋の男がやって来て怪しいのは揉み合っている相手側の男だと刑事に伝える。
ガイもブルーノのライターの計略の件を説明し、それを確かめることとなった。
係員によって急停止した木馬は大破する。
その事故に巻き込まれ瀕死のブルーノは、しかし最後までしらをきる。だが死んだ後で手に握っていたものを確認すると、まさにそのライターであった。
ガイの疑いが晴れる。
後日アンと仲良く列車に乗るガイであったが、またしても『見知らぬ乗客』から「ガイ・ヘインズですね?」と声をかけられる。
2人は慌てて列車を降りてゆく。
気持ちは良く分かる、、、。
最後の最後まで気の抜けない映画であった。
BSTVにて

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