アンチ・ヴァイラル

Antiviral
2012年
カナダ、アメリカ
ブランドン・クローネンバーグ監督・脚本
カリム・ハッセン撮影
アーブ・グレイウォル美術
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、、、シド(『ルーカス・クリニック』の社員)
サラ・ガドン、、、ハンナ・ガイスト(セレブの美人女優)
マルコム・マクダウェル、、、アベントロス(ハンナの主治医)
ジョー・ピングー、、、アービッド(培養肉を販売する精肉店の店主)
ジェームス・ケイド、、、レビン(裏社会で非合法な商売をしているアービッドの友人)
レイド・モーガン、、、デレク(シドの同僚。ルーカス・クリニックから盗んだ端末で違法ウイルスを製造し儲ける)
ニコラス・キャンベル、、、ドリアン(ルーカス・クリニック社長)
ウェンディ・クルーソン、、、ミナ(ライバル社『タッセル』社長)
デヴィッド・クローネンバーグ監督を父に持つブランドン・クローネンバーグ監督の作品。
スタイリッシュで耽美的で退廃的で自堕落な世界である。
機械もあの毒々しい手触りを感じさせ、それと融合したり変形するソフトマシーンたる悪夢も健在で、見事継承している。
病の蔓延という形で更に踏み込んでいるかどうか、、、。
血筋は充分に感じられるものだが、この先、違いに注意して観てゆきたい。
撮影~絵がとてもシャープでビビットである。
お父さんより洗練された雰囲気だ。

偶像信仰が高まる社会というのは病んでいる証拠でもあるが、ここでもセレブに異様な執着を持つ社会が描かれる。
「神」の位置に「セレブ」が就くわけか。
こうした志向を持つ個人というのは、いつの時代~場所にもいるであろうが、社会の多くがそれに熱狂し大きな企業が幾つも成り立つというのは、実に異様な事態である。
わたしも(娘も)いくちゃんファンだが、こうしたレベルのファンではない(当たり前だが)。
ここでは、細胞レベルの一体化が図られる。
神を崇めていているうちに自らが神となってしまう(同化してしまう)に等しい。
ひとつは、皮膚や臓器の細胞に拘る。
培養した皮膚を腕に貼り付けて喜んでいたり、、、。食べてしまったり、、、。
しかし、こんな形で取り込もうとする、その対象とは一体何なのか?
「生きた対象~存在」に憧れているのなら、それは対象を対象たらしめる精神に対してであろう。
その精神が輝かせる身体であり、その総体を崇拝(憧憬)しているはず。
こんな、細胞を培養した肉なんぞ食ったり血を呑んだりして一体化の恍惚~幻想に耽るなんて、かなり想像力に乏しい。
というか、あまりに即物的で単純すぎはしないか。
目が良くなるとか言って、魚の目を食べる人にも似ている。
タンパク質~アミノ酸に分解されてはじめて吸収されるのだし、これは女性の拘るコラーゲンについても言えることだ。
一種のカニバリズム幻想でもある。

もうひとつは、よく分からないのだが、対象がウイルス感染して発病したところで血液を採り、自分にそれを注射して同じ病いになろうというもの。自分だけでなく顧客に一周間後には発病できますよ、と高い値段で売りつけ注射してあげる~そういうお洒落なサービス(商売)なのだ。これで大企業が運営できている。雰囲気は、大変ゴージャスな会員制高級エステサロンみたいな構えである。
しかし、病いなのだ。
病に苦しむのである。これは崇拝するセレブと、どう繋がると言うのか?
ウイルス繋がり、ってもうそれセレブと何の関係も無かろうに、、、ウイルスにとっては宿主なんてどうでもよいのだし。
主人公もしょっちゅう口に体温計を咥え、調子悪そうにしていた。
顧客も同様。
どういう社会なのか。
これは、どういうことなのか?
何を考え何を思っているのか、、、。
特定の変わった人対象ではない(それなら今でも地下組織にあるかも知れぬが)。
そうした需要の絶えない(表)社会なのである。

みんなが、調子悪そうにしている。
主人公なんて今にも死にそうにしているではないか。
しまいには血反吐を吐き床を這いずり回っている。
だが死にたくはないみたいだ。
しかし抗ウイルス剤なんて使っては意味はない。
何の為に皆、大金払って感染しているのだ。
だが、題名が「抗ウイルス剤」であった!?
一緒に同じ病気で死ねれば本望ではないのか、、、。
しかし人類がこうした形で、病的に先細りしてゆく可能性はあると思われる。
恐らく想像力の枯渇というかたちで。
これは、大変強く実感するものだ。
普通に生きていても実感する。
他者に対する感覚がおかしい。
(身近なところを眺めてみても)。
この映画はそれをグロテスクに捻じって強調しているようにも想える。

キャストは皆、よかったが、特に主人公のケイレブ・ランドリー・ジョーンズは秀逸であった。文字通りの迫真の演技である。
彼の演技に乗せられ見切ったと言ってよい。
何やら彼を応援しながら見ていた節もある。
役者の力量によるところだ。
彼が最後に崇拝(いや溺愛)するセレブであるサラ・ガドンの腕を切って血をすするところなど何やら崇高な宗教的雰囲気も醸していた。
いつしかケイレブ・ランドリー・ジョーンズのファンになってしまった。
そういえば、この人、かの名作「スリー・ビルボード」で広告代理店の経営者をやっていた人だ。
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