アポロ13号

Apollo 13
1995年
アメリカ
ロン・ハワード監督
ウィリアム・ブロイルス・Jr.、アル・レイナート脚本
ジム・ラヴェル、ジェフリー・クルーガー原作
トム・ハンクス 、、、ジム・ラヴェル(船長)
ケヴィン・ベーコン 、、、ジャック・スワイガート(司令船操縦士)
ゲイリー・シニーズ 、、、ケン・マッティングレイ(司令船操縦士、フレッドに交代)
ビル・パクストン 、、、フレッド・ヘイズ(月着陸船操縦士)
エド・ハリス 、、、ジーン・クランツ
キャスリーン・クインラン 、、、マリリン・ラヴェル
ローレン・ディーン 、、、ジョン・アーロン(EECOMアーサー)
クリント・ハワード 、、、サイ・リーバーゴット(EECOMホワイト)
トム・ウッド 、、、EECOMゴールド
メアリー・ケイト・シェルハート 、、、バーバラ・ラヴェル
エミリー・アン・ロイド 、、、スーザン・ラヴェル
誰よりもストイックで慎重な勤勉家のケンが風疹と診断され搭乗メンバーから発射2日前に外される。
急遽、控えのメンバーのジャックが補充された。
優秀であっても訓練不足は否めない。
13に纏わる不安の漂う中、これはかなりの痛手に見えた。
阿吽の呼吸のチームワークもすでに出来ている。

アポロ13号、打ち上げから55時間後のことである。
地球から321,860Kmの地点でフレッドが第2タンクの攪拌機のスイッチを入れたときに酸素タンクが爆発し、3つの燃料電池と2つの酸素タンクを失う。
(これ以前に中央エンジンが振動により予定より早く作動しなくなるトラブルが発生している、、、ここから嫌な予感は走っていた)。
これにより、早くも月面探査ミッションは無くなり、無事に乗組員を帰還させることが目標となる。
管制塔では喧々諤々の議論が起きるが、ジーンの決断で自由帰還軌道(月の裏側を周って自動的に地球軌道に乗せる方法)で彼らを戻すことになる。エンジンを使って周り右をさせることは損傷を受けているエンジンの場合、宇宙船ごと爆発する可能性が高い。
それから極めてハードなサバイバル戦が繰り広げられることとなる。
酸素と水の消失と二酸化炭素の増大と処理、燃料電池の減少と節約これが最大の切羽詰まった問題となって行く。
メーターの残量表示が目に見えて下がって行くこの恐怖と不安は如何ほどのものか、、、。
司令船オディッセイからアクエリアス(月面着陸船)を救命ボートに見立てて乗り移り、そこの環境にデータを移動し本来の目的を離れた地球に帰る為の作業に取り組むことになる。(但しこの着陸船は2人乗りであり、3人乗ってしまった為、二酸化炭素排出量の計算が狂う)。
アクエリアスにとって未知の働きを強制することとなり、対応を聴かれたメーカーもお手上げ状態となる。
(当然のこと、そのような仕様で作られてはいない)。
短期作業用の着陸船の二酸化炭素の除去能力では不十分となり、濾過装置を司令船から着陸船に移設する必要が生じた。
しかし二酸化炭素フィルターの規格が異なる(丸と四角と形状が異なる)為、それを船内に在る物を利用して組み立てざるを得なくなり、管制センターのメンバーでそれを試行錯誤して作りあげ、クルーに伝えて船内(無重力のなか)で工作する。テープや紙やビニルを使った恐ろしくローテックな手作業に癇癪を起す姿には共感する。
その後も耐熱シールドの破損や電力節約のための低温によるクルーの体調維持(排尿の我慢は寒さよりも体に悪い)、パラシュートの凍結など様々な問題・危惧が段階的にもちあがってくる。
機内と管制センターとの深刻な事態を巡っての緊密なやり取りが続く。
船内クルーも宇宙センター職員たちののストレスも高まる。フレッドは発熱するが他の2人もこれまでにない負荷に耐えてゆく。乗組員の家庭の不安と絶望は次第に強くなる。待つ身の辛さ、、、ジムの妻がもう見送りに出たくないと言った気持ちが分かる。
前代未聞のトラブルに見舞われた管制塔は即答に窮して混乱するが、高い指導力を持ったジーンの指揮により一つにまとまる。
そして落胆して寝ていたケンは宇宙センターに呼び出される。電力の深刻な問題を解決しなければならない。
誰よりも操作系に詳しいケンのシュミレーションの繰り返しから電力消費を抑え補充する手順をやっとのことで導き出す。
(ケンの粘り強いシュミレーション実験が無ければ電池切れで帰還は実現不可能であっただろう)。

