フラガール

2006年
李相日 監督・脚本
松雪泰子 、、、平山まどか(常磐音楽舞踊学院最高顧問)
蒼井優 、、、谷川紀美子(常磐音楽舞踊学院1期生)
豊川悦司 、、、谷川洋二朗(紀美子の兄)
富司純子 、、、谷川千代(紀美子の母)
岸部一徳 、、、吉本紀夫(常磐炭礦元社長、常磐ハワイアンセンター創業者)
山崎静代 、、、熊野小百合(常磐音楽舞踊学院1期生)
徳永えり 、、、木村早苗(紀美子の親友)
三宅弘城 、、、猪狩光夫(洋二朗の親友、ハワイアンセンター転職)
高橋克実 、、、木村清二(早苗の父)
スパリゾートハワイアンズの誕生秘話でもある。
福島県いわき市の常磐炭鉱は昭和40年、大幅な縮小を余儀なくされた。
リストラされた人たちの受け皿でもあり町おこしとしても、湧き上がる温泉を利用したリゾートセンター事業が立ち上げられる。
しっかりと作られた文句なしの傑作。脚本、演出、キャストみな素晴らしい。
全て良かったが、蒼井優の何でもできる器には改めて唸る(笑。
岩井俊二監督の映画でバレエは踊っている為、踊りの素養は充分ある人だとは思っていたがここまでやるか。
他の女優さんもみな自分で踊っていた。
顧問の松雪泰子もしっかり踊って見せた上で技術を伝授している。
これはレベルが高い。
ふんだんに彼女らの踊りや練習過程での変化も分かり、どんどん良くなる踊りと結束するチームワークも実感できる。
炭鉱の街の保守的な共同体とは別のとても躍動感のあるフレッシュなまとまりが出来る。
この対比がダイナミックでアグレッシブで面白い。

ヒロインの母、谷川千代が娘のダンス練習の光景に感動しダンサー~娘たちを認めるところから急展開してゆく。
(このシーンは千代目線であろう紀美子のスローモーション交えたドラマチックな踊りが特に素晴らしかった)。
炭鉱から早々ハワイアンセンターに転職しヤシの木を植えている男たちがストーブの貸し出しを願い出る。
当然の如く、炭鉱夫たちはふざけるなとばかりにそれを拒否する。
だが、紀美子のダンスを観た千代は独りでストーブをリヤカーで集めて歩く。
それに驚く炭鉱夫たちであるが、彼女の謂うことばが説得力を持つ。
(千代は婦人会の会長でもあり、亡くなった夫も人望の高い人であった為、元々影響力は大きい)。
「うちのとうちゃんはお国の為だと言って石炭掘って山の中で死んだ。今まで仕事というのは暗い穴の中で歯を食いしばって死ぬか生きるかでやるものだと思っていた。だけど、あんな風に踊って人様に喜んでもらう仕事があってもよいのではないか。あの子らなら、笑顔で働ける新しい時代が作れるかも知れない。こんな木枯らしぐらいであの子らの夢を潰したくない。」
この富司純子の凛として毅然とした姿勢が物語を引き締めていた。
踊り~表現の力は素晴らしい。
ダンスに対する誤解~人前でへそ出して踊る不埒者~的な意識は彼女らの技術の向上に連れて薄まる。
個人の力が上がるに従い、余裕も生まれてチームメイトを励ましたりカヴァーしたり出来るようになり信頼感と結束が強まる。
踊りが盛り上がって行く後半からは、自然に感動してしまう物語であった。

紀美子を踊りに誘った、誰よりもダンスをしたかった親友の早苗が途中で父の無理解もあり断念して雪深い地に引っ越してゆく。
小百合の父が炭坑内の落盤事故に遭った時、公演で親の死に目に会えない結果となった。しかしこれは帰ろうと謂う先生まどかに対し小百合自身が望んで踊ることを選んだ結果であった。しかしまどかは自分の指示によるものだと街の大人の前で責任を取る。
ここで何より、紀美子たちだけでなく、まどか自身の変化~成長もしっかりと窺えるのだ。Wヒロインと言っても良い構図になっている。
呑んだくれで文句ばかり言っていた当初から見るとまさしく吉本紀夫の言うように「いい女になったねえ~」であろう。
彼女が東京に戻る夜行列車に乗った時に紀美子をはじめ生徒たちがホームへと結集する。
そこで先生に向けて彼女らがフラの意味ある手話でメッセージを送るのだ。
これはまどかだけでなくこちらにもダイレクトにくる。
(そう来るか、これはやられたと思った)。
演出の素晴らしさがそこかしこで光る。やはり映画は演出だな、と思うところだ。
そしてキャストが誰も色濃く活き活きしていた。
洋二朗も当初から温泉リゾート事業を半ば認めていた節もあり、ダンスも早い時期に励ます側についており、それが新事業~妹の為なのか、まどか目当てなのかとても微妙な線を行っているところが面白い。
光夫が初めは真っ黒な石炭顔をしていたのに、途中から小奇麗な顔と服装に変わり、ヤシの木を大事に運んでいるのも充分に可笑しいシーンであった。
岸部一徳は富司純子と共にこの映画を支える柔軟で優しく味わい深いキャラクターを好演していた。
舞踏、音楽、絵画など表現の本来の力を確認させてくれる映画にもなっている。
それは取り分け蒼井優によるところが大きい。
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比較的新しい日本映画では、わたしの最も好きな映画となった。
どちらも実話をベースにするが、「チア☆ダン」よりも遥かに良い。
演出の勝利かも知れない。