グッバイ・ゴダール!

Le Redoutable
2017年
フランス
ミシェル・アザナヴィシウス監督・脚本
アンヌ・ヴィアゼムスキー『それからの彼女』原作
ルイ・ガレル 、、、ジャン=リュック・ゴダール
ステイシー・マーティン 、、、アンヌ・ヴィアゼムスキー(妻)
ベレニス・ベジョ 、、、 ミシェル・ロジエ(親友の妻)
ミーシャ・レスコ 、、、ジャン=ピエール・バンベルジェ
グレゴリー・ガドゥボワ 、、、ミシェル・クルノー
「中国女」の主演を務めたゴダールの二人目の妻アンヌ・ヴィアゼムスキーの自伝を元にしている。
(最初の妻は、アンナ・カリーナである)。
アンヌ・ヴィアゼムスキーは、母方の祖父は作家のフランソワ・モーリアックであり自身も女優の他に小説家、映画監督でもある。

本人、、、つい先ごろ亡くなる。
「サンローラン」のルイ・ガレルがジャン=リュック・ゴダール
かなりの印象を植え付けられた(笑。なりきっていた感じ。
監督は傑作「アーティスト」のミシェル・アザナヴィシウス。
「5月革命」であれだけ労働者に交じりドゴール批判をしてデモに参加しては眼鏡を壊したり、学生たちの革命集会ではケチョンケチョンに貶されてすごすごと退散したり、ジャン=ピエール・ゴランらと「ジガ・ヴェルトフ集団」を結成してめんどくさい民主主義(匿名性)映画製作をしていたことなどわたしは知らなかった。
トリュフォーらとカンヌ国際映画祭を中止に追い込んだのは小耳に挟んではいたが。
ゴダール監督自身についてはほとんど何も知らない。
知らないからこの映画で観た印象を少しばかり語るにとどめる。
しかし、政治か映画かって、、、映画作ることが不可避的に政治的な行為でもないのか?
(例えばロックにおいて、パンクは極めて政治的行為でもあった)。
これを二項対立の図式にすることもないのでは、、、。
ということで、彼の妻であったアンヌ・ヴィアゼムスキーの自伝映画で色々面白い逸話が披露されるかと想って見てみた。
ひたすら政治運動に首を突っ込み、理屈を捏ねていたが、あんななかで映画を作っていたのか、、、と感慨深いものはあった。
それから夫婦で何処に行くにも出来る限り一緒に行動し、夫が嫉妬深くうじうじ喧嘩を吹っ掛けてくるなど、思いのほか普通な夫婦生活なのには驚いた。
もっとリベラルな、芸術的で自由な夫婦ではないかと思っていたので、ちょっと暑苦しかった。
アンヌが結構献身的で、ゴダールのよき理解者足らんと努力していたこともよく分かったが、そこは彼女の自伝である。
多少差し引いて見る必要もあるかも。

アンヌ・ヴィアゼムスキーとはタイプは違うがプロポーションのよい知的でコケティッシュな美女で役にはピッタリフィットであった。
ゴダールが学生との議論ではことごとく言われっぱなしで呑み込んでしまうのも印象的であった。
理論以前に若さに気後れしている感じである。そう若さにコンプレックスを抱いているみたいだ。
35歳(モーツァルトは35で死んだ)より歳をとった芸術家はマヌケだと彼自身独白している。
何を言われようが、彼らの支援者たらんとしていたようだ。
夫婦で手をつないで、デモに参加してはいつも眼鏡を壊す。
監督仲間(映画ファン)には、映画は、ゴダールはもう死んだと謂い、これまでの映画や自分の作品をことごとく否定してみせる。
だが政治集会では、映画監督として存在そのものを糾弾される。コカ・コーラの成れの果てとまで学生に突っ込まれる。
何と言うか、政治と映画の二項対立において前者からは否定され後者を自ら否定し、両者から批判されて抽象的に宙吊り状態で悶々となり妻に時々八つ当たりしているという様子であった。

こうなるとゴダールの才能の煌めき場面を渇望してしまうが、終始書かれたことや謂われたことにウジウジし妻に慰めてもらっている構図ばかりが目についた。実際、映画を変えたというほどの作品を次々に発表してきたのだから、その辺に纏わる創造の閃きなど製作逸話もないかと思ったのだが、なかった。
どちらかというと、労働者の集会やデモに参加しているのに日常生活(ちょっとした会話)において彼らを見下しているような痛い人に描かれている。
わたしには何で映画監督がこんなことに首を突っ込んでいるのかが理解できないので、距離感を持ってずっと観ていた。
その間、アンヌはゴダールと出会ったことで得た世界観を彼女の視点からさらに的を絞っておし広げているようであった。
ゴダールが映画に戻り、いや本来の自分に戻り、監督として映画を撮って行けばグッバイはなかったかも知れない。
彼女は政治の人というよりも映画の人であったのだ。
少なくとも天才映画監督としてのゴダールを敬愛していたのは確かだろう。
もっとも、ゴダールは、ゴダールであったのだろうが。

アンヌ・ヴィアゼムスキーは先ごろ亡くなったが、ゴダールは88歳で元気である。


アンヌ・ヴィアゼムスキー ステイシー・マーティン
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