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GOMA28

Author:GOMA28
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海を飛ぶ夢

Mar adentro001

Mar adentro
2004年
スペイン・フランス・イタリア

アレハンドロ・アメナーバル監督・脚本・編集・音楽・製作

ハビエル・バルデム、、、ラモン・サンペドロ
ベレン・ルエダ、、、フリア
ロラ・ドゥエニャス、、、ロサ
クララ・セグラ、、、ジェネ
マベル・リベラ、、、マヌエラ
セルソ・ブガーリョ、、、ホセ
タマル・ノバス、、、ハビ
ジョアン・ダルマウ、、、ホアキン
フランセスク・ガリード、、、マルク


「内なる海」
25歳の時に頸椎を損傷し、30年にわたり全身の不随を生きたラモン・サンペドロの手記『地獄からの手紙』をもとに作った映画だという。
海を熟知する漁師が何故、浅瀬にダイブしたのか、その訳(無意識的な動機)は分からぬが、、、。

人間の「尊厳」とは、、、。「死を選ぶ自由」とは、、、。

Mar adentro002

主人公にとって生きることはすでに義務でしかなかった。
”生きる義務”
すると”死ぬ権利”が当然、浮かぶ。

彼の環境は裕福ではないが、特に兄嫁の献身的な介護は、その適切な距離感からしても素晴らしいものに思える。
父も兄もその息子も、ラモンの尊厳死の主張には賛成しかねるにせよ、彼の気持ちを受け止め尊重していると謂えよう。
兄は家族の中では、彼の死を最も否定しているが、弟を愛おしく思う心から少しでも長く生きていてもらいたいと願っている。
その息子は、ラモンの手足となり彼にいいようにこき使われているが、かなり親密な人間関係は出来ていた。

しかし、体が頭部以外不随状態だとすると、生きる上でプライバシーは、ほぼ存在すまい。
これは、健常者の想像出来ない身体的事情である。
自分という内面~秘密を持った身体性が果たして保証されるか。
極めて危うくなり脅かされるだろう。
その「場所」が覚束ないのなら、周囲に対する責任だとか義務などを果たすとかいう以前の状況である。
主体そのものの存在危機なのだ。これをもって人間の尊厳の危機と謂っても良い。

ここで宗教的イデオロギーがこの極限的な状況~実存に真摯に向き合い生きる人には全くそぐわないものになっていることがはっきりする。
宗教が思考停止を要請していると謂うより前に、そこには「愛」が決定的に無い事を知る。
人が生きるべきか死ぬべきかを選択しようという際に、判断をある意味決定づける要素としての。

Mar adentro003

普段、極めてシニカルで頑固ながら落ち着いた生活を送っていた彼が、夜中に激しく取り乱す。
尊厳死~安楽死を巡って裁判闘争する際に雇った弁護士フリアも不治の病(脳血管性痴呆症)を抱えていたことを知り、二人は急速に接近する。彼女はラモン宅で倒れ車椅子の生活となり弁護は他の弁護士へと引き継がれる。
過酷な生に耐え続ける二人であるからこそ共有出来るものは当然あろう。
ラモンの詩を理解する豊かな知性をフリアが持っていたことも外せない(ここはマヌエラも同じである)。
そして、彼の詩集を出版するところまで漕ぎつけたあかつきには、同時ではないが二人して安楽死を迎えようと約束していた。
その時ほど、ラモンが安らいだ表情を見せたことはない。
フリアが出版までの全ての手筈を整え製本まで首尾よく進み、ついに本が彼のもとに一冊届いた時に、挟まれていた彼女からの手紙を見て愕然とする。
(その手紙の内容はわれわれには明かされないが、想像のつくものであった、、、)。

フリアの夫はとても献身的な人であり、彼女はきっと彼の説得に応じたのだろう。
自ら死ぬことは止めたのだ。
一緒に死のうという言葉がラモンにとってどれだけ救いであったか。
どれほど大きなものであったか。
勿論、人は原理的に二人で死ぬことは不可能だ。
しかし、自ら死を選ぶことを深く理解・共感し同意してくれたことこそが全てなのだ。
(尊厳死を認めさせる政治的組織以外の人々で、そうしてくれた人は恐らく彼女だけであったはず)。
わたしもあなたと死にます、と。
これは愛と呼んでよいはず。
初めて彼は深い安らぎと歓びを得たに違いない。

彼が何度も白昼夢で自ら起き上がり海辺を散策する彼女に追いつき愛を語ったり、ベッドの横の窓から勢いよく飛んで、美しい海辺まで滑空しそのまま大海原を自由に飛んだり、、、その心象風景~イマジネーションは彼女のお陰で芽生えた確固たる内面であり尊厳を保証するものであったはず。

最も大切な人との約束~言葉が反故にされた。
これほど大きな喪失があるか。
改めて彼は思う「なぜ皆のように自分の人生に満足できないのか」と。
(わたしも度合いの問題で、ほぼ同様の気持ちであるが)。
マヌエラに頼み、睡眠薬で何とか眠りにつく。

Mar adentro005

ラモンを30年近く息子と変わりなく親身になって面倒をみてきているマヌエラにとって、目の上のたんこぶは、突然TVを見て訪問してきたロサという女である。
自分がシングルマザーで子供二人を抱え生活苦でもあり、男運が悪いと本人が言うように、どこか人間関係(愛着関係)に問題を抱えている彼女は、ラモンに異様な拘りを持ちしょっちゅう彼の部屋を訪れるようになる。依存性が高いのだ。
どうもこの女は軽佻浮薄で押しつけがましい。これは牧師と変わらない。
動けない彼なら自分のものにできるという感覚か。彼に尽くすことで自分の存在価値、自尊心を得ようとしたものか。
自分の悩みを相談したり、子供を連れて来たり、好意を持ったと仄めかしたりで関係性を築こうとする。
始めは、多くの一般人やわざわざ家にまで押し掛けて来て、命は自分のものではない、生きなければならないなどと説教に来る牧師と同じようなことを言っていたが(この牧師はラモンとマヌエラに欺瞞をこっぴどく晒され退散する)、次第に彼の気を引くような自死の手助けをするような噺をし始める。
マヌエラはフリアは高くかっていたが、こういう女は嫌いである。

ラモンは死に際して、彼のお金でロサが取った海の見える部屋で最後の時を2人で過ごすことにする。
これはフリアを失った、ラモンの諦観による流れであろうか。

Mar adentro004

何と言っても胸に込上げて来たのが、ラモンがロサと短い時を共にしその後、自死を決行するために車に寝かされ家を出るシーンだ。
見送る父の表情、弟の為海を捨て農業に就き彼の面倒をみてきた兄の表情、そして長年献身的に介護にあたった義姉の感極まった表情に、観ているこちらも耐え切れなくなる。そして叔父さんの原稿を全てパソコンで打った甥のハビは、去って行くラモンの車を追い走りだす。理由などない。後を走って行ってどうなるものでもない。
だが、行かないで欲しいという素直な気持ちは明白だ。
そうではないか。
誰だってホントは行かないで欲しいに決まってる。
しかし人間であるがために、彼は行くしかなかった。

死んだ彼、死ぬことは止めたが記憶を失った彼女。彼女はラモンのことすら覚えていなかった。
そうこうしながらも、彼の賛同者でもあるジェネは身籠り、新しい命が生まれる。

「なぜ皆のように自分の人生に満足できないのか」
そう思う人が、また生まれてくる。




圧倒的なキャストであったが、主演の2人は当然として、初老の兄嫁マヌエラ役であるマベル・リベラの演技にはとても胸を打たれた。





ラモンは支援者により調合された青酸カリ入りの水を飲んで死ぬが、かなり安らかな様子で死んでゆく。
しかし実際、青酸カリを飲んで死ぬことは、壮絶な苦しみを伴う。
凄まじい苦痛の果てに息絶えることになるはず。
この最後の部分の美化は、ちょっと危険な気がする。

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