少女邂逅

2018年
枝 優花 監督・脚本
水本夏絵 音楽
保紫萌香、、、小原ミユリ
モトーラ世理奈、、、富田紬
監督が23歳の若さ。
道理で瑞々しく果敢なく屈折した、、、主人公と地続きの地平に,まだいる人に想える。
(対象化するだけの距離は持つが)。
虐めが原因なのか、場面緘黙症のミユリは森で同級生からいつものようにいじめを受けていて、リストカットしようとして出来なかった腕に何故だか蚕が登って来ていた。
彼女はその蚕に「つむぎ」という名を付けて密かに飼い始める。
だが後日、また帰りにいじめを受けた際、その「つむぎ」が見つかってしまい、いじめっ子に森に捨てられてしまう。
またリストカットしようとしていると、不思議なタイミングで夢のように少女が助けてくれる。
その少女が翌朝転校してきた「紬」であった。
勉強が出来る凛とした少女であるが、ミユリに親身に関わるところからも特別な何か(秘密)を抱えていることを感じさせる。
この辺の文脈は少女漫画かライトノベル調で如何にもと謂う感じであったが。

紬とミユリは親しくなり、紬の影響でミユリは言葉を取り戻してゆく。
ふたりは暫く、密かに親密な時を過ごす。
神のように慕う紬からミユリは自分の一番の存在だと言われ、自己肯定感が抱けるようになる。
ミユリの表情は明るく穏やかになり、身なりや容姿も綺麗になって友達も自然に出来てくる。
思った通りの運びだが、紬のミステリアスな雰囲気に蚕~繭のイメージが絡み、理科の授業も丁度蚕の生態を扱っており、その教師と紬の関係も微妙に匂わせながら、流れ全体に独特の雰囲気が醸し出される。
極めて過酷な状況を脱したかに見えて、危うさと不安と焦燥は充満してゆき緊張感は高まってゆく。
蒼暗い光の色調がそれを演出し、紬=蚕~繭から想起される残酷なイメージが随時差し挟まれて展開する。

ミユリは取り巻きの友達との関りが増え、以前のように紬とふたりで逢う時間が次第に少なくなってゆく。
しかしふたりの大切な約束は生きていた。
一緒に授業をサボって沖縄旅行に行くことである。
狭い場所から飛び出して、解放されることを共に強く願っていたのだ。
この片田舎から、今の自分から、自ずと敷かれてしまうレールから、、、。
この沖縄旅行はただの気晴らしではなく、それら自分を呪縛する全てからの解放を意味する象徴的な行動でもあった。
そのために紬は放課後に無謀な金策に走っていた。
ミユリの、死をイメージする白昼夢なども現れ、不吉な予兆も感じさせる。

待ちに待った旅行をついに決行するが、それは女の子がふたりで楽しく燥いでゆく旅とは異質なものとなっていた。
とても寂し気な乗り継ぎ駅でベンチに待つときに紬は眠ってしまう。
ミユリはその時に、紬の太腿に幾つもの刃物で付けた傷跡を見出す。
そこから出ている絹糸は幾ら引っ張っても途切れることなく引き出せるのだ、、、。
ミユリは闇の深さを知り、引き裂かれたところでこの関係は終焉を迎えた。
深夜、紬は捜索願を受けた警察と父親に保護され強制的に連れ戻されていった。
終盤、国語の授業で、カフカの変身をミユリが読む最中、遅刻して席に着いた紬が倒れる。
丁度、グレゴールが父に非情にもただの虫けらとして追い立てられる描写に差し掛かった時であった。
後日、東京の大学に受かり、列車を待つ駅のホームで、かつての悪友の口から、紬の死とそこに至った実情を知らされる。
紬は誰にも洩らさなかったが劣悪な境遇のなかにいて、彼女こそ誰よりも超脱~変身と解放を企てていた当のひとであったのだ。
彼女はグレゴールさながら部屋の隅で独り餓死したのだという。
紬の本当の姿がフラッシュバックするなか、ミユリは列車のシートで、初めてリストカットする。
「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」もそうだが、この辺の少女アドレッセンス映画に秀作が窺えるようになってきた感がある。
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