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GOMA28

Author:GOMA28
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白痴

hakuchi001.jpg

1951年

黒澤明 監督
黒澤明、久板栄二郎 脚本
ドストエフスキー『白痴』原作

原節子 、、、那須妙子 ナスターシャ
森雅之 、、、亀田欽司 ムイシュキン公爵
三船敏郎 、、、赤間伝吉 ロゴージン
久我美子 、、、大野綾子 アグラーヤ
志村喬 、、、大野 エパンチン将軍
東山千栄子 、、、大野里子 リザヴェータ夫人
文谷千代子 、、、大野範子 アレクサンドラ
柳永二郎 、、、東畑 トーツキイ
千秋実 、、、香山睦郎 ガーニャ
千石規子 、、、香山孝子 ワーリャ
井上大助 、、、香山薫 コーリャ


この映画の全体について語る用意はない。幾つか感じたことのみ記して置くに留める。
4時間25分のものを二度にわたり松竹側からカットを要請され、ついに普通の映画1本分にあたる時間を切り取り166分になってしまった作品ということ。
監督は当初、第一部と第二部の二本立ての映画として計画したが、それを本作のなかに組み込んで一本の映画とすることになった。
第一部「愛と苦悩」そして第ニ部「恋と憎悪」。
冒頭の方で3度も字幕による説明文が流され、場面を切った後の繋ぎのトランジションなのかワイプなどが頻繁に入って展開して行く。かなりの難産によって日の目を見た映画という感じはする。ちょっと作品自体がダイジェスト版になりかけていて痛々しい。
(よくあるオリジナル作品の発掘はこれについてはないようだ。完全にカットした段階で消滅しているらしい)。

昨日の「七人の侍」の対極にあるような作品である。

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まさに” Femme fatale”とは、この人のことか、と実感させる黒衣の原節子~那須妙子(素晴らしいネーミング)であった。
小津映画ではまず見ることのないペルソナだ。こんな迫力というか情念・魔性を彼女に覚えたことはない。
(これを観てしまうと、他の役柄が皆、省エネ演技に思えてしまう)。
その相手役、ではなく主役は有島武郎の息子である森雅之だ。
基本的に女性キャストはピッタリの役柄でリアリティがあったが、森雅之の亀田欽司はかなり難しい役だ。
抽象的な人物を演じる困難さである。目からして極めて特異な「てんかん性痴呆症」を遥かに超えたペルソナを演じている。「一番大切な知恵にかけては、世間の人たちの誰よりも、ずっと優れている」人物として素描される。
語る言葉はことごとく、哲学的で詩情に溢れてもいる。魅力的であり、全く別世界の人間に見えてやはり世間一般の常識~パラダイムをはみ出している赤間伝吉が惹かれるのも良く分かる。

森雅之、彼はやはり文学的な雰囲気~面持ちの人である。(有島武郎はわたしの大好きな作家であり、文を読んでいるときの恍惚感は他の作家では味わえないものがある。とても堅牢な文体と構成力に眩暈を感じる)。

原作(勿論訳だが)は軽妙な文体で、するする読んで行ける(行ってしまった)が、映画の方も亀田と赤間の掛け合いが微妙なテンポで面白く、知らず惹き込まれてしまう。内容の重み、と言うか純度は途方もないが、観易い流れではある。
舞台は昭和20年代の札幌。異国情緒があり、何だかロシアっぽい。
特に赤間伝吉のアジトなど、かなり無国籍的で禍々しい魅力が漂っている。
「ぼくはね、君の家がこんな風だろうと思っていたよ」赤間の内面も見透かすような亀田欽司の洞察力は半端ではない。

hakuchi005.jpg

白く深い雪のなかでの純粋な狂気とその崩壊の物語である。

主要登場人物は皆、狂気の人である。いや、目をしている。
目が違う。
那須妙子の目、亀田欽司の目、赤間伝吉の目、大野綾子の目、、、その眼差しの力。
運命に対する途轍もない怒りに充ちた眼差し、自我から外れた純粋な洞察を湛える静かな眼差し、親の呪縛に対する激しい反発と自己主張にぎらつく眼差し、頑なに純粋さを求める半面の猜疑心による攻撃的な眼差し、、、
皆、尋常ではない。

hakuchi002.jpg

この他の目は普通の目とは言えるが。
その目を持つものもかなり強面だ。
大野里子に香山孝子の女性陣である。
正論を翳して襲い掛かる。男たちは皆、タジタジである。
特に八方から終始やられっぱなしは香山睦郎だ。
那須妙子を愛人として囲っていた政治家東畑から60万円の持参金付きで引き取ろうとした身である。
(それでいて大野綾子にもこころを寄せている。この点では亀田欽司の全く裏側に位置する)。
ずっといじけて不貞腐れっぱなしの小心者の目であった。

赤間伝吉は那須妙子に一目ぼれした瞬間が自立の決意と同期したため、まずは是が非でも彼女と結ばれたい。
100万円を用立て、香山睦郎に叩き付ける。
それが那須妙子によって暖炉に放り込まれるが、意に介さず「これが俺たちのやり口だ」と啖呵を切り彼女を連れ立ってゆく。
男では彼のみがひたすら強気で衝動的で、きな臭い。

それにしても「東京物語」の奥ゆかしい東山千栄子の見る影もない。
もっとも、大野里子は最終的に(本質的に)娘同様、亀田欽司という存在の尊さを認識している。

hakuchi004.jpg

亀田欽司の語ることが確信を突きすぎていて、その本質力から誰も異論は出しようがないのだが、那須妙子と大野綾子両者の純粋さと素晴らしさを認め、両者を好きだと公言してしまったうえで、どうするかという世間的な配慮など元より計算などない。
彼の本質を見抜いてしまい那須妙子と大野綾子も彼を心から愛してしまう。
だがそれが単純な取り合いにはならない。
那須妙子は彼の人生を自分のために台無しにはしたくない一心で、大野綾子と結婚させたいと願う。
それが余計に大野綾子の癇に障る。

そこに深く絡む赤間伝吉とそうした流れを理解しつつ世間体も考え口を挟む大野里子。
嫌われながらも当てつけで大野綾子に時折利用されつつ最後まで周辺に漂う香山睦郎。
それを激しく叱咤する妹の香山孝子。
亀田欽司に共感し好意を寄せるメッセンジャーボーイの香山薫。
彼らの動きから只ならぬ波紋は広がる。

夜の雪まつりの光景がまた禍々しく、そこに立つデーモン雪像が一際象徴的に見えた。
那須妙子と大野綾子のギリギリの対決を経て二人の共存の不可能性を感じ取った赤間伝吉は那須妙子を手にかけた。
亀田欽司と赤間伝吉は自らの精神を支えきれずに崩壊し精神病院に入る。

「そう!あの人の様に 人を憎まず、ただ愛してだけ行けたら、、、
私、、、私、なんて馬鹿だったんだろう、、、白痴だったの、わたしだわ!」
大野綾子の最後の言葉で締めくくられる。



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