ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK

EIGHT DAYS A WEEK
2016年
イギリス、アメリカ
ロン・ハワード監督・製作
マーク・モンロー脚本
ジョン・レノン
ポール・マッカートニー
ジョージ・ハリスン
リンゴ・スター
ブライアン・エプスタイン
ジョージ・マーティン
ウーピー・ゴールドバーグ
エルヴィス・コステロ
シガニー・ウィーバー
1963~1966のツアー期のビートルズを中心に描く。
見事に構成されたドキュメンタリーフィルムである。
(この期間は、曲はほとんど全てレノン=マッカートニーによるもので、後の濃厚なスタジオ制作期に入ってからジョージの覚醒となる。”ホワイルマイギタージェントリーウィープス”は「ホワイトアルバム」まで待たなければならない。ここで彼は時熟した)。
監督が「アポロ13号」、「インフェルノ」、「スプラッシュ」、「天使と悪魔」、「ビューティフル・マインド」などのロン・ハワードだ。
やはり期待を裏切らないものであった。

何にしても、ビートルズとは、わたしの無意識だ。
小~中学生時代、ビートルズの音楽で辛うじて、息が出来た気がする。
音楽は誰にも止めることは出来ない。ビートルズは遍在し常に潜在し続けた。
もしビートルズがいなかったら、毒親に完全に潰されていたはず。
確かに全世界的に見て(私的に見ても)ビートルズの影響力は途轍もないものであった。この映画で再認識できる。
彼らの音楽がわたしの宗教~救済の役目を果たしたのは間違いない。
わたしは彼らの正統な信者であり、本当の(不肖な)息子であり、その音楽は空間の振動のように自然に無意識に身体に浸透した。
血肉となった。
久しぶりに彼らの姿に接し、音楽に触れ、自然と涙が溢れた。
静かに浄化されるような、そんな心地のまま、、、。
ああ、また聴いてみよう。
ビートルズでとやかく述べる気もない。
ただ聴けばよいのだ。それだけ。これを観てもそう思うだけ、である。

公民権運動、黒人指導者たちの暗殺、JFKの暗殺、ベトナム戦争の泥沼化、東西冷戦、宇宙開発競争、、、などの差別、抗争、抑圧の社会背景も絡め、1965年のビートルズのMBE勲章の叙勲もしっかり尺がとられていた。
ジョンの「キリストより僕らの方が有名」発言でアメリカで大パッシングに遭うが、日本でも右翼などをはじめとして、彼らが若者への影響力を強めるに従い、それをこき下ろそうとする勢力も大きさを増した。
こういう動き~反動はどうしても(物理反応みたいに)起きるものだ。
しかしフロリダ公演において、「人種隔離する会場での演奏はしない」という毅然とした態度は、間違いなくその後の人種政策を加速させたはず。
ビートルズに対する熱狂は止まない。
だが、この映画にも頻繁に映し出される、若い女性たちの様相は明らかに常軌を逸している。
こうした反応に対し、当時は何であんなに泣きわめき失神したりするのだろう、発散とか解放とはまた違うな、という違和感はもってはいたが、気にもしなかった。
ここで改めて観てみて、この集団ヒステリーとも取れる狂態であるが、実際彼女らはステージの彼らの曲を聴いているというよりその偶像(記号)に酔いしれているだけである。この関係性はかなり危険性も孕む。自己幻想を投影して酔いしれる構造は、あのジョンの悲劇にも繋がるものを強く感じさせる。
1966年日本での武道館ライブもしっかり収められていた。浅井慎平が何を解説しているのかチンプンカンプンであったが。
3年の間にこなした世界公演とスタジアム演奏は、彼ら以前には無いモノであった。そして大掛かりな警備とその混乱も。
「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100組のアーティスト」でも1位であり、、、
ギネス・ワールド・レコーズに最も成功したグループアーティストと認定されるに至るが。

愛と自由や解放を唄う彼らが、民衆の熱狂から身を守る為、護送車に揺られて会場を後にするところは、大変皮肉で痛々しかった。
その後、彼らはライブから退き、スタジオで音楽制作に集中するようになる。
リボルバー以降の一作ごとに革新的な音楽を創造する彼らのアルバムには特に愛着がある。
『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』が輝かしい再スタートという感が強い。
個人的には『ザ・ビートルズ』(ホワイトアルバム)が一番好きかも知れない。
そして『アビイ・ロード』を毎晩かけながら寝ていたものだが、、、。
最後の最後、真冬のアップルスタジオ屋上でのゲリラライブは、未だに感慨深い。
もうジョンもジョージもいない、、、。
ビートルズをシューベルトではなくモーツァルトと比較しようというのは賛成である。モーツァルトもこの時代に生まれていたらロックをやっていたかも知れないし。

子供の頃、初めてビートルズを聴いた時のウーピー・ゴールドバーグの述懐には、深く共感した。
、、、わたしはわたしのままでよい。白人も黒人もなく、好きな恰好をして好きなように生きて良い、ということをはっきり知ったの、、、。
これこそ啓示である。

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