ハートビート

HIGH STRUNG
2016年
ルーマニア、アメリカ
マイケル・ダミアン監督・脚本
ネイサン・ラニアー音楽
キーナン・カンパ、、、ルビー(バレリーナ、MCA学生)
ニコラス・ガリツィン、、、ジョニー(イギリス人バイオリニスト)
ジェーン・シーモア、、、オクサナ(コンテンポラリーダンスの先生)
ソノヤ・ミズノ、、、ジャジー(バレリーナ、ルビーのルームメイト、MCA学生)
リチャード・サウスゲート、、、カイル(バイオリニスト、MCAの優等生、ジョニーのライバル)
アナベル・クティ、、、エイプリル(バレリーナ、MCAの優等生)
マーカス・ミッチェル、、、ヘイワード(スウィッチ・ステップスのリーダー)
8人も世界のトップダンサーが出演しているという、本格的なダンスが見られる映画ということで、観てみた。
これに似たダンス映画があったな~。最近忘れっぽいので、思い出すのに一苦労。
「ポリーナ、私を踊る」だ。
こちらも本物のバレリーナがヒロインであった。(しかし彼女はクラシックバレエから自らの意思でコンテンポラリーの道を選ぶ。本作のヒロインはクラシックは得意だがコンテンポラリーが苦手という設定である)。
ヒロイン役のキーナン・カンパも、全米ユース・バレエ・コンペティションで金メダルに輝き、サンクトペテルブルクのワガノワ・バレエ・アカデミーを主席で卒業した人だそうだ。だから踊りをしっかり見せる事が出来る。細かいカット割りやスローモーションやら引いたり極端にアップにしたりの目まぐるしい演出無しにかなり長いショットで踊りの全貌を堪能できるのは有難い。
コンテンポラリーダンスやヒップホップを踊る人たちのキレも良い。
バイオリンも見た目は申し分ない技巧と迫力であった。

主人公のバイオリニストのガリツィンはミュージシャンでもあると言う。
そうだこの系統と謂えば「フェーム」というのもあったが、自然発生的に食堂で始まる音楽・ダンス以外はつまらぬ映画であった。
もしかしたら「 ラ・ラ・ランド」とかも入って来るのか、、、これもかなりいまいちの映画であった。
同じ監督の「セッション」は大変凄いテンションで一気にもってかれたものだが、、、。
横道に逸れていても仕方ないので、頭~噺を切り替えたい。
とは言っても、話自体は特にどうというものではない。
実にベタな青春サクセスストーリーだ。
これほどまでに捻りのない噺も珍しい。
だが、グイグイ惹き付けられてしまうのは、踊り~音楽のテンションである。
(筋など音楽~ダンスを乗せるためのベースに過ぎない)。

ヒロインのルビーと彼女のルームメイトのジャジーはどちらも奨学生である。
遅刻厳禁でとても厳しい校風なのにそのジャジーに誘われルビーもしょっちゅう夜遊びをしている。
夜遊びで出掛けたバー?でテーブル合わせてそのうえで踊り出したり、招待されたパーティで、主演二人(ルビーとジョニー)のダンスがなかなかの(これこそコンテンポラリーな)ステップで決まっていたり、ルビーを巡ってジョニーとカイルのバイオリンの超絶技巧をかけた一騎打ちが始まったり(どことなくカーブド・エアーのダリル・ウェイを思わせる弾き方)、、、その辺の自然発生的なイベントは面白かった。明らかに「フェイム」よりも見応え聴き応えはあった。
駅のホームで始まったストリートダンサー同士の対決は、強面同士の威嚇する迫力はあったが、どうも奇抜で意表を突くような動きがなくて盛り上がりに欠けた。

イベントの始まる気配があり、そこに誰かが(主演者が)スイッチを入れると周囲のバンドマン、管弦楽奏者、ダンサーらがしっかりバックからアンサンブルや伴奏をつけてくる。これが結構絶妙なのだ。この映画の肝はそこにある。
ブレイクダンスもジャッキーチェンみたいにその辺の物を上手く使ったりしながらアクロバティックな動きでメリハリをつけてくる。
青春サクセスストーリーの枠を使い、思う存分クロスオーバーに音と動きのアグレッシブな美で魅せようとするものだ。
この重層する乗りがこの映画のもっとも肝心な部分と謂える。
どの場面を見ても、ソロは基本的にない。必ず絡む。絶妙に重奏してくる。そこにワクワクする。
地下鉄でジョニーがバイオリンのライブ(彼は大道芸という)をしている時も、列車や近くの工事(そこで働く彼らもストリートダンサー)の出す音~環境音に被せていた。
基本がクロスオーバーなのだ。
クラシックバレエ~バイオリン~ブレイクダンス(ヒップホップと謂うべきか?)
面白いのだが、最後の賞金がたんまり貰える何とか大会(弦楽器&ダンス・コンクールか)での出し物よりも上記の自然発生的な場~イベントのインプロビゼーションの方が格段に創造的でカオスで見応えは大きい。
「エクス・マキナ」のメイドAIロボット役であったソノヤ・ミズノがヒロインのルームメイトで出ていたが、かなりの存在感を魅せていた。(「ラ・ラ・ランド」にもエマの同居人で出ていた)。
この日系イギリス人女優にはかなりの器を感じた。注目したい。

最後にルビーの踊りを評してジプシーになったとバレエの先生が絶賛していたが、ジプシーの映画「ガッジョ・ディーロ」を観た後で感じるところでは、奔放なジプシーの域までは行っていない。コンテンポラリーの範囲内だと思う。
今一つテーマの創造性と躍動感に欠け、何とか形にまとめてみたという感じがする。
ストリートが身上のもの(偶然性の爆発)をステージに上げ、無理やりジャンルの違う表現、特にバレエという様式美と融合する難しさが露呈されていた。バイオリンの曲もクラシックでなくても良いが現代音楽と謂うよりポップスであり、ちょっとどうかなと思う。
あの拍手喝采スタンディング・オベーションはまず、ない。
キーナン・カンパがバレエの先生の前で独り残って踊るシーンが、地味ながらわたしとしてはもっとも印象深く、何より美しかった。

アナスタシア・シェフツォワ(ポリーナ)もキーナン・カンパ(ルビー)両者ともにバレリーナとしても女優としても大変美しくオーラがあり、このような踊りで魅せる映画に今後も期待したい。
ハートビートはしっかり感じられる映画であった。
そのアンサンブルに。
心地よく観られるシーンの多い映画ではある。
ここのところ音楽や踊りを題材とした映画を観てきたが、所謂ミュージカルとも違い観易く面白いものだと思えた。
勿論、映画にもよるのだが、、、。
機会があれば意識して観たい。
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