ジーン・クランツ(エド・ハリス)がとても頼もしかった。
こうしたパニック時にはっきりした方向性の打ち出せる強いリーダーがいるかいないかで結果が大きく違ってくる。
余計な迷いはアポロ13号乗組員の死を意味する。
3人は月の裏側を周り、月面上に自分たちが着陸しサンプルを取るはずの場所(フラ・マウロ高地)を具に眺めながらの、いざ帰還となる。
何と複雑な気持ちであろうか。
それよりも、機械船を切り離したときの損傷の激しさに3人が驚愕していたシーンの印象が強い。
酸素などのタンクを保護するカバーのほとんどが吹き飛んでいた。
まさに生きた心地がしなかった瞬間であろう。
(誰もそれほどのトラブルとは思ってもみなかったのだ)。
最後のもっとも大変な操作が地球に対し司令船の大気圏突入角度を手動で定め機体を安定させることであった。
これは至難な業に思えた。
何とアクエリアスの降下用エンジンを噴射して軌道修正を行うのだ。
ジムでなければ角度が深すぎて燃え尽きるか、浅すぎて大気圏で跳ね飛ばされるかであったはず。
しかし実は宇宙センターの計算では、やや突入角度が浅いことが危惧されていた。しかしそれを伝えて直せる時間の余裕はすでになかった。ここでもジーンの采配は冴えている。迷いもせず、「伝えるな!」である。
これは、二度とない奇跡の生還でもあったのだ。

結局、ケンの風疹は発症せず、医師の誤診であった。
これがかえって幸いしたのであろう。
トラブルの原因は酸素タンクのコイルの欠陥であることが後に判明している。
乗組員の操作ミスなどは基本的にはない(攪拌機のスイッチを入れたことが引き金とはなるが)。
本部からケンが距離を置いて電力を保持する操作手順をひねり出してくれた功績は大きい。
VFXがもっとも活きている映画だ。
まず角度的に撮影不可能のシーンが鮮やかに映っている。
ディテール描写も素晴らしい。
計器盤の上の無数の結露は回路を短絡させ発火に導く恐れもあり(アポロ1号の事故のトラウマから)、ジャックが指示に従う際に一瞬ためらう、、、など。
臨場感が記録映画とは違う質をもっている。
再現性の次元が違う。
キャストも皆良かったが、ゲイリー・シニーズがこれまでで一番良い役をやっていたように思う。

クルーの心身消耗したギリギリのところでの闘い。
宇宙センタースタッフの生死のかかった難問に挑む気迫も充分迫って来た。
家族(特に幼い娘)の不安は観ていて辛くなる。
この3つの場所のドラマがジワジワと緊張感を高めて絡んでゆき最後にカタストロフ~万歳で締めくくられる。
われわれは結果は分かっているにも拘らず、大気圏突入後、交信の途絶えは通常3分半までとされるも4分半まで待たされると本当に心細くなってゆく、、、。
パラシュートでゆっくり降りて来る司令船から通信が入った際は、もう感動するしかなかった。
過剰な演出のない事実に沿った細密な描写には好感をもつ。

「成功した失敗」と讃えられたという。
結果的に讃えらえたが、こんな目に逢いたいと思う人はまずいないであろう、、、。
なお、ケン・マッティングレイはアポロ16号に搭乗している。
(恐らく意地がある。ちなみに一度も風疹は発症していない)。
下手なSFでは到底届かぬ緻密なディテールがあった。
SF映画を作るならこの精度でやってもらいたい。

- 関連記事
-
- ケープ・フィアー
- アメリカン・スナイパー
- アポロ13号
- 戦艦ポチョムキン
- 愛を綴る女