街の灯

City Lights
1931年
アメリカ
チャールズ・チャップリン監督・脚本・製作・音楽
アルフレッド・ニューマン音楽
チャールズ・チャップリン、、、浮浪者
ヴァージニア・チェリル、、、花売り娘(盲目)
フローレンス・リー、、、花売り娘の祖母
ハリー・マイヤーズ、、、富豪
アラン・ガルシア、、、富豪の執事
”コメディ・ロマンス・イン・パントマイム”とある。
何と巧みなエンターテイメント芸術であろう、、、圧倒された。
音楽付きのサイレント映画である。
時折掲げられる白いセリフ文字も必要最低限で簡潔な最適なものだ。
この形式だからこそこれほど研ぎ澄まされた表現が実現したと謂えるか。
音楽も本当に良かった。
ここではチャップリンだけでなくアルフレッド・ニューマンも音楽を担当している。
かのランディ・ニューマンはアルフレッド・ニューマンの甥にあたるそうだ。
そういえば、ランディもトイストーリーズ3とか4の音楽を担当していた。

自殺を思いとどまらせ相棒となった富豪紳士のキャラクターの極端さ加減も面白い。
酔っている時は浮浪者(チャップリン)を自分を救ってくれたわが友として篤い待遇をするが、酔いが醒めると途端に邪魔者扱いだ。
これがチャップリンの運命をハッキリ左右することとなる。
出逢いの際の絶妙としか言えない二人の掛け合いの動きはコピーしているコメディアンなど幾らでもいようが、ここまで振り切れていてあっけらかんと笑わせてくれるものはそうはない。
この映画はとてもカラカラと笑えるシーンが多い。
計算の緻密さとそれを的確に具現する匠の技である。
仕掛けも細やかであり淀みなくスムーズに動いて行く。

滑稽さやペーソスを表す道具立ても様々だが、酔っぱらいながらレストランで天井から垂れているテープとスパゲティを一緒に食べたり、そこでの椅子や葉巻のすり替えられる動きが見事で目を愉しませてくれる。
盲目の女性が毛糸を巻くとき彼の着ている服から巻き取っていたのを知り、最後まで彼女が気づかぬように巻き取らせてゆくような繊細で優しい面にも充分に活用されていた。
ともかく、紐が上手く使いこなされていて、そのテンポも実に素晴らしい。
笑うしかない。

たまたま一輪の花を買ったことでその娘が盲目であることを知った浮浪者の紳士チャップリン。
貧しい盲目の花売り娘を経済的にも支援し、目の手術も名医に受けさせ見えるようにしてあげたいと思うようになる。
その一心で金策を始める。
しかし彼は何処にあっても面白いことをしでかす。
抱腹絶倒シーン満載であり、素早いテンポに乗せられる。
テンポ勝負の流れでもあろう。
ちょっとでもテンポが狂えば成り立たないシーンばかり。
どれ程練り込まれた作りであるかが分かる。
チャップリンが音楽家でもあるところからであろう。
リズム操作でこちらを問答無用に惹き込んでいるのだ。
取り分け賭博ボクシングシーンの面白さは抜群で、これを真似たものでもこれほどの域に達していないと思う。
ゴングの紐とあのレフリーはあり得ないと思いながらもあの3人のフォーメーションと動きの妙には呆れて笑うしかない。

何とか金は裕福な相棒から貰うが、アクシデントで彼は素面に戻り、結局浮浪者であるチャップリンは警察に捕まり投獄される羽目になる。その前に十分な金を全額娘に手渡して旅に出るような事を言いその場を去る。
彼がしゃばに戻る秋には、街路で花を細々と売っていた娘は立派な花屋を構え、活き活きと目を輝かせて働いていた。
いつも娘が花を売っていた場所に寄り、生意気なガキに悪戯されながら、彼は娘の経営する店の前にやって来る。
全く隙の無い完璧に計算し尽くされた作品であることは分かった。
最初と最後に出て来る一輪の花の意味が全く違うことで、この花にこの娘の気持ちを語らせている。
終わり間際に娘の花屋に裕福で立派な紳士が花束を届けてくれと注文にやって来る。
憎い演出だ。ここで娘はこの方がかつてわたしを助けてくれた方かしら、と胸を躍らせる。
しかし、その後に彼女をガラス越しに見て無垢な笑みを漏らすみすぼらしい男に目を止め、施しの金と花を一輪その男に哀れみの気持ちで手渡そうとする、、、。

目に障害のある人は他の感覚がその分、発達している。
彼女は目が見えるようになっていても、長くその他の感覚を研ぎ澄ませて生きて来た。
(勿論、視覚は全てに優越する表象感知器官であり、まずそこで判断を下してしまうものだが、彼女はそれにとどまらない)。
「あなたなのですね。」
彼の手に触れただけで、全てを悟ったのだ。
しかし男はただ満面の笑顔で「目が見えるようになったのですね、、、」
、、、と言い残し、きっとそのまま去って行くのだろう、、、。
このシーンは、忘れがたい場所の記憶としてわたしの中にずっと残る。
この余りに絶妙な終わり方、、、やはり天才チャップリンでなければこうはいくまい。
最後にグッと胸に込上げてくるものがあったが、最後の結びのシーンに感動したというより、この映画全体の見事さに対して感極まったというものであった、、、
ここまで完璧なものを観たことはない。

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