ウチのはらのうち

2013年
岩下智香子 監督・脚本
松永渚、、、ちひろ(大阪の女子高生)
大河内奈々子、、、春乃(母)
ウダタカキ、、、隼(義父)
笠原千尋、、、弥生(東京のルームメイト)
監督19歳の瑞々しい作品である。
19ならさぞかし思い切ったことも出来るだろう。
或る意味、怖いものなし、ではなかろうか、、、。
物凄いチャレンジ精神で臨める気がする。
(わたしがもしその立場なら、もうやりたい放題、何でもかんでも詰め込む(爆)。
松永渚という主演女優がまた良い。
この役柄にピッタリの女優だ。
演技も分かり易い。何を伝えたいかがよく分かる。
だが一点、普通の場面の会話はよく聞き取れるのだが、「ウチのはらのうち」を海に向かって叫んでいるとき肝心の言葉が聞き取れなかった。実は、夜景を観ながら歩道橋の上?で激白した時もいまひとつ聞き取れなかった。
肝心なところで聞き漏らしてしまったのだが、そこの音響の工夫~配慮をして貰いたかったものだ。
活舌とかいうレベルではなかったと思う。
音の拾い方と流し方~エフェクトの問題だ。編集過程でどうにか出来たとも思える。
ともかく、その辺りは勢いだけは伝わった。セリフもだいたい想像できた。
共感出来る作品である。

結果的に毒母(と毒義父)になってしまっている親のもと、家族間の綱渡り的なバランスを保つために自分を犠牲にしている長女像そのものである。
その副作用でいつもへらへら(ニコニコか)スマイルがこびりついた表情になってしまっている。
その表情を何度となく弥生に突っ込まれていた。やはり見る人が見ると気に障るのだろう。
相手に悟られないように本心を隠すための盾ではあるが、彼女自身としても恐怖で自分を曝け出せないのだ。
それでいつとはなしに身についてしまった自己防衛の笑い仮面~ペルソナと謂えるか。

親の離婚で実の父は出て行ってしまい、その後にやってきた義父と母を気遣いながらずっと耐えに耐えて波風立たぬように暮らしてきた。父の違う妹と弟の世話を焼きながら、自分のこころに蓋をして来たのだ。
それがある時、義父からの言葉~メールでだが~「おかあさんよりちひろの方が好きだと思う」に、突き崩されてしまう。
もうとても一緒にいることなど出来ず、大阪から東京に独りで引っ越してくる。
ただ、救いは母がちひろの内面を彼女なりに理解してくれたことである。

母の男に頼り依存しなければ生きて行けない弱さと相手の男の他者感覚のない鈍感さが結果的に毒親(環境)となっていた。
重度の毒親からすれば、虐待を毎日繰り返したりコントロールして絡めとり憑依することもないだけましと言えばそうだが、常に自分を弁え、周りばかりを気にして生きることは、自ずと自分の生を生きることを疎外してしまう。
(あるところまで来ると自分だけでは、分かっていても、どうにもならなくなってくる)。
それが常態となってしまうと、その先には大きな不幸が待っているだけ。

丁度よい時期に、親環境を離れ、東京に出てユニークな友達に遭えたものだ。
ここで充分な突っ込みと刺激を貰い、こころが解れ自分の感情と思考に忠実に生きることが出来るようになれば、言うことなしである。
ふたり漫才コンビを組むのかどうかはともかく、自分の半生をネタにして対象化することは充分に意味のあることだ。
そしてその時々の自分を褒めること。自分が自分の保護者となることである。
過去のイメージが充たされ自然に今の自分へと重なってくれば、自尊心を持った年相応の多感な少女となっていることだろう。
そこに行くまでには、ふたりで思い切って泣いたり喚いたりも良いものだ。
海に向かってというところは、余りにベタだったが(笑。

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