完全なるチェックメイト

Pawn Sacrifice
2015年
エドワード・ズウィック監督
スティーヴン・ナイト脚本
スティーヴン・ナイト、スティーヴン・J・リヴェル、クリストファー・ウィルキンソン原案
トビー・マグワイア、、、ボビー・フィッシャー
ピーター・サースガード、、、神父ビル・ロンバーディ(チェスのマスター)
リーヴ・シュレイバー、、、ボリス・スパスキー(ソ連の天才チェスプレイヤー)
マイケル・スタールバーグ、、、ポール・マーシャル(ボビーの専属弁護士)
リリー・レーブ、、、ジョーン・フィッシャー(ボビーの姉)
ロビン・ワイガート、、、レジーナ・フィッシャー(ボビーの母)
エヴリーヌ・ブロシュ、、、娼婦(ボビーの彼女)
「ラストサムライ」の監督である。
トビー・マグワイアと言ったら”スパイダーマン”であるが、「華麗なるギャツビー」でもニック・キャラウェイであった。
ボビー・フィッシャーその人を見たような気になった。
トビー・マグワイア迫真の紙一重の演技である。
ボビーの母はモスクワの大学で薬学を専攻し、そこで出逢って結婚した生物学者ハンスとはすぐに別れることになり、ボビーは母と娘(姉)との3人家族で育ち父を知らない。母は6ヵ国語の話せるインテリであるが、ソ連から戻った女性であることからFBIに絶えず監視されていた。
その息子ボビーも同様にマークされており、何かに監視され盗聴されているという意識は母からも植え付けられている。
外に車が停まったら必ず母に伝えろと言われていたため不眠症になり、彼を心配した姉がチェスセットを買い与えたという。
かなり特異な環境である。

後に天才の名を欲しいままにするボビー・フィッシャーだけあって、独学で誰にも負けない腕を身に着けてしまう。
しかし子供のころに既に妙な言動があり精神科医に診せたところ、強い人間に打ち負かされれば、チェスを辞め普通の生活に戻ることで落ち着くようなお気軽なアドヴァイスを受けるが、逆にやる気満々となる。
そのまま色々なタイトルの最年少チャンピオン記録を次々に打ち立て、国内でもヨーロッパでも敵なしになる。
当時は、ソ連がチェスでは世界最強の国であり、なかでもボリス・スパスキーという絶対王者が君臨していた。
宇宙探査でもアメリカはソ連に立ち遅れており、チェスでソ連に一矢報いる機運も高まる。
ただし、実際にボビーがボリスと対戦する頃には、アメリカは月着陸は済ませていた。

東西の天才、ボリス・スパスキーもボビー・フィッシャーも冷戦下における両国家の”Pawn Sacrifice”だったのか。
「兵隊の駒を犠牲にして局面を優位にする作戦」
まさに国を挙げてのフィーバー振りであった。
それにしても頭脳を究極まで使うと確かに変調が起こるのだろう。
ボビーだけでなくボリスも充分その兆候がみられた。
二人に謂えることは異様な聴覚の鋭さである。

純粋な思考の集中が僅かなノイズによって搔き乱される。
そのため雑音を殊更に嫌う。
緊張が高まればその感度もそれに応じて高まってゆく。
当初、余裕綽々に見えたボリスがボビーとの息詰まる決戦の最中、椅子から異音がすると立ち上がり椅子をひっくり返して調べ始めるという行動に出る。これは誰もが驚く。ボビーはしょっちゅうそんなことをしているため周りは慣れているが。
やはりチェスを極める過程で、指し手がオーバーフローし、脳神経の興奮が尋常でなくなるのか。

父の不在も彼にとって大きいものであった。
ボビーの才能に飛びついたポール・マーシャル弁護士とチェスマスターでもあるビル・ロンバーディ神父が極めて粘り強くきめ細かなケアをしてゆくが、理不尽なボビーの要求によって振り回されるばかりとなる。
すぐに気が変わり異なる欲求も吹っ掛けてくるとなると、当然対応しきれない。
するといつも約束を破ると激怒する。
突然、試合をすっぽかして失踪してそれを探すのも一苦労。
その上、チェスで名誉を得たいことはよく分かるが、金もたらふく要求してくる。
これで才能がなければ単なる厄介者以外の何者でもあるまい。
しかしアメリカの希望を背負うスターでもあるのだ。
キッシンジャーやニクソンも彼の機嫌をとってバックアップしている。これは国の名誉のためではあるが。
この忍耐力抜群のポールとビルが父親代わりが果たせたかどうかは微妙である。
彼らの働きなしには、ボビー・フィッシャーがボリス・スパスキーと対戦する場も生まれなかったはずだが。

そしてアイスランドのレイキャヴィークの世界選手権で、ボビーは、これまでにない(研究されてない)相手の読めない斬新な指し手でボリスに勝利してしまう。
これはチャンピオンを独占してきたソ連を破った歴史的勝利となる。
しかしこれ以降の防衛戦においてチェス連盟に出すボビーの条件が余りに無謀なもので、結局彼は試合を放棄しチャンピンの座も明け渡してしまう。
それ以降は事実上隠遁生活を送る事となる。
精神の症状はもっと激しくなり、反米・反ユダヤ発言が激化してゆく。
ちなみにボビー自身もユダヤ系なのだが。
彼を最後に受け入れた国はアイスランドであった。
チェスの天才として持て囃されるというより、精神に障害のあるケアの必要な人として保護された面が大きいようだ。
彼自身はチェス以外に何も関心の無い人で、常にチェスの手を考え続けて生きた人であった。
考えようによっては幸せな人である。
見応のある映画であった。
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2日間、病気をして寝込んでしまった。
まだ本調子ではない。
文を書くということが殊の外、体力が必要なことを実感する。
まだ、ヘロヘロである(苦。
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