ミスミソウ

2017年
内藤瑛亮 監督
押切蓮介 原作
唯野未歩子 脚本
山田杏奈、、、野咲春花(東京からの転校生)
清水尋也、、、相場晄(春花より前に東京から転校、彼女の味方)
大谷凜香、、、小黒妙子(学年のボス、最初は春花と)
大塚れな、、、佐山流美(春奈の前の虐めのターゲット)
中田青渚、、、渚橘吉絵(妙子の下で虐めを実行する女子3人組のひとり)
その他、悪質な虐めを行う男子3人
原作の漫画は知らない。
ある片田舎の中学3年生の物語である。もうすぐ卒業と進路を控えた雪の降り積もる冬である。
小黒妙子の野咲春花への秘められた恋愛感情が相場晄の介入によって傷つけられとことから、このような全的崩壊を齎す殺戮に展開・連鎖してゆくものなのか?
妙子が春花に怒りからそっぽを向く、というのは分かるが、例え嫌がらせめいたことをするに及んでもそこに取り巻きの加勢を許すだろうか?
お前ら関係ないだろ、にはならないのか?
やはりそれぞれ思惑もあり集まって来るものか。虐めの匂いにつられ。
虐めが娯楽~こころの隙間を埋める行為に短絡するか?そしてどこまでもエスカレートしてしまうものか?
集団心理でポゼッションに陥ってしまうことはカルト教団などに実際にみられる。
それに等しい状況と言えよう。
バックグラウンドに関してだが、気の利いたshopも娯楽もない土地に暮らすことが閉塞感を齎し鬱積してくるものだろうか?
(銃マニアのおデブがそんなこと言っていたが)。
わたしも一時期、田舎に住んだことがあるが、自然に恵まれ空気も美味く不足を感じたことがない。と言うより充足感をもっていた。
強烈に異質な外部(反転して欠如)を意識する事態があったり、抑圧・監視する何らかの力学により閉塞感を感じ鬱積するのか。
さぞかし村意識が強い土地なのではないか(そういう描写は無いが)とは思う。
東京に出たいという気持ちは、漠然とした解放~憧れの象徴としては分かる。
しかし現実として、パソコンがあれば大概のことはどうにか持っていけるものだ。
テレビにはない双方向性が前提としてあることは言うまでもない。
少なくとも最新情報に触れたり、SNS、ブログによる遠方との情報交換・コミュニティ作り、Netゲームや買い物など自由にできる。そのなかで都会の波長の合う同年代にしっかり繋がれば、実際に逢う等交流を深める機会だって出来るはず。
籠ってパソコンで日夜、何やらやっている子も出て来てもおかしくないと想うが、いなかった。
(よく目をぎらつかせて怪しげな会員制サイトを立ち上げて誘いをかけているオタクとか出てくるものだが)。
流美が憧れの妙子の似顔絵を描いていることくらい。これは素朴でよい雰囲気だがこの子がやるとやはり不気味。
後は武器オタクがふたり。これが虐めに絡むとかなり危険。他に趣味はないのか、、、。
ここは、偏りが何とも不思議なところ。

さて、春花への酷い虐めがエスカレートし、父親は学校に抗議に行くが担任はまともに取り合わない。
担任も重度のトラウマを抱えた女性教員で虐めの問題を受け止められるような状況にはなかった。
しかも悪質な虐めグループの男子生徒から父は帰り際に暴行を受ける。
クラスでは、相場独りが春花を庇い、唯一こころの拠り所となっていた。
春花が登校を拒否すると、流美は再び虐めのターゲットに戻すと虐めグループに脅され、嫌なら春花を呼んで来いと命令される。
結局それが首尾良く行かなかったことで、流美は責任をとらされることになるが、春花をぶっ殺すと啖呵を切り、石油タンクをもって春花宅に虐めグループ全員を伴い脅しに行く。しかし脅しに終わらず、本当に火を付けて家を全焼させてしまう。その放火で春花の両親は焼死し妹も全身火傷の瀕死の重傷を負ってしまった。
父の転勤で飛んでもない土地に流されここで実質、孤児になってしまったかと思ったら、何故かこの地に祖父がいて彼に引き取られることになる(これは意外であった。こんなところに親族がいたのだ)。

この大きな犯罪に対し何故か学校も警察も動かない。これが非常に解せない。
小さな田舎であってもこれはあり得ない。西部劇の無法地帯でもあるまいに。
この後、保護者が子供が家に戻ってこないと学校に詰め寄るところで、警官が事情を聴きに学校に来るが捜査をしている気配はない。ここはホントにどういう場所なのか?
保護者に吊るし上げられた担任が、たまらず雪空のもとに飛び出したところを雪上車に轢かれ呆気なくミンチとなる。
カタストロフに興奮して得意になっている虐めグループに対し春花の復讐が始まる。
ここでこの映画の肝であろうスプラッターシーンが相次ぐ。
次々に殺害容疑者を春花は殺傷してゆく。
まるで赤い血を鮮烈に染める為に雪白の地があるかのようだ。
振り切れている春花は、武器オタクの男子ふたりの待ち伏せ不意討ちにも怯まず冷静に対処して仕留める。
ボスの妙子に対しては、彼女の本心を察している為、これを許す。家の放火にも彼女は直接関わってはいなかった。
しかしいじめられっ子の流美に対しては隙があった。
春花は腹部を彼女に深く包丁で刺され致命傷を負う。
それを見た相場はすかさず流美を殴り、木の枝で刺し殺す。
だが更に、春花が自分と東京に行くことに同意しなかったことに逆上し、横たわる彼女を殴りまくる。
(ここに来るまでに彼は自分の祖母と彼女の祖父を殴り重傷を負わせている。それ以前にも両親を殴って母は亡くなっているらしい)。
彼もまた質の悪いサイコであった。
春花は武器オタクの持っていたクロスボウで相場を仕留める。
だが自分もその場に精魂尽きてしまう。

真っ白い雪に、復讐のモードになった春花は真っ赤なコートを着ている。
彼らの相まみえる所、どこも白地が真っ赤に染まってゆく。
それに対し春花に詫びる妙子は真っ白な上下であった。
潔白の証明でもあるまいが、自分は春花に対しいまや真っ白であるという証のように受け取れる。
他に復讐され刺されて死んでゆく生徒たちは誰も黒が基調である。犯人の黒だ。
遊撃的に動き、妙子も春花も刺してしまう流美は黄色いジャンパーを着ていた。
一種のトリックスターか。
追い詰められ憧れの存在には幾ら尽くしても拒絶される、絶望に乱れ全ての破壊に向かう箍の外れたこころをよく表している。
(この全的崩壊劇の触媒は他ならぬ流美である)。
結局、この虐めの関係者はほとんど皆死んでしまい、卒業式に出ることが出来たのは妙子独りであった。
流美から深手を負わされたように見えたが命は助かったのだ。
最後に教室に戻り、春花との想いを済んだ明るい窓辺に描く。
春花のことを記憶に留めているのは妙子独りと言うことになる。
考えてみればこれは恐ろしいことだ。

壮絶だが、この手のスプラッターは人狼ゲームとかでも見慣れてしまっていて、特別どうというものではない。
然したる根拠もなく生死を賭けた闘いにどこまでも及んでしまう、、、。
これは、はっきりと人間の一面を現してはいる。
しかし虐めに対する救済という点では皆死んでしまっては元も子もない。
妙子に何が託されたというのか。
こういうことがないとは言えないレベルでの、リアリティはとてもあった。
雪のなかで、若い役者が健気に頑張っていた。
山田杏奈の眼の演技は印象的であり、凛々しい女優がまた出てきた。
浜辺美波もうかうかしていられない。
