殺人狂時代

Monsieur Verdoux
1974
アメリカ
チャールズ・チャップリン監督・脚本・製作・音楽
オーソン・ウェルズ原案アイデア
チャールズ・チャップリン、、、アンリ・ヴェルドゥ(元銀行員)
マーサ・レイ、、、アナベラ・ボヌール(悪運の強い中年婦人)
イソベル・エルソム、、、グロネイ夫人
マリリン・ナッシュ、、、若い未亡人(軍需会社社長の夫人)
ロバート・ルイス、、、モーリス(ヴェルドゥの友人
メイディ・コレル、、、モナ(ヴェルドゥの妻)
アリソン・ロダン、、、ピーター(ヴェルドゥの息子)
エイダ・メイ、、、アネット(アナベラのメイド)
マージョリー・ベネット、、、グロネイ夫人のメイド
マーガレット・ホフマン、、、リディア・フローレイ
チャールズ・エヴァンズ、、、モロー刑事
オードリー・ベッツ、、、マーサ(モーリスの妻)
バーバラ・スレイター、、、花屋の女
「放浪紳士チャーリー」はいない。
であるから、「街の灯」や「黄金狂時代」とは形式的にも内容も異なる。勿論、チャップリンの小道具や装置、技はしっかりと見せつけてくるが、トーキーで尺も長い普通の映画である。
相変わらず、窓の外に爆中みたいに転げ落ちてみせたり、札や電話帳を捲る指捌きの凄いこと。笑える。
毒の入ったワイングラスの取り違えなどもお得意だ。
だが、腹を抱えて大笑いしたりする場面はない。
基本的に、チャップリンが普通のおじさんなのだ。
奇妙なズレを常に見せる異能者~放浪紳士チャーリーではない。いたって普通の人間なのだ。
(この点は無声映画ではなくなったこの普通の映画形式によるところもあろうが)。

噺としては、多額の預金を引き出した後に行方不明になる中年女性が相次ぎ、警察は事件性を認め捜査を開始する。
主人公は、30年余り勤めた銀行をリストラされた元銀行員(出納係)であり、小金持ちの中年女性を騙して金を奪っては殺す殺人犯アンリ・ヴェルドゥである。
楽天家でないと出来ないビジネスであると彼は謂う。余り割の良い商売でもないそうだ。
薬屋の友人を持ち、証拠の残らぬ毒薬の研究もしているとてもマメな人物である。
そうマメでないと務まらないことは、見ていて良く分かる。
芸も細かい。要所要所でムード作りにピアノも弾く。花束を気前よく定期的に送る。
(不景気で過酷な世界でなければ、この商売に就く必要もなかったはず)。
「ひとつ失っても次がある。」クールな姿勢で割り切って取り組む。
それでいて蟲や猫などの小動物にはとても優しい。

ヴェルドゥは何人もの女性と同時に偽名を使い分けて関わり(重婚し)、奪った金を株などの投資で資産管理しているが、運悪く大恐慌が押し寄せて来た。
とても際どい綱渡りのような資産運営が続く。
列車で国中を毎日のように横断する(勿論、近所で出来る仕事ではない)。
自らの大切な家庭を守り、多重生活を送る。これは心身ともに疲れる。実際、終始疲れた顔をしていた。
すべて足の不自由な妻と幼い息子を養う為のビジネスなのだが、彼も恐慌の波に押し流され破産し、そのさなか妻と息子も失ってしまう。

この間、マリリン・ナッシュ演じる若い未亡人との関係がとてもシリアスで興味深い。
傍若無人に人を振り回すアナベラ・ボヌール夫人と対局を成すような知的な美女である。
ショーペンハウアーの「自殺について」が話題に出るが、それで人となりを無理なく伝えるところはやはり上手い。
(ショーペンハウアーはわたしの最も好きな思想家でもある)。
彼もこの女性とは本心で話が出来た。最初は自作の毒を試すつもりで彼女を誘ったのだが。
彼女は傷病兵であった夫を貧困のうちに亡くし、詐欺容疑で捕まり雨の中出所したばかりであった。
彼はその身の上に同情し充分な金を渡し、自分が関わる人間ではないとして直ぐに別れる。
彼女とはその後も2回偶然邂逅することとなり、3度目は軍需会社社長の妻として富豪となっていた。深い恩を感じている彼女は援助を申し出るが彼はキッパリ断り、これでさよならだ、と言って別れる。

最後は、自ら警察に捕まり、斬首刑に処せられる。
この処刑場に連れて行かれる前に喋った言葉が有名なセリフとして残っている。
(赤狩りも激しさを増し、これが元でチャップリン監督自身、アメリカを追放されるはめとなるが)。
「戦争や紛争、全てはビジネス。1人殺せば犯罪者で、100万人殺せば英雄になる。数は殺人を神聖にする。」
確かにその通りだ。世界をビジネス空間と見た場合、それが言える。
だから「このビジネスは小さい規模ではうまくいかない。」
戦争や紛争状態ではなく平時にあって違うアイテムを入れても成り立つ。
しかし「放浪紳士チャーリー」が体現していたことを最後の最後に演説されても、、、。
勿論、内容的にそれを語る必然的な流れが出来ており、充分な説得力はある。
とは言え、天才チャップリンが敢えて作る映画であったかどうか。
映画としては、エンターテイメントとして大変よく出来ていたと思うし、優れた作品と謂えようが、、、。
自らのやるべきことをほぼ成し終えて、ご意見番となったコメディアンみたいな立ち位置を覚える。
この映画そのものを観れば、見応えのあるとても素晴らしい作品である。

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