からっ風野郎

Afraid to Die
1960年
増村保造 監督
菊島隆三、安藤日出男 脚本
音楽 塚原哲夫
「からっ風野郎」主題歌 作詞・唄:三島由紀夫、作曲・ギター演奏:深沢七郎、編曲:江口浩司
三島由紀夫、、、朝比奈武夫(朝比奈一家の二代目)
若尾文子、、、小泉芳江(映画館「コンパル」従業員)
船越英二、、、愛川進(朝比奈一家の舎弟、武夫の親友)
川崎敬三、、、小泉正一(芳江の兄)
根上淳、、、相良雄作(新興ヤクザ相良商事の社長)
小野道子、、、高津綾子(愛川進の恋人)
水谷良重、、、香取昌子(武夫の情婦の歌手)
志村喬、、、平山吾平(武夫の叔父貴)
潮万太郎、、、金沢(朝比奈一家に出入りしている酔っ払い)
倉田マユミ、、、村田(産婦人科医)
神山繁、、、ゼンソクの政(相良に雇われた殺し屋)
三津田健、、、川瀬(刑務所の所長)
山本礼三郎、、、雲取大三郎(雲取大三郎)
キャバレーで香取昌子の唄う「バナナの歌」が実に不気味だった。
こんな歌があったなんて、、、客はどこがよくて聴いているのか、、、不気味さが癖になるのかも。
よく出てくる「愚連隊」という言葉も面白い。昔よく耳にした言葉だ。
この映画、確か文豪三島由紀夫氏の演技が酷評されたことで有名な作品であったはず。
しかし実際に観てみるとそれほどガタガタいうほどのものではないと思うが。
殊更気にしなければ、ちょっと気の弱いやくざの感じも出ているし、入り込んで観られるものだ。
これをとやかく言うのなら、一昨日の「斬る」の主人公の妹役の方が問題であろうに。
(最後のシーンで大怪我したことも当時話題になったそうだが、、、演技に駄目出しされて大怪我までしたらもう役者など嫌になってしまうだろうに、この後、また時代劇に出ている。それも観てみたい(笑)。

しかし何でプロの役者でもないのに、彼に気の弱いかるっぱしいやくざ役をやらせるのか、、、どういう経緯でこれが決まったのか分からないが、素人なら本業の役処であれば、それほど無理なく演じられると思うのだが。
作家先生からでも、、、。(自慢の筋肉を見せる場面は幾つもあったが、アウトローの逞しさとは別種のものであった)。
それで場慣れしてから、エリートやくざとか、、、もしかしたらやくざへのある種の憧れもあったか(笑。
流石に彼に、学の無いやくざは似合わないし、いきなりこれではハードルが高い。
若尾文子が体を張ってカバーしている感じもあったが、、、。
この無理な役からして、かなり頑張って演じていることが分かる。

そして最後にあのシーン。
これはよく象徴的な場面と言われてきたところ。
(やはりこの映画は有名なため、断片的にわたしの耳にも情報が入って来ていた)。
わたしも今回、初めて観たが感慨深い。
確かに死体の演技が素晴らしい、、、皮肉にも。
彼の人生に重ねすぎて意味を過剰に引き出すのもどうかと思うが。

しかし、役者をやってみたいという気持ちは、とても強くもっていたことは分かる。
このままどんどん出演を重ねていくうちに役者カンもよくなり、上手くはなってゆくはず。
何事にも真摯に向き合い、途轍もない努力家でもあったのだから、その学習力から当然上達も早いはず。
それはそれで良いと思うが。
だが、全編を通して、何とも言えない虚無感は漂い充満して行く。
これが何から発せられているかと謂えば、三島氏からだと思える。
この異質感が、大根役者呼ばわりされる一因みたいな気もするのだが。
若尾文子や船越英二でもどうにもならない。
芸がいくら達者でも呑み込まれてしまう亜空間みたいな場を感じる。

何とも言えない質感を持った映画であった。
