鍵

Odd Obsession
1959年
市川崑 監督
長谷部慶治、和田夏十、市川崑 脚本
谷崎潤一郎 原作
芥川也寸志 音楽
京マチ子 、、、郁子
叶順子 、、、敏子(郁子の娘)
仲代達矢 、、、 木村(郁子の婚約者、医師)
中村鴈治郎 、、、剣持(郁子の夫、古美術鑑定家)
北林谷栄 、、、はな(女中)
菅井一郎 、、、石塚(整体師)
まさに「奇妙な執着」であった。
「鍵」は確かに終盤における決定的な流れの「キー」とはなるが、、、。

流石は1959年の映画である。
エロティシズムに関しては、あからさまな部分は無く、全て想像に任せる形。
谷崎潤一郎のこの作品は全く読んでいない為、映画としての感想のみ。
剣持は、如何にも谷崎の分身みたいで入り易かった。
郁子は流石に端正で品格ある上流婦人だが、夫に依存しつつ自分の欲望を満たすなかなか強かな女性。
娘の敏子を演じる叶順子は、クールでデカダンスな魅力を覚えた。
他の映画でも観てみたい女優だ。
仲代達矢はカフカの小説のKでも演じてもらいたい雰囲気であった。憑りつかれたような眼で怖い。
語り部的役割も担い、内面の打算的な呟きがしょうもなかった(笑。見た目、内面などないようなとぼけ顔をしている。
北林谷栄 のはなは色盲をよいことに無意識的に極めてデンジャラスな振舞いをする老女であり、毒~農薬を使って皆にあっけらかんと究極の審判を下す。終始とぼけたままで、ある意味もっとも怖い存在と言えよう。
皆の疑心暗鬼が高じて爆発が起きるようなところには出ず、はながキョトンと事を成してしまったものだ。
余りにあっけない唐突な幕引きはコミカルですらあったが、実にリアルでもあった。

剣持のいつまでも若くありたいという欲望は分かるが、この設定は明らかに娘の敏子の存在を踏みにじっている。
(おまけに、いや肝心なことだが、婚約者の木村からも軽んじられている。不満は溜まるはず)。
この父では娘に恨まれても当然。勿論、自分の婚約者と浮気をする母に対しても殺意を持っている(はなのせいで空振りするが)。
しかも剣持は妻にも軽んぜられている。妻にとっては良い思いはさせてもらっているが同時に軽蔑の対象ともなろう。
死んだときに、思いっきり喜ばれていては、浮かばれまい。
京マチ子の、この辺の押し殺した繊細な感情表現の上手い事。
その表情は能面を想わせるメイクも効いてかなり怖い。そう言えば他のキャストもメイクが怖いことに気づく。
剣持の木村と妻をわざと近づけさせてその様子を覗き見し、嫉妬で精力を取り戻そうという姿も怖いと謂えばそうである。
木村もそれを知りつつ従って行くところが、存在自体薄気味悪い(勿論開業医を実現するためでもあるが)。
登場人物誰もが怖いと謂える。演出~姿からして、、、もう一息でアダムスファミリーではないか。
不穏な雰囲気も障子に鳥影がさーっと映り込んだりで高めてゆく。
(日本の伝統的な)演出の妙が冴える。

結局、誰からもコケにされていた娘敏子は、毒を混入したと信じているティーカップを母に差し出す。
同時に木村にもという訳ではなかった。
つまり馬鹿にされていることは、分かっていても彼とはホントに結婚すると決めていたのだ。
しかし次の瞬間、はなの作ったサラダを3人でバクバク食べて皆絶命となる。
だれもまさか、はなが毒をわざと入れるとは思っても見なかったのだ。
唐突に誰もの企ても中断された。
ただし、警察が遺書と受け取る郁子の日記の内容は、どういうことか。
天国とは、単に幸せに暮らせるようになるの意なのか、、、
(夫が死んでせいせいしたという感じもあるか。だが家は抵当に入っており古美術も借りているだけで財産は残っていなかった)。
死んだ夫を追って一家心中を図ったことになるとは、上手く出来た噺である。
警察は、わしがやったという女中の言葉などに耳を貸さないのも分かる。

全体の湿り気を感じる古風な日本的な映像美といい、よく出来た作品だと思う。
AmazonPrimeにて、、、
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