トランス・ワールド

Enter Nowhere
2011年
アメリカ
ジャック・ヘラー監督・製作
ショーン・クリステンセン・ジェイソン・ドラン脚本
キャサリン・ウォーターストン、、、サマンサ
スコット・イーストウッド、、、トム
サラ・パクストン、、、ジョディ
ショーン・サイポス
クリストファー・デナム
「エイリアン: コヴェナント」のキャサリン・ウォーターストン
「 パシフィック・リム: アップライジング」のスコット・イーストウッド
「シャーク・ナイト」の美しきヒロイン、サラ・パクストン。
基本的に、この3人の演技のみで進む。
と謂うより、エッシャーの疑似空間を核心に向け降りてゆくような垂直的(螺旋)構造を見る。
コンセプトが良く、練り込まれた優れた作品であった。
かなりの低予算に思えるが破れ目は見られない。
見ず知らずの男一人と女二人が森のなかの小屋に迷い込む。
(車のガス欠か車の事故、相手の男に置き去りにされたとそれに至る状況は違うが、小屋で共に過ごす羽目になる)。
前半は迷き込んだ森の山小屋からどうやって脱出するか、それに尽きる。
直線的に小屋から遠ざかろうと移動しても常に小屋に戻ってきてしまうのだ。
夕方からは凍えるように寒く、野営は出来ない。
一か八かの脱出も日のあるうちに限られる。
だが、どうあがいても小屋から逃げることが叶わない。
(パックマンみたいだというトムの言うように)。
カフカ的な世界でもある。
だいたい、ここは何処なのか?
三人の認識が皆まるで違う。
互いに信用できず疑心暗鬼になりそのヒリツク空気が張り詰める。
そして見つけた防空壕に更に戸惑う。
ドイツ語表記にポーランドの地図が壁に貼り付けてある。
ワインの製造年月日からして今は大戦中なのか、いや単なる年代物であるだけか。
そしてここは、ポーランドなのか?どこなのか。そしていつなのか、、、。
どうやら、それぞれが異なる時代(時間流)に生きていたことが分かってくる。
こんな疑問~認識が生じること自体、尋常ではない。
狂気の事態である。
今現在、三人とも不幸であり、それがそれぞれが生きて来た結果であること。
死刑になった母を確認して帰り道に道端に突っ込んだトム、生まれた時に母が死にその後はギャングの生活を続けて来たジュディ。妊娠しているサマンサは、ジュディを生んで間もなく息を引き取ることになっている。
三人とも夢を見るが全て近未来の来るべくして来る光景であり、皆が若くして命を落とすというものなのだ。
このままでは、それを変えようがない。
だが、そこに4人目の人物が現れることで、大きく事態が動く。

銃を構え殺気立ったドイツ兵である。
(時折、森の中に轟いていた銃声はこれであった)。
そして上空を舞うのは二次大戦中の戦闘機であった。
過酷な任務遂行に当たっている彼はひどく興奮していたが、このドイツ兵が激しく彼らに詰め寄ったのは、ブレスレットに対してであった(相手がアメリカ人では、冷静になりようもないが)。
ここから、一気に見も知らぬ彼らの繋がりが解けてしまう。
彼らの血の系譜が明らかになる。
何故、そこから逃れられないのかも、この文脈の生む地場によるものであった、、、。
ドイツ人の父ハンスと娘であるサマンサ、その娘であるジョディ。その息子であるトムの関係が。
(驚くべきことに彼らは皆、死に分かれており、一度も互いの顔を見合ったことがない関係である。その欠落が引き起こす過酷な養育環境が愛情・愛着関係の不毛を生み、彼らの生き難さと不幸を導いていた)。
ここから大変濃い人間関係~人間性が描かれてゆくところは秀逸と言う他はない。
皆が、時間を隔てた縦の血縁関係にあることを知り、動揺し混乱するも、この状況を変えさえすれば、われわれは全く別の人生を生きる事が出来るという、この磁場からの解放に賭ける。
怒涛の展開である。
この円環構造の外へと、バラバラになりかけていた三人は力を合わせ飛び出そうとする。
ことばのほとんど通じないドイツ兵を予定通りその地で戦死させないことが、全てを好転させることに繋がるのだ。
必死にトムが先頭に立ってこの計画を推し進める。
子どもを毛嫌いしているようであったジュディがトムがハンスに撃たれようとしている時に身を犠牲にして彼を守る。
ジュディを死なせまいとして必死に声をかけ止血しようとするサマンサ。
遂にトムがハンスに撃たれる時に、自分が先に死に、トムが消えることでせめて痛みから彼を救おうとする。
この畳み込む展開のうちにその人間の思いが瞬時に籠められてゆく。
「あなたのせいよ!」と叫び、ハンスの腕を取り、爆撃のなかをやみくもに防空壕にまで駆けるサマンサ。
そこに飛び込み扉を閉めたところで、大きな爆破が幾つも聴こえ、大きく振動を繰り返すが、、、ここで歴史が変わる。
彼らは歴史から解放された。
最後に、素直に優しく育った美しいジュディが母サマンサを労りながら生活をしている様子が伺える。
父ハンスの記事も新聞に載っており、彼は退役後、慈善家として一生をまっとうしていた。
トムは生れてくるのだろうか、、、それだけが気になったが、綺麗なエンディングであった。
最初と最後に出てくる、あのお店の主人は何者なのか?
男女二人組のギャングがピストルを突き付け、レジの金を盗む。
そしてついでに、金庫も開けさせようとするが、主人は答える。
「あんたらの好みではないとおもうよ」
「そんな生活を続けてゆくのかい」
ここで女のギャングが発砲する。
この金庫、題と関係するようだ。
どうやらここから入ってしまったような、、、。
- 関連記事
-
- RAW 少女のめざめ
- アンチ・ヴァイラル
- トランス・ワールド
- ソイレント・グリーン
- マザーハウス 恐怖の使者