斬る

1962年
三隅研次 監督
柴田錬三郎 原作
新藤兼人 脚本
本多省三 撮影
市川雷蔵、、、高倉信吾
藤村志保、、、山口藤子
渚まゆみ、、、高倉芳尾
万里昌代、、、田所佐代
成田純一郎、、、田所主水
丹羽又三郎、、、千葉栄次郎
天知茂、、、多田草司
柳永二郎、、、松平大炊頭
カラー作品である。
とてもスタイリッシュな絵作りであることが最初から分かるが、余りにそれが分かり過ぎるというのもどうしたものか。
(それが狙いかも知れない)。
様式美に拘った映画であることは承知。
カメラワークも成程、、、と思う。
導入部のカットからして鬼気迫るもので、枕詞映像に太陽が映される。
「三絃の構え」にせよ時代劇自体が、様式美の世界でもある。
とてもその点で調和するところだ。

キャストにおいて、、、
渚まゆみという信吾の妹役の女優が浮きまくっていた。
厳粛な時代劇にキャピキャピのJKが乱入したかのような、、、。
他に女優いくらでもいただろうに(笑。
万里昌代の迫力もちょっと凄過ぎたが。
(これは後に信吾にとってのトラウマとなる)。
妹以外は、前半のダイジェストもどきの展開も然程気にはならず引き込まれて観た。
全般にわたり市川雷蔵の独壇場と謂う感じの映画だ。
この確立した二枚目スタイルを一度打ち破ろうとして「炎上」を作ったが、その上でまた従来の時代劇二枚目に戻って来たというところか、、、。
もう円熟の境地なのか、堂々とした風格と余裕が感じられる。
松平大炊頭役の柳永二郎との関りも大変趣深い。
わたしの特に気に入ったところがこのふたりの間のわび・さびの効いた境地である。
(松平大炊頭が殺害されなければ、信吾にとって安息の場が開けていたであろうに)。

そういえば、この信吾は、三人の武士から父性を感受し、三人の女性の影響を強く受けている。
ただ彼の人生の基調を決めたのは、女性の方であろう。
お家の為に働き斬首された母と逆恨みの犠牲となり非業の死を遂げた妹、そして弟の身代わりになって果てた武家の娘の印象は生涯付き纏ったはず。
その為に独身を通し、松平大炊頭~殿のなくてはならない用心棒であり心の友として仕える。
或る意味、大変虚無的な邪剣使いの武士として生きることを選ぶ。
しかし顧みれば彼自身は、幼少期から善い殿の庇護の下、義父にも義妹にも恵まれ良い人生を送って来たとも謂える。
壮絶な身近な女性の死が大きかったか。
我流の必殺剣を編み出し、向かうところ敵なしの剣豪であったが、殿が罠に嵌り殺害されてしまったことで、自らも切腹をして果てる。
最後の、「殿~っ」と叫びながら、お屋敷の襖を次々に開けて、もぬけのからの部屋から部屋を探して走る光景~カメラは信吾の心象そのものであった。
冒頭の母の背負った宿命から、ここまでとても緊張に満ちた流れが途絶えることがない。
ストーリー展開と言いカメラワークと言い、物語と絵作りともに高水準を保ち続けた作品と謂えるか。
見応えはあった。
(あの妹は、入れ替えした方が良かったと思うが)。
AmazonPrimeにて。
