木と市長と文化会館 または七つの偶然

L'Arbre, Le Maire et La Mediatheque ou Les Hasards
1992年
フランス
エリック・ロメール監督・脚本・音楽
パスカル・グレゴリー、、、ジュリアン・ドゥショーム(ヴァンデ・サン=ジュイール市長)
アリエル・ドンバール、、、ベレニス・ボーリバージュ(小説家、ジュリアンの彼女)
ファブリス・ルキーニ、、、マーク・ロシニョール(小学校校長)
クレマンティーヌ・アムルー、、、ブランディーン・レノワール(政治社会学が専門、ジャーナリスト)
フランソワ・マリー・バニエ、、、ロジス・ルブラン・ブロンデ(政治雑誌編集長)
ギャラクシー・バルブット、、、ゾラ(マーク校長の娘)
BSで観た。最近のNHKは良いものを流す。フランスモノばかりで嬉しいではないか、、、。
(もう当分、西部劇はやめてね)。
「緑の光線」に続きエリック・ロメールもの。
「7つの偶然」は7章から成り立っていて、どれも、もし、、、という噺で始まるからか。
洒落ていて小気味よい対話で心地よい。
喋りがここまで映画を作っているのを観たのは初めて。
市長が田舎に「文化会館」を作ることを巡っての噺である。
図書館、ビデオライブラリー、野外劇場、プールそして大きな駐車場をもった建物だ。
しかし、田舎に自然の景観を破壊してまで、緑の広場を無くしてまで、そんなものを建てる必要が果たしてあるかどうか、の議論が様々の場面で繰り広げられる。
登場人物は極めて良識のある普通の人たちだ。
自分の信念をもって率直に語り合う。
それが全く劇じみていない。
ドキュメンタリー調というか、すぐそこの部屋で話されているのを聞く感じである。

クールビューティを絵に描いたようなブランディーンが村の人々にインタビューする場面も面白い。
本当の村人相手である。
村の実情と彼らの置かれた現実が伝わって来る。ルポルタージュだ。
勿論、市長に2時間も政治信条や今後の計画・展望などを確認し、その反対派の代表格のロシニョール校長のエコロジスト的な発言も平等に聴いて記事を書く。
しかし内容の刺激度と面白さから編集長のブロンデはジュリアンの記事は全て没にして雑誌に載せる。
つまり校長側にスポットを当てた特集記事となった。
市長の噺は平凡で当たり障りがなく、他の政治雑誌に載っている記事にも似たような内容が見られるという理由からだ。
確かに彼の話を聞いて、左派がどうの右派がどうの言ったところで、政府から予算をせしめて自分の地元で目立つ事をして実績を得たい、よくいる市長の域は出ない。しきりに自然に配慮して村の経済的発展(脱農業化)を図ることを述べても、今更読者が興味を持つほどの内容ではない。
ロシニョール校長の噺の方がそれは圧倒的に読者受けする刺激がある。
(大概反対派の過激意見の方が面白いものだ)。
ここで当然、ジュリアンとブロンデ(親戚でもある)には距離が出来る。
だが、ブランディーンとの関係は良好なままだ。
お互いに大人である。市長も基本的に真摯な姿勢をもつ良い人ではある。
市長の娘ベガ、校長の娘ゾエの出逢いから俄然面白くなる。
10歳の娘ゾエは将来立派な代議士になることを父から期待されている娘だが、なかなかのもの。
(父に対しても論理的な批判が出来る。親の言ったことなども鵜呑みにはしない)。
コミュニケーション能力が高いと言ってしまえばそれまでだが、まず自分で考える能力があり、それを相手に上手い間を取って精確に伝え、相手の考えを巧みに聞き取ることが出来る。
はっきり言って、大人でもわたしの身の周りを見回してそれが出来る者は極少ない。
それは悲しい程、、、と謂うより絶望的とも謂える。
(認識の枠というものは恐ろしい)。
結局、彼女がベガのお父さんであるジュリアンに伝えたことは、緑の広場の大切さであった。
人が集まれる場である。人の真の交流の場が無くなってしまったことによる閉塞感と不活性化が村の現状を支配していたのだ。
基本的に外(都会)から人を呼ぶ目的の文化会館では、更に村人を疎外する方向性しか持ち得ない。
これは、村人からブランディーンが聞き出した話に必ず滲み出て来たことである。
10歳でちゃんとその現状を掴んでいる。
二人の対話を見ると、彼女はディベートも上手そうだ。

娘のお陰で文化会館建設が中止になったような父の喜びよう。
(建設予定地の地盤の補強に予算がかさみ中止となったのだが)。
親バカであるが、確かに娘は将来有望である。

市長の彼女ベレニスは都会大好きのパリ出身者であるが、最終的にジュリアンと田舎に住み、リゾート気分で休暇に都会に行って愉しむという選択にしたようだ。それも上手い方法かも知れない。
ジュリアンはその地に持つ広大な敷地を人々の憩いの場所に提供する。
最後はミュージカル調に良い余韻を持って終わる。
音楽のセンスも良かった。
「緑の光線」と甲乙つけ難いセンスの良い作品であった。
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