ボンヌフの恋人

Les Amants du Pont-Neuf
1991年
フランス
レオス・カラックス監督・脚本
主題歌:デヴィッド・ボウイ、リタ・ミツコ
ドニ・ラヴァン 、、、アレックス
ジュリエット・ビノシュ 、、、ミシェル
クラウス=ミヒャエル・グリューバー 、、、ハンス
凄まじい貧困状況が映される。
「狂った夜」の貧困表現など飯事だ。
そして夜もうすぼんやりした夜ではなく漆黒の夜。
主要人物はみな、思いっきり汚い。
アレックスは路上で我を失い寝転がっていたところを片足を車に轢かれる。
偶然そこに出くわした片目を眼帯で覆っているミシェルはそれを死体だと思ってデッサンにする。
アレックスは片手の指をピストルで吹き飛ばす。
片思いはいつものこと、、、。
アレックスは退院すると自動的にボンヌフ橋に戻る。
ボンヌフ橋は修復の為、工事中であるがそれも中断しており、そこを住処にしている者もいる。停滞の象徴。
今のままではダメだ、南仏に行こうと良心的な人に誘われるが、気持ちは乗らない。
アレックスは基本、何処にも行けない。
それは分かる。わたしも行けないのだ。理解できる。
橋の自分の寝床には、彼を道端でデッサンした女ミシェルが寝ていた。
動ける契機と謂える。逆に謂えばこんな事態が生じなければ、そのままであり、多くはそのパタン。
アレックスは、眠り方を知らず、ハンスに頼っていた。
ハンスが箱から眠剤のガラスアンプルを取り出す。ここがとてもゾクゾクする。
ハンスは元警備主任であったためそこらじゅうの施設の鍵も全て持っていた。
世間から退き、年老いて沢山の鍵を持つ男はいるものだ。

明るい時の明るさがことさら明るい。
夜の漆黒のせいだ。
レオス・カラックスの黒と呼びたいほど。
それによる明暗のコントラストが凄い。
アレックスの年上の相棒ハンスは女のホームレスを認めない。
家に帰れと、、、。しかし彼は彼女を嫌っているのではない。
彼女の視力はどんどん減退する。蛍光灯の光にも耐えられない。
夜、ハンスとミシェルは美術館に一緒に忍び込み、肩車して蝋燭の光で彼女にレンブラントを見せてやる。
レンブラント光線を逆照射された彼らも絵の中の姿になる。
この明暗の妙。
盗んだ魚を夜刺身で食べる。
「日本ではこれをスシというのよ」
アレックスに言っても意味はない。想像もつかない。
彼女もホームレスだが元は裕福な家のお嬢様である。
ふたりで睡眠強盗をカフェテラスで行い金儲けする。一緒に悪事をすることは楽しい。彼ははじめて海を見るが、、、
アレックスはそれ~金が彼女を橋から遠ざけてしまうことを恐れる。
徹底して彼女の移動を拒む。

アレックスは彼女のもっていた手紙から素性を探る。
ジュリアンとは彼か。
彼女は彼を描き、彼は彼女に音楽を送った、、、
何かが起こった。彼は去り、彼女は待った。
彼のことが忘れられない。
それが愛か。
彼を探すために家を出たのか、、、
アレックスはそんな一連の物語を想い、彼女のことで頭が一杯となる。
火を噴く大道芸。
漆黒の夜にパリの祭りの花火と火炎。
夜。川。花火。音楽。ピストル。踊り。
酔っぱらって下品に笑い転げる。ピストルの弾丸を一発だけ撃たずに残しておく。
(それが後にアレックスの指を撃ち抜く)。
「空の白。雲の黒。」とアレックスはミシェルに求愛のサインを出した。
しかし彼女は別の男に関わっている。
何度も彼女がアレックスに言う言葉
「いつか話すわ」
戸惑い憤りにも繋がる。
それなのに、空の白を受け容れ、愛し合う。
だが、元々そのまま落ち着けるはずもない。そんな場所にいないのだ。

メトロでチェロの音に惹かれて走り出すミシェル。
チェロの男を追い払うアレックス。
メトロで彼女を探すポスターが貼られる。
「彼女の目が治せるというメッセージ」
剥がして火をつけるアレックス。
ミシェルはドア越しにジュリアンをピストルで撃ったのか、、、だが一発も使われていなかった。
アレックスは、片っ端彼女を探すポスターに火をつけて周るが、荷を積んだ車ごと作業員も焼き殺してしまう。
こちらは悪夢では済まなかった。街で日常を生きる子供が目撃していたからだ。
ハンスは、ミシェルと絵を観た翌朝、川に沈む。
目が治せることをラジオで聴いたミシェルはアレックスに「あなたを愛してなかった。わたしを忘れて」と橋に書き残して去る。
服役していたアレックスに2年ぶりに目の治ったミシェルがやって来て言う「治らないものはないのよ」
生きていれば治るのだ。そして動こうと想えば何かに乗ってしまえばよい。動ける。違う人間になれる。
壊れた橋も直った。しかしそこには彼らの居場所はない。交通があるのみ。
人も生きていれば治るのだ。

クリスマスか、、、。
雪の降る寒い夜、、、あまり寒そうには見えない。
午前零時のしっかり完成したボンヌフで二人は逢う。
ここでも二人は実に下品に笑い燥ぎ合う。
そして幸福を分かちあうが、彼女はもう帰らなければならないと切り出す。
「いつか話すわ、、、」
「嘘つき!」と叫びアレックスは彼女に飛びつき川に共に身を投じる。橋から弾き飛ばされるみたいに。
砂を積んだ船に拾われそのまま船の行く先「ルアーブル」にふたりも一緒に向かうこととなった。

「微睡め、パリよ!」
橋を失ったアレックスはミシェルとこの先、何処にでも行けるはず。
やや、尻切れトンボで終わってしまった、、、。
が、それまでがとても良いからいいことにする(笑。
- 関連記事
-
- 気ままな情事
- 鞄を持った女
- ボンヌフの恋人
- ボーイ・ミーツ・ガール
- ポリーナ、私を踊る