チェインド

Chained
2012年
カナダ
ジェニファー・リンチ監督・脚本
ヴィンセント・ドノフリオ、、、ボブ(連続殺人犯)
エイモン・ファーレン、、、ラビット(監禁され息子として育てられる)
コナー・レスリー、、、アンジー(獲物の18歳の娘)
ジェイク・ウェバー、、、ラビットの父
ジュリア・オーモンド、、、ラビットの母
ジーナ・フィリップス、、、父の後妻
デヴィッド・リンチ監督の娘さん監督映画というだけで、観ないといけない気になる。
観てびっくり。凄い映画ではないか。

虐待による負の連鎖が描かれる。
ここまで酷い毒親に育てられれば、この男のようになってもおかしくない。
(ここで重要なのは虐待を直接している父だけでなくそれと共依存している母も同罪である事)。
親から受けた惨たらしい虐待によるトラウマが次々に若い娘を襲い殺害して埋めるという飽くなき衝動に繋がる。
もう生きる為には止められない。この男にとって空気を吸うレベルでこの連続猟奇殺人は続けるしかない。
捕まってしまえば、それまでだが、ここはカナダ。この男の家は見渡す限りの一軒家なのだ。周囲一帯、お隣さんみたいな家屋など一軒もない。タクシー運転手としてそこから出て行き、街で人を拾って稼ぎ、チョイスした娘を拾って持ち帰り乱暴をして殺害を繰り返してゆく。誰にも見つからない(しかし確率的に何度も繰り返すうちに何かで足が付くものではあるが、、、犠牲者となる娘を乗せたところを見られるなどして、、、)。

母子で映画を観に行った帰りに、父に言われた通り、タクシーで帰宅するはずが、丁度よくやって来たタクシーは二人を運転手の自宅まで乗せて行ってしまう。
そこで母は殺され、9歳の息子は恐怖と暴力で監禁・飼育されることに、、、。
男が毎晩、攫った娘を乱暴し殺害した後始末をその息子にさせる。
そして家の掃除と朝食の調理もさせ、それを熟せば男の残りの食事が与えられる。
息子も当初は逃亡を企てもするが、鎖に繋がれ捻じ伏せられているうちに従順になって言うことを何でも聞くようになる。
獲物が無残に殺されてゆくのをいつも見ているうちに感性からして鈍磨してゆく。

少年は無気力で覇気のない病的な青年に育っていた。
9歳で囚われその後9年を異常極まりない環境で過ごした結果の分る風貌だ。
この間に、男もその息子を実の息子のような感覚で育てようという気持ちになってゆく。
途中で何度も男を殺して逃げることの可能な場面があるもラビットにはそれは出来なくなっている。
何とも言えない依存関係が出来てしまっていた。
男は正常な親子関係が持てなかったことをここで取り戻そうとしたものか、勉強(何故か解剖学?)をさせたり、足枷を外して一人前の男に成れみたいな感じで叱咤したりもする。
勿論、異常な教育の下でだが、、、連鎖は止まらない。

そして一人前の男にするために同年の女性をあてがう。
男と同じように殺せたら卒業とみなし自由を与えてやるということであった。
だが、さすがに自分ではできない。
しかも囚われた娘が気立ての良い子であり、惹かれるものがあった。
そこで、これまでの人体に関する学習を活かし急所を外してナイフで刺し死んだことにして、安置所に隠し、男の裏をかき何とか娘の体の持つ2日間で救い出そうと計画する。
だが、それを見抜いて猛り狂った男が、娘を殺しに行くところを何とか後を追い殺す。
そこでその娘アンジーの命は助かる。

だが、ラビットはある手紙を見つけるのだ。
それを読んだ彼は驚愕する。
何と9年を共に過ごした仮想父が、実の父の兄でありしかも弟が新しい恋人と結婚するために妻の殺害を金で頼んだのだった。
手紙の住所から家を訪ねると懐かしい父がいたが、真相を問い詰めると凶悪な本性を丸出しにするのだった。
息子に暴力を振るう父を止めようとした後妻に手荒い暴力を振るおうとしたときに自分の母が殺される時のフラッシュバックに襲われ、父を置物で思わず殴り殺す。後妻に直ぐに立ち去るように促され、彼はまた自分を浚った男の家に帰ってゆく。
(もうここに帰る他行くところなどどこにもないのだ)。
その家のソファーには例のアンジーが寝ていたような、、、。
最後のエンドロール時に家に入ってからのひっそりとしたなかでの人の動く物音だけがして閉じるところが粋であった。
この連鎖の過程がとてもよく分かり、最後のどんでん返しと言い、伏線も利いていてスタイリッシュなサスペンス映画であった。
殺すまさにその場は見せず、即物的残虐ホラー要素は無い。

ラビットは、人は殺さぬが生きにくい人生を送るトラウマを背負ってしまったことは確かだ。
全体の色調も統一されていて濃密な緊張感が続いた。
なかなかの監督である。
他の作品も観てみたい。
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