オーソン・ウェルズ IN ストレンジャー

THE STRANGER
1946年
アメリカ
オーソン・ウェルズ監督
ヴィクター・トリヴァス、デクラ・ダニング原作
オーソン・ウェルズ、アンソニー・ヴェイラー、ジョン・ヒューストン脚本
エドワード・G・ロビンソン、、、ウィルソン(刑事)
オーソン・ウェルズ、、、チャールズ・ランキン(高校教師・時計技師)/フランツ・キンドラ(ナチス高官)
ロレッタ・ヤング、、、メアリー・ロングストリート(判事の娘、チャールズの妻)
フィリップ・メリヴェイル、、、マイネキー(元収容所所長)
リチャード・ロング、、、ノア・ロングストリート(メアリーの弟)
バイロン・キース、、、ジェフリー・ローレンス(メアリーの父、判事)
ビリー・ハウス、、、ポッター(雑貨店主人)
マーサ・ウェントワース、、、家政婦
ヒッチコック調の雰囲気で充分愉しめた。
オーソン・ウェルズ自身は自分のこの映画が気に食わなかったそうだが。
映画の絵そのものは、まさにウェルズのものであった。独特のコントラスト、長回しも含め。
時計への拘りは作品の質感も決めている。
時計台と梯子という垂直性の際立つ構図が随所に見られ特徴的。
終盤にかけてその梯子が意味を持つ。
よく出来ていると思ったのだが、何が悪かったのだろう。

エドワード・G・ロビンソンは映画ファンの中ではとても人気の俳優だがわたしはよく知らない。
恐らくここで初めてお目にかかった。
ベテランの切れ者刑事(戦争犯罪委員会の委員長?)を演じていたが、実に味のある役者だ。
厳しいが親しみのある物腰で頼りがいを感じる。
潜伏する元ナチ狩りに執念を燃やす。
ナチの大物高官の逮捕の為、元収容所所長マイネキーをワザと釈放し泳がし尾行する。
オーソン・ウェルズはひたすら暗い。結構、生徒たちに慕われているのに。
(相変わらず重厚な存在感だが、暗くて重くてそれだけでも奥さん大丈夫?というところ(爆)。
アメリカで身を隠し、名門校の教師となり、判事の娘とも結婚して偽装生活は完璧と言えたのだが、、、
選んだ場所コネチカットのハーパーも余所者を受け容れる良い街ではないか。
しかし囮のマイネキーがのこのこ元上官であるフランツ・キンドラに真直ぐ逢いに行ってしまう。
まさに狙い通り。ドンピシャである。勿論彼はチャールズ・ランキンで行かねばならない。
流石に元高官は簡単に尻尾は出さないが、警戒レベルを過剰に上げる。

それにしても自分を慕ってやってきた元収容所所長である部下をいとも簡単に殺す必要があったのか?
(本当の自分をひた隠しする為だけに殺害とはリスキー過ぎないか)。
余計に面倒なことになると思うが。
相手はもう教会に絡めとられ完全に懺悔しておりどちらの陣営にとっても無害な老人である。
(自分でもわたしは変わりましたと言ってしきりに悔悛しており、またナチを復活させようとか言う危険分子ではない)。
わかったわたしも悔悛するからもう来るなと言って追い返せば、波風立たずにそのまま済んだように思われるのだが。
(身を守るには、波風を立てぬことが基本である)。
何にしても、死体を出したらもうお終いではないか。バレて追い詰められるのは時間の問題となる。
犬も絡んでいるし。
この辺の対応・処置はナチ高官にしては余りにお粗末では。
結婚相手に対して騙る嘘もちょっと厳しい。
妻以外に漏れたら確認を取られ直ぐに分かってしまうものだ。
そして邪魔だと判断すれば所長や犬と同様に殺そうとする。
自分を庇う妻でもマインドコントロールが効かなくなったと判断した時点で。
益々身を危うくする方向に進めてゆく。
よくこんな計略で行くような男にナチの若きエリート高官が務まったものだ。

口の上手さで切り抜けていけるものをもっているのに。
一時は、鋭いウィルソンを丸め込むところまで行ったのに惜しい。
ただ流石にナチ狩り専門家は夜中にハタと気づく。
マルクスの事を「ユダヤ」呼ばわりをするのはナチの特徴だと。
眠っている時もナチ狩り思考は働き続けているのだ。
やはりそれくらい一所懸命にやっていれば、成果もあがるというもの。
夢中になって打ち込むことが大切だと言うことは、こういう場面からも汲み取れる(笑。
ナチスの残虐さを確認するうえでウィルソンがメアリーに見せる強制収容所のドキュメンタリーフィルムがあったが、この当時ではこのくらいのものかと思った。現在のドキュメンタリー番組などでは、かなり強烈でショッキングなものが流されている。

最後の計略で教会の時計台に上る階段に細工して奥さんを墜落死させようとして呼び出した際、彼女は躊躇なく飛び出さんとしたが、マーサ・ウェントワース演じる家政婦が仮病でそれを止める。これで流れが完全にウィルソン側になった。
彼女の功績は大きい。要所要所でしっかり働く。
終わり方は、かなり劇的、というか劇画調か。
自分の直した教会の時計の動く像(天使?)に刺されて死ぬのだから。
このシーンに力を入れていることは分かる。

オーソン・ウェルズ自身は、自分の力作は評論家には絶賛され、商業的に失敗しても評価の高い監督だが、この手の(娯楽サスペンス)作品でヒットを飛ばしてゆけば、風当たりも悪くなくなり、自由な製作も出来るようになったのでは。
AmazonPrimeにて

- 関連記事
-
- ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール
- オーソン・ウェルズ IN ストレンジャー
- 夜歩く男
- 宇宙のデッドライン
- ビタースイート