幽霊と未亡人

The Ghost and Mrs. Muir
1947年
アメリカ
ジョーゼフ・L・マンキーウィッツ監督
フィリップ・ダン脚本
R・A・ディック原作
ジーン・ティアニー、、、ルーシー・ミュアー/ルチア(未亡人)
レックス・ハリソン、、、ダニエル・グレッグ(船長の幽霊)
ジョージ・サンダース、、、マイルズ・フェアリー(児童作家、結婚詐欺)
ナタリー・ウッド、、、アンナ・ミュアー(ルーシーの娘)
エドナ・ベスト、、、マーサ(メイド)
バネッサ・ブラウン、、、アンナ・ミュアー(ルーシーの娘・子供時代)
モノクロのトーンが美しい。
暗闇の壁面に忽然と光が射す時などハッとするものがある。
ヒロインは気の強い独立心旺盛だが、ごく普通の感性を持つ未亡人である。
綺麗なので何かと他人から(特に男性から)気に掛けられるが突っぱねながらも真に受けたりするところがあった。
自分の意見をはっきり述べる割にコロッと乗せられてしまうタイプ。
ここでも幽霊やメイドから再三忠告されたにも関わらず、妙な児童文学の作家に結婚詐欺まがいの仕打ちを受ける。

しかし幽霊がこれ程の尺でお節介に出て来る映画も珍しい。
幽霊はルーシーをその名では召使みたいだと言い、ルチアと呼ぶ。
秘められた特別な関係が始まる。
この幽霊とまるで夫婦のように本音で語り合い時にはぶつかり合いしながら絆が深まって行く。
彼の生前の大海原での生活を彼女は色々と文句を言いながら小説に書きとめてゆく。
書き上げてみると彼女自身も納得する知的な書物になっていた。
出版社に無理やり持ち込んだが、編集長も一読して大いに気に入り出版の目処が立つ。
凄いお伽噺だ。
幽霊もルチアにしか見えない(メイドには見えない)ため、実際に出て来ているのか、彼女のイメージの産物なのか定かではない。
船長の肖像の印象が強くそこから刺激された何らかの能力の発現~投影にも想われる。

ただし、船乗りを主人公にした一代巨編が彼女の手により書き上げられたことは確かだ。
まさに人生は航海そのものと言う感じだ。
霧のなかに迷い込む不安と孤独。
船乗りの人生には惹かれる。
とても詩的で文学的な経験とも謂える。
神秘的な冒険譚。
ランボーも船に乗った。
アンリ・ミショーはじっさいに船乗りであった。

霧や海辺の描写が大変饒舌であった。
特に後半、風景と心理描写がピッタリ絡み一体化していた。
しかしチャラい児童文学者と付き合っている時やダニエル船長の幽霊と語り合っている時、娘の気配がまるでないのは不思議。
メイドは頻繁に心配役として各シーンに頻繁に登場しているのだが、娘が不自然な程気配を消しているのが気になった。
特に幼い時期は何かと母におねだりをしては甘えて来るはずだが、その辺の描写の無い所はとても気にかかる。
まるで子供のいない未亡人みたいであった。
子供の為のカットもあったがそれだけ。
まるで寄宿舎から夏休みに帰ってきたような現れ方なのだ。

大人~大学生になって母のもとに婚約者と共に帰って来た娘は実に存在感ある娘であった(笑。
その娘との会話で長いこと夢として遠くに置いてけぼりにして来た船長ダニエルのことを思い出すルチア。
遠い昔の夢のように忘れ去っていた情景が鮮明に浮かび上がるのだ。
(二人が同時にそれまで何の縁も無かった肖像に描かれただけのヒトの夢を見ていたなんてことは、ない)。
ここでダニエル幽霊船長は自分と逢っていない時には娘と遊んでいたことが分かった。
母としては自分の目にしか映らぬ相手と感じていたが、娘は知っておりちゃんと覚えてもいるのだった。
娘は船長の事が好きと言う。
幽霊が実在したことをはっきりと知る。

終わりごろに出て来たナタリー・ウッドの美しさが際立っていた。
ここまで目立つと映画としてのバランスが崩れる感じはする(笑。
ずっと姿を消していたダニエル船長がルーシーの寿命の尽きる時に迎えに来る。
これもハッピーエンドに他ならない。やっと二人は一緒になれる。
AmazonPrimeにて

2日ほど疲れで何も出来なかった